呪槍士の悪あがき
連続更新三話目です
改めて、三人とあいさつを終えた。
まず、三人の名前と職業、経歴については以下の通り。
木こりのおっちゃんこと、キッコリ・ボッコ。
職業は木こり。レベルはひとつ上がって18。
実は傭兵になるのは二度目であり、元々斧士だったが木こりに戻って働いていたそうだ。割込み君や歴戦風さんよりも一撃の攻撃力が高そうに思えたのは、武器が斧だからというわけではなく、斧士としてのスキルもあったのかもしれない。
次に、割込み君こと、インセプ・プート。
職業は見習い剣士。レベルは以前と同様27。
南大陸の南東にある小国の出身で、一旗揚げるためにニックプラン公国にやってきたそうだ。村では一番の強者だったそうだ。
最後に、歴戦風さんこと、チュートゥ。
職業は前と変わって剣士。レベルは2。
ステータスは三人の中で一番低い。
いろいろと話を聞いたけれど、俺のスキル「思考トレース」を使ったところ、全てがチュートゥの創作の話であることが判明したのでほとんど聞き流した。
なので三人の中で唯一経歴不明。
しかし、戦いの技術は一流らしく、ステータスには似つかわしくない活躍もしているようだ。
ちなみに、キッコリとインセプに名字なようなものがあるが、ふたりとも貴族というわけではない。
キッコリは実家が魚介類を売買する交易商の元締めのようなことをしていて、その功績により貴族から一族全員、家名を授かったそうだ。
インセプの場合は家名ではなく、村の名前らしい。南大陸の一部の村や町では、名字の代わりに自分の村の名前を使い、どこそこ村のだれそれです――という意味で名乗るらしい。
あと、俺の自己紹介は、
「名前は知っていると思うが、イチノジョウだ。職業は……まぁいろいろとやってきて言えないけれど、大抵のことはできると思っている。フロアランスにいたんだけれども、恩人がマレイグルリにいるということがわかって、そこを目指していろいろと寄り道しながら旅をしているんだ」
と嘘は言わず、しかし肝心はことはなにも話さなかった。
まぁ、一週間足らずという短い期間限定の付き合いだし、盗賊や魔物の話も出る可能性があるってだけで、必要はないだろう。
ちなみに、仲間として忘れてはいけないのがもう一頭。
象のように巨大な牛で、この台車を曳くらしい。
馬力があるとか言っていたからてっきりばん馬のような荷運びに特化した馬かと思ったら、牛だったのか。
角を見ると、なぜか巨大な角の先だけ切り落とされている。周りの人を傷つけないためだろうか
あれ? でもあの牛の角の先、なんとなく形が想像できるんだけど……というか、どこかで見た気がする。
気にしてもわからないので、誰かに聞こうとしたところ、
「イチノジョウ、もう出発するのか?」
とドクスコが声をかけてきた。
そして、角の行方もわかった。
「世話になったなドクスコ。昨日も言ったが、また来るよ。それより、お前がいま被っている兜の角、もしかしなくてもこの牛の角だよな?」
「あぁそうだぞ。この牛はもともと、こいつらの仲間だった魔物使いが扱っていた魔物でな。酔っぱらって酒場で暴れた時に酒場に乱入してきたから儂が角を切り落とした。せっかくなので儂が貰って、兜に加工したわけだ」
「そうか、いろいろと納得いったよ。でも、魔物使いがいないのにこの牛を使っても大丈夫なのか?」
「人に懐く種族だから問題あるまい――と思っていたが、牛とは別に少し困ったことがあってな」
困ったこと?
「ああ。まぁ、イチノジョウには関係ないと思うが――」
※※※
「はぁ、伏線とかフラグって本当にあるんだな」
関係ないと言われたことが関係あるっていうのはよくあることらしい。
いまにして思えば、牛が欲しいって言っていたところから、すでにこういう伏線だったのだろう。
「落ち着いている場合じゃないぞ、兄ちゃん!」
キッコリが言うけれど、これで落ち着かずにいられるか。
もうツッコミとか疲れるよ。
「ギャハハハっ! その荷は俺たちが貰ってやるぜ!」
そう言って叫んでいるのは盗賊ではない。
本来ならドワーフの村に拘束されているはずの新進気鋭の(元)冒険者グループだ。
ドワーフの村を出る時、
『イチノジョウには関係ないと思うが、牢屋に拘留していた冒険者グループが逃げた。昨日、牢屋の見張りが、セーシュを飲むために仕事を放って酒場に来たのが原因らしい。すまんが、気を付けろよ』
と言われたときに、何故かこうなる未来が予想できた。
装備もなにもかも奪い返されやがって、面倒だな。
犯罪者として拘束されるくらいなら、この氷漬けの竜を奪い、どこかの貴族やお偉いさんのところに身売りしよう――そう企んで俺たちを待ち伏せにしていたらしい。
「酒を飲んで暴れたのも、酒を飲めば性格が変わるというわけじゃなく、酒を飲めば本性がさらけ出されただけだったのかな?」
「だから、そんなこと言ってる場合じゃない! あいつらは本当に強いんだ!」
インセプが叫んだ。
うん、強いのはわかる。
四人組の職業を見たらよくわかった。
【呪槍士:Lv43】
【狩人:Lv26】
【マ物使い:Lv6】
【見習い魔術師:Lv23】
バランスの取れているパーティ構成だ。ちなみに、全員若い男。
十代だろうか?
槍士ではなく、呪槍士。
魔物使いではなく、マ物使いなのは気になるけれど。
どことなく、ダキャットで出会ったフリオやスッチーノと雰囲気が似ていた。
回復魔法を使える者はいないけれど、木こりと見習い剣士ふたりなんかよりははるかにいい。
「酒を盗んだっていっても、犯罪職に堕ちてないんだな」
「ドワーフの秘酒っていうのもドワーフ以外が飲んだら倒れるってだけで、別に貴重なものではない。暴れて怪我人が出そうにはなったが、ドクスコが未然に防いでくれたからな。そういう事情で犯罪職にはならなかったんだろう」
そういう事情か。
全ての犯罪者が犯罪職になるってわけじゃないんだな。そういえば、ベラスラの町でも犯罪職にならないぎりぎりの恐喝をしてくる小悪党に出くわしたことがあったっけ。
カノンだって、最初に会ったときは詐欺師まがいのことをしていたけれど、犯罪職になっていなかった。
それに、戦争が起こって無実の人間を殺しても、殺した兵が犯罪職に堕ちることはない。
そう思うと、犯罪職に堕ちるための条件って、結構穴があるんだな。
とはいえ――
「こんなことを続けたら、お前らさすがに盗賊堕ちになるだろ? せっかく犯罪職に堕ちるのを免れたんだ、更生できるように頑張れよっ!」
「覚悟の上よっ! どうせ俺たちはこのまま町に戻れば賠償金が払えなくて犯罪奴隷堕ちだっ! 奴隷になるくらいなら盗賊になってやるっ!」
リーダーらしい呪槍士の男が叫んだ。
「奴隷になったら人生終わりみたいに言うなよ。奴隷になっても楽しく生きてる奴もいるだろ」
「そんなの極稀だっ!」
「犯罪奴隷になっても解放してくれる主人もいるかもしれないだろ?」
「そんなうまい話、あるわけないだろっ!」
まぁ、そうだよな。
俺がハルを解放する手筈はしているが、それは単純にハルのことを信用できるし、なにより彼女が大好きだからってだけの理由だ。
こいつらが犯罪奴隷になっても、きっと俺は彼らを助けようとは思わないだろう。彼らを買うことになる人間もそうだ。日頃の行いって、やっぱり大切だよな。
「覚悟しろっ! お前らの命も荷も全部奪ってやる」
「無限の矢がお前たちを射貫くぞ!」
「いけ、ウッシー! お前の巨体でその雑魚たちを踏みつぶせ!」
「俺の火炎球がお前たちを飲み込む」
ということで戦いが始まったんだが、結果は完勝だったな。
新進気鋭の冒険者グループといっても、呪槍士以外はレベルも高くない。ピコピコハンマー&竜巻切りで大部隊を全滅させた俺の敵じゃない。
まぁ、竜巻切り&ピコピコハンマーを使うと、戦争で起こったピコピコハンマー竜巻切りの犯人が俺だとバレてしまう可能性もあるので、今回は封印。ピコピコハンマーの音を聞かれるのも避けたい。
まず、最初に倒したのは見習い魔術師だった。
プチファイヤーを使ってきたんだが、その炎が生まれるまでの時間が長い長い。魔力の込め方がなっていない。投擲スキルを使い、炎ができるまでに油壺を投げたところ、魔法が暴発して死なない程度の火だるまになって地面を転がっていた。
火だるまになった見習い魔術師を見て、キッコリたちが驚いている隙に、キッコリたちの周囲に沈黙の部屋を発動。これでピコピコハンマーの音が三人の耳に届くことは無くなった。
俺を襲ってきた牛は、ピコピコハンマーを使って軽く殴って気絶させた。
弓士の照準が甘く、無数の矢がキッコリにまで降り注いできたときにはさすがにヤバイと思ったが、プチシールドをキッコリにかけたところ、命中しても体に刺さることはなかった。ちなみに、俺に飛んできた矢は全部刀で叩き落とした。弓士も放っておくと厄介なので、ピコピコハンマーのクールタイムが終わった直後にスラッシュとピコピコハンマーを組み合わせて放ち気絶させた。
呪槍士が俺に接近戦を挑んでくるが、それこそ無謀だった。
俺の白狼牙が、呪槍士の槍をいとも簡単に輪切りにしたことで、呪槍士は戦意喪失し、その場に膝折れた。仲間たちが次々やられたのを見て、恐怖の感情が怒りの感情を上回ったのだろう。マ物使いは一目散にと逃げ出したが、スラッシュとピコピコハンマーのクールタイムも終わったので再度同じ技で眠らせる。
ということで完勝だ。
キッコリたちが口をパクパクさせて驚いて……あ、いや、沈黙の部屋のせいで声が聞こえないだけか。沈黙の部屋を解除する。
「――い、凄い! さすがイチノジョウさん」
「兄ちゃん、強いと思っていたが本当に凄いな」
「さすがは僕の永遠の強敵だ」
インセプが俺に尊敬の眼差しを浮かべ、キッコリが脂汗を流して驚いている。
あと、チュートゥとはライバルになったつもりはない。強敵と書いてライバルと読む関係になった覚えはもっとない。
「しかし、さっきの魔法はなんなんだ? 急に周りから音が聞こえなくなったが」
「あぁ、ちょっとした保護魔法みたいなもんだ。気にすんな」
ピコピコハンマーの音を聞かれないための魔法だということは黙っておく。
「こやつらの治療もお願いします」
全身火傷を負っている見習い魔術師の治療をしていると、チュートゥが瀕死のマ物使いと弓士を連れてきた。
……あれ? ピコピコハンマーを使ったうえ、かなり手加減したはずなのにこいつらのほうが重症っぽい。
そうか、鋼鉄の剣を使っていた感覚で手加減していたが、刀は切ることに特化している。スラッシュの威力も格段に上がっているのだろう。
となると、白狼牙を使う以上、今後は気絶させることだけを目的とするなら、もっと手加減をしないといけないな。
「しかし、回復魔法まで使えるのか……さすが準貴族様だな」
「嗜み程度だよ」
自分で謙遜して言ったが、嗜みってなんだよって思う。
「どうする? マ物使いの命令を解除しないと、牛が目を覚ました途端、俺を襲ってくる……なんてことにはならないよな?」
「大丈夫だ。普通、魔物使いが気絶した時点で、その命令は解除されるからな」
「こいつは普通の魔物使いじゃないだろ?」
「違うのか?」
……あれ? もしかして、キッコリたちはこいつが魔物使いではなく、マ物使いであることを知らないのだろうか?
「……うそだ、おれのやりがつうじないなんて」
呪槍士がぶつぶつと言っていると、急に立ち上がった。
そして――
「うそだっ!」
突如、呪槍士が叫んだ。
その槍から、黒い矢のようなものが俺に目がけて飛んできた。
「ちっ!」
舌打ちし、その黒い矢のようなものを切り落とした――と思ったのだが、斬られた黒い矢はふたつにわかれて俺に刺さった。
「……俺の勝ち……だ」
呪槍士がその場に倒れた。
そして攻撃を受けた俺は――
【職業:盗賊が解放された】
【職業:山賊が解放された】
【職業:海賊が解放された】
【職業:デスウォーリアーが解放された】
【職業:辻斬り犯が解放された】
【職業:チンピラが解放された】
【職業:カオスウィザードが解放された】
【職業:贖罪者が解放された】
…………え?




