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トカゲ祭り

 飲み込まれていく冒険者を見て、俺は一歩も動けなかった。

 スラッシュを打ち込めば……いや、そんなことしたらたとえ倒せたとしても中にいる人まで傷つけてしまう。それに、スラッシュの一撃で倒せるとは到底思えなかった。

 

 インド象くらいの大きさのある巨大トカゲと俺達の間には、狼程度の大きさのトカゲがうようよいる。


「こいつはやばいな、エリーズ」

「やばいわね、ジョフレ」


 ジョフレとエリーズが固唾を飲んで、去っていく巨大トカゲを見ていた。

 あぁ、やばい。


「食事中におしかけるのはマナー違反だったよな」

「ぎりぎり食事中だったわよね」


 そういう問題じゃない。そう言おうとしたが、


「……とか冗談を言っている余裕はなさそうだな」

「……とか冗談を言っている余裕はないわね」


 流石に人が死んでいるのを見ているだけあって、ジョフレとエリーズも緊張しているようだ。


 残りのトカゲは全員、巨大トカゲのほうを見ていた。


 こいつらが一斉にこちらに襲い掛かってきたらと思うと、寒気しかしない。

 巨大トカゲは冒険者の男を飲み込むと、俺達のいる方向とは反対方向に去って行った。

 そして、その巨大トカゲを見送った残りのトカゲは、一斉にこちらを見てきた。

 やばい、本能的にそう思った。


「ご主人様! 炎の魔法を使ってください! トカゲは炎が苦手です」

「わ、わかった! プチファイヤ!」


 俺の手のひらから生み出された炎の弾がトカゲに衝突すると、トカゲははじけ飛び、魔石と肉、鱗を残した。

 炎は土床の上をくすぶっており、確かに炎には近付こうとしない。


「スラッシュ! 一度55階層に戻るぞ! お前等もだ!」

「スラッシュ! はい!」


 俺とハルはスラッシュで相手を牽制しながら逃げる準備をした。


「おう、かつて逃げ足チャンピオンと呼ばれた僕の実力、しかと見届けろ!」

「なら、私は敗走の韋駄天と呼ばれた実力を見せるわ!」


 こいつらも逃げる気満々だったようだ。その二つ名は絶対にいらないけど、二人にはぴったりだと思う。

 幸い、魔物は別階層までは追ってこないというのが常識らしく、55階層に到着し、俺は息をついた。


【イチノジョウのレベルが上がった】


 戦闘が終わったことで経験値が入ったようだ。

 ジョフレとエリーズにも経験値が入っているだろうが、フィッシュリザード2匹倒したところで、40匹分の経験値の半分を4人で分けているようなものだから、一人頭5匹分の経験値だ。そう簡単にはレベルは上がらないだろう。ハルが倒した1匹分でも、二人に入るのは0.1匹分くらいだし。


「お、エリーズ、レベルが上がったよ」

「私もレベルが上がったわ、ついてるわね」


 ……結構簡単にレベルが上がったようだ。

 まぁ、レベル1上がったくらいなら偶然と思うか。


「にしてもあのでかいトカゲはなんなんだ? 冒険者が食われていたが……」

「変異種でしょう。色が異なる、大きさが異なるレア種の中でも特別のものです。強くなり、かつ繁殖力が増し、魔物の大発生にもつながります。発見報告があり次第、冒険者ギルドとしては特A級に討伐命令がでます……事態が発生したばかりだといいんですが……あれだけの数となると……」


 ハルが続きを言おうとした、その時だった。

 階段から気配が上がってきた。


 フィッシュリザードの群れだ。4匹、階段を登って55階層に来やがった。


「繁殖から時間が経つと、階層の魔力が薄くなり、魔物は魔力の豊富な他の層、もしくは地上に溢れ出ます。このまま55階層に来られたら、転移陣を使い地上に出る恐れも!」

「聞いたか、エリーズ、ジョフレ、二人はギルドに行って今のことを報告してきてくれ! ここは俺達が食い止めている。逃げ足チャンピオンと敗走の韋駄天の実力、見せてくれよ」


 俺が不敵に笑うと、二人はにっと笑い、


「わかった、任せておけ、初心者ルーキー!」

「死んだらそこにお墓を作ってあげるから!」


 そう言い残して、転移陣めがけて走って行った。

 最後まで不吉なことをいいやがる。


「ハル、仲良しリングを外しておいてくれ。ここから、成長の時間だ!」


 剣をアイテムバッグにしまう。


 拳闘士のボーナス経験値は、素手で獲物を倒すと経験値が上がると、マーガレットさんに聞いていた。

 なので、試させてもらうぜ。


 俺は地を蹴り、トカゲの脳天に掌打を加えた。

 それでトカゲは地に沈む。


 次に、俺は両腕をクロスにし、スラッシュ! と叫んだ。

 二本の剣を扱うことはできないが、二本の腕は生まれたときから扱っているんだ。


 ハルが俺に見せてくれた二刀流のスラッシュを、手刀で再現してみせた。


「ハル、そっちに――いや、大丈夫か」


 こんなトカゲ、ハルの敵じゃない。

 振り向いたときにはトカゲはVの字に切り裂かれ、魔石と鱗に変わっていた。


【イチノジョウのレベルが上がった】

【見習い魔術師スキル:風魔法を取得した】

【拳闘士スキル:物防強化(微)】


 よし、風魔法も覚えたし、防御力も上がった。


「ハル、暫くはヒットアンドアウェイ作戦でいく。56階層に行って敵を倒し、経験値を稼いで撤退を繰り返すぞ。巨大トカゲが出てきたら迷わず退散だ」

「はい、ご主人様!」


 俺は階段を降りて牽制に、


「プチファイヤ!」


 炎の魔法を放つ。再使用時間まで10秒、その間に拳でトカゲを倒し続けていく。

 ハルは一匹に一撃、ないしは二撃をトカゲに打ち込んでは倒し、俺は確実に一撃で仕留めていく。10秒経過と同時に、プチファイヤで攻撃。

 アイテムを回収している暇がないくらい殴り続けたとき、前方から巨大なそれが歩いてきた。

 でかいトカゲだ!


「プチファイヤ! 逃げるぞ!」

「はい、ご主人様!」


 あの図体ならこの階段は上ってこれまい!


 俺達が階段を上り終えたとき、それは起こった。


【イチノジョウのレベルが上がった】

【無職スキル:第四職業解放が第五職業解放にスキルアップした】

【無職スキル:職業鑑定が職業鑑定Ⅱにスキルアップした】

【剣士スキル:回転切りが回転切りⅡにスキルアップした】

【見習い魔術師スキル:土魔法を取得した】

【職業:魔術師が解放された】

【拳闘士スキル:HP強化(微)を取得した】

【自動的に第五職業を平民Lv15に設定しました】


「はっ」


 俺は笑った。今、何匹トカゲを倒した?

 60匹? いや、80匹は倒した。

 ということは、ハルに渡った経験値を除いても、24000匹分倒したのと同じ成長をしたことになる。


 そりゃすごいわ。5分で1匹倒しても120000分……つまり2000時間かかる作業をしたんだから。普通は魔物を探すのにも時間がかかるからな。


 無職が60に、剣士が17に、見習い魔術師が20に、拳闘士が14にレベルアップしていた。

 と同時に第五職業も解放され……それを俺は行商人に設定し、見習い魔術師を魔術師にした。


 さて、これでどうするか。


「ハルもレベルが上がったのか?」

「はい、獣剣士レベル6になり、嗅覚強化を修得いたしました」

「そうか、まだいけそうか?」

「はい、余裕です」

「そうか……今ならあのデカブツを倒せそうだな」


 俺はそう言って、ほくそ笑んだ。

トカゲフィーバー。ステータスは一章の最後に表示します。

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