牛確保!
考えておくとは言ったものの、そのあとは特に特筆するべき魔物は出てこなかった。
それでも経験値四百倍の恩恵か、僅かな魔物でも数をこなせばしっかりレベルは上がった。
まとめると、
【イチノジョウのレベルが上がった】
【闇魔術師スキル:魔防強化(王)が魔防強化(帝)にスキルアップした】
【光魔術師スキル:魔防強化(帝)が魔防強化(皇)にスキルアップした】
【侍スキル:斬鉄を取得した】
【職業:侍大将が解放された】
【アウトドアシェフ:防腐を取得した】
【アウトドアシェフ:消毒を取得した】
防腐を使うと食べ物が腐りにくくなるそうなのだが、これはアイテムバッグがあるから意味がない。消毒についても浄化の下位互換だから必要ないな。
いや、防腐は食べ物を売るときには便利かもしれないから使うときがあるかもしれない。
職業、侍大将か……ここまでくると職業に関する情報が少ないな。
そして――予定よりも早い三日目の夕方。
「見えたっ! あれがゴーツロッキーだっ!」
キッコリが声を上げた。
俺は鷹の目を使って時折周辺を確認していたのでわかっていたけれど、やっぱり肉眼で見えると嬉しいな。
久しぶりの、城壁に囲まれた大きな町だ。いや、あれは都市国家なんだったか。
「……ん? 引っ越しかな」
大家族らしい一団が、スーギュー三頭にそれぞれ荷車を曳かせていた。荷車には家財道具一式が載せられていたが、移動に難儀しているようだ。
「無茶するな。スーギューは肉も乳もうまいが、荷物を曳く牛じゃない。水を求めて移動するが、それは本能によるもので人間の言う通りに移動させるのは至難だ。そのうち、諦めるだろうな」
「へぇ、そうなのか」
牛にもいろいろとあるんだな。
スーギューは肉も乳も美味しいのか。
どこか売っているところはあるかな? ぜひともマイワールドの家畜にしたい。
あの時の群れを二、三頭捕まえておけばよかったかな。
引っ越しは大変そうだが、俺にできることはないので、横目で見送り、そのままゴーツロッキーを目指した。
そこで、おそらく最後であろうトラブルが俺たちを待ち受けていた。
つまり、入れないのだ。
牛がでかすぎて。
門のサイズの問題ではない。単純に、こんな大きな牛が町中を歩けば市民が不安になるというものだった。
幸い、氷漬けの竜の引き渡しは町の入り口で衛兵に引き渡すことで完了した。
依頼の報酬として、銀貨二百枚、二万センスを受け取る。
そして、四人で山分けということで、ひとり五千センスということになる。
はずだったのだが。
「おいおい、なんだ、これ。ゴーツ札?」
受け取ったのは、お札の束だった。
インセプが訝し気に札を見る。
「なんだ、インセプ。知らないのか? この国では貨幣として使えるのはこのゴーツ札だけなんだ。仕事の依頼でもらえるのも、このゴーツ札だ。勿論、町の両替商で換金は可能だ。ちなみに、百ゴーツで一センスだから、五千センスなら五十万ゴーツってことになる」
「五十万っ!? なんだ、凄い金持ちになった気分になるな」
金額だけ聞いてインセプが嬉しそうに紙を見た。
日本人である俺も五十枚もの札束に少し興奮する。
まぁ、この国から去る時に換金しないといけないんだけれども。
「ふぅ、依頼終了だ……が、この牛どうするか」
「丸焼きにするか?」
「――この牛は美味い種族じゃない」
……そうだ、決めたっ!
「なぁ、ロック鳥を倒したときの報酬だが、この金属の台車とこの牛をくれないか?」
「は? 聞いてなかったのか、イチノジョウさん。この牛はうまくないぞ……って、あっ! ロック鳥の肉も保存してたし、さてはイチノジョウさん、ゲテモノ好きだなっ!」
「いや、それは俺のキャラじゃない」
というか、肉は食わないからな。
「ここ数日楽しかったよ。ちょっと、俺は用事があるから、もう行くわ」
「もうか!? あ、そうか、そういうことだ。まったく、お人好しだな、兄ちゃんは。ああ、その牛と台車は持って行ってくれて構わないよ。なにかあったら、傭兵ギルドを通じて俺に連絡――いや、俺たちはしばらくこの町で飲んでるから、なにかあったら来てくれ」
「あぁ、寄らせてもらうよ」
俺は礼を言うと、巨大牛のウーシーを連れて今来た道を引き返した。
すぐに目的の大家族に追いついた。
「おーいっ!」
「ん? なんだ?」
「引っ越しするんだろっ! スーギューだといつまでたっても進まないだろ。この牛を使ってくれっ!」
「……悪い、金はないんだ」
「金はいい。この台車があればあんたたちの三台分の荷、全部載せられるだろ?」
「いいのか?」
「ああ、その代わり、そのスーギューを譲ってくれないか? このままだとここに置いていくしかないだろ? 当然、金は払う」
「い、いや! 金はいい! こんな大きな牛と台車があれば、田舎に帰っても別の仕事を始められる! それに、あんたの言う通りこのままではこいつらを殺すしかなかったんだ。魔物とは言え今までずっと一緒に過ごした家族のようなものだったから殺すのは忍びない」
「よし、交渉成立だ!」
「ああ、本当にありがとう。安心してくれ、こいつらは病気には罹っていないからな」
病気? よくわからないけど、健康ってことか。
俺は荷物を金属製の台車に移し替える手伝いをした。
「じゃあな、ウーシー。お前には襲われそうになったけど、まぁ楽しい旅だったよ」
俺はウーシーの顎を優しく撫でて、別れを告げた。
そして、スーギュー三頭を代わりに受け取り、大家族を見送った。
「ふぅ、やっと帰って来られたな」
マイワールドに、スーギューを三頭連れて帰ってきた。
やっぱり我が家が一番だな。
と思っていたら、メイド服のニーテが俺を出迎えてきた。
「おかえりなさいませだぜ、ご主人様! 無職から牛飼いに転職したのか?」
「してねぇよ。牛飼いって職業あるのか?」
「ステーキにする? すき焼きにする? それともに・く・じゃ・が?」
「食わねぇよ――いや、いずれ食うけれど、ここで家畜にするんだよ」
俺がそう言ったら、いつの間にか、ナース服姿のピオニアが現れて――いまどきナースキャップ被ってる看護師はいねぇよ――スーギューの検診を始めた。
ピオニアのコスプレのレパートリーは本当に多いな。これで引きこもりだというのだから驚かされる。
「病気の感染は認められません。マスター、家畜小屋とスーギューが好む沼地の作成許可をお願いします」
「あぁ、いいぞ」
「それでは、水草の種をいくつかご用意ください」
「わかった……取りに行くのも面倒だし、冒険者ギルドにでも依頼してみるよ。とりあえず、それまでは野菜でも食べさせてやってくれ」
「かしこまりました」
三人でフユン用の牧草地へと向かう。
フユンにとって、自分の縄張りを新たな牛に荒らされる形になるわけだが、フユンは俺たちがやってきても別段気にする様子もなく優雅に水を飲んでいた。
スーギューたちは草よりも近くの泉を目指して歩いていった。
「ピオニア、俺がいない間になにか変わったことはないか?」
「なぁ、なんでマスターはあたしに聞かないんだ?」
ニーテが横目で俺に尋ねるが、報告なら事務口調のピオニアが適任だからな。
「報告が三つあります」
「順番に教えてくれ」
「まず、マスターが用意した黒鶏が卵を計五十個産みました。うち、八個は無精卵ですので食用に。四十二個は有精卵でしたので孵化させて第二世代の鶏として育てる計画です」
「五十個? そんなに産んだのか?」
「あたしが最適な餌を与えているからな」
「へぇ、やるな、ニーテ」
「おうっ! あたしの自慢のポニーテールが何度も啄まれたけどな」
「大丈夫なのか?」
「マスター、あたしのステータスを見ただろっ! あたしは無敵だからなっ! 私を倒したければロケットランチャーでも持ってこいってんだ……あ、マスターのブースト太古の浄化炎を使われたら死ぬかもな」
安心しろ、そんな魔法使うつもりはない。
「……あれはまぁ桁外れの魔法だからな。俺もできればあまり使いたくない」
「確かに、あれに使うくらいならあたしたちに魔力を補給してほしいよな」
「賛同します。魔力の補給を要求します。ダークエルフたちからも魔力の供給は可能ですが、味が全然違います。二つ目の報告ですが、マイワールドの改築にともない魔力が不足しています。マスター、魔力の補給をお願いします」
「あぁ、わかった。マッサージされたらいいのか?」
「いいえ、効率よく魔力の補給をするために、マスターの魔力を体液に変換して補給しようと思います」
「なっ! 体液ってお前、何をするつもりだっ!」
まさか、ピオニアの奴、俺に変なことをするつもりじゃ。
次回、ノクターン行きかっ!?
今日は成長チートのコミカライズ4巻の発売日です!
キャロがとってもかわいいので、ぜひご覧になってください。裏表紙では、あのキャラがとんでもないことをしていますので、そちらもあわせてご覧ください。
まったく関係のない話ですが、今日アルファポリス様より「勘違いの工房主」という本が発売されます。
書店様に足を運ばれたときは、そちらも手にとって確認していただけると僥倖です。
明日はコミカライズ版の更新日です。
(お知らせいっぱいですみません)
 




