コショマーレからの依頼
ニーテが店から出てくるまで、広場の噴水で買ってきたばかりの本を読むことにした。
まずは、試験によって覚えられる職業一覧。
やはりというか、生産系の職業が多い。
見習い料理人とか、見習い裁縫師とか、見習いと付く生産系職業は講習とテストで覚えるのだろう。
本の最後には、シララキ王国とその近隣諸国に住む教官が種族別に記されてあった。
しかし、本の発行日はアザワルド歴350年。いまはアザワルド歴391年らしいから、この本は四十年以上前の本ということになる。
この世界の人間の平均寿命が何歳かは知らないけれど、しかし教官の名前は当てにならないだろう。
「ん? よく見るとドワーフやダークエルフの名前もあるな」
ドワーフはドクスコしか知らないし、あいつは教官ではないので知らないが、彼らの寿命は人間よりはるかに長いという。まだ生きている可能性もある。
そして、ダークエルフ――こちらはひとりしかいない。
しかし、その名前に聞き覚えがあった。
ルリーナ。
管理者というスキルを持っている少女だ。見た目俺より若そうに見えるんだけど、実はかなり年上だったようだ。
ちなみに、この本によると彼女の許でテストを受けて覚えられる職業は、見習い料理人、宝石職人、キノコ鑑定士の三つらしい。
見習い料理人と宝石職人は少し興味があるが、キノコ鑑定士ってなんだ?
採取人の植物鑑定でキノコも鑑定できるので、本当に必要なのかどうかわからない。
次に、伝承ボスについて書かれた本を見る。
こちらはシララキ王国近隣諸国だけでなく、いろいろなダンジョンの伝承ボスの情報があった。
ケット・シーの秘密のダンジョンであるルー・カンガについての情報はないから、すべてを網羅しているというわけではなさそうだ。
まぁ、未踏破の迷宮とかもあるかもしれないからな。
「フロアランスにも伝承ボスがいたのか」
俺はそうひとりごちた。
上級ダンジョンの七十六階に、チーターチーターという豹がいるらしい。その豹とフロア一周の競争をし、勝つことができたらランナーの職業が手に入るそうだ。
しかし、そのチーターチーターは人間にはまず通り抜けられないような穴を通ったり壁を乗り越えたりとズルをするため、勝つことは非常に難しいのだとか。
なるほど、最初のチーターは、いかさまをする奴って意味のチーターなのか。ダジャレのようになったのはただの偶然だろうか?
それとも女神様の遊び心?
「旦那様、買ってきたぜ」
「おう、ご苦労さ――凄い荷物だな」
布袋のお化けがいるのかと思った。
ニーテの顔が隠れて見えないくらいだ。
「本当に重いぞ。アイテムバッグに入れてくれ」
「わかった」
俺はアイテムバッグを広げ、中に荷物を収納した。
あとは、何を買おうか……そう思ったのだが、買い物を楽しむのはもう終わりらしい。
「マスター、トレールール様から伝言が――正しくは、コショマーレ様からの伝言――というか依頼のようなものがトレールール様経由であたしにきた」
「……えっと、伝言って、それは本当なのか?」
「ああ、あたしたちはトレールール様に作られたホムンクルスだからな。伝言くらい下着の試着をしながらでも聞くことができる」
下着の試着をしながら聞いていたのか。
でも、コショマーレ様からの依頼か……。
コショマーレ様は、俺がこの世界に来たとき、自由に生きていいって言ってくれた。
そのコショマーレ様が依頼という形とはいえ俺に何かさせようとするのなら、俺は行動に移したいと思う。
もちろん、物を盗めとか人を殺せみたいな犯罪めいた依頼なら断るが。
凡ミスで一度は盗賊に堕ちてしまった俺だが、しかし犯罪者になるつもりは毛頭ない。
しかし、ドラゴンを倒せとか、グリフォンを手懐けろ、みたいな本来ならかなり苦労するであろう依頼くらいなら引き受けるつもりでいる。
いや、コショマーレ様には随分世話になった。その恩を少しでも返せるというのなら、俺は喜んで引き受けよう。
「えっと、旦那様に無職に戻ってほしいみたいなんだ」
「イヤだ!」
自分でも驚くほどに、俺は即答していた。




