そういえば聞いてなかったな
連続投降二話目です
酒宴で、ドワーフたちは結局清酒を五樽も空にしてくれた。想定の範囲内だが、しかし清酒だけでなく、アブサンやラガーも飲んでいるというので恐ろしい。
俺は墓場から酒場に戻らず、そのままドクスコの家の客間を借りて一泊した。
そして翌朝。
二日酔いの傭兵たちと合流した。
荷物は倉庫に預けられていたそうで、それを引き取りに行く。
倉庫――というか、それは巨大な冷凍庫のような場所だった。
冷蔵庫もあるって言っていたからもしかしたらって思ったけれど。
「まさか、荷物ってこれなのか?」
「そうだ。凄いだろ」
割込み君がドヤ顔で言った。でも、そのドヤ顔があまり気にならないくらい、確かにその荷物の見た目は凄かった。
「凄い……な」
そこにあったのは、氷漬けになっているドラゴンだった。
鈴木が一緒に行動しているワイバーンと同じくらいだ。
金属製の台車に載せられている。
「これで子供だっていうから驚きだな」
「よくこんな山の上まで運んでこられたな。道は整備されていたけど坂道は結構急だっただろ?」
「一番馬力のある奴を借りてきたからな。ここでドラゴンを再度氷漬けにしないといけなかったから仕方なかったんだ」
「わざわざ再度氷漬けにする必要があるのか?」
「そりゃ、凍らせないと暴れるだろ?」
――え?
俺の聞き間違いでなければ、凍らせないと暴れるって言ったか?
気配探知のスキルを使ってみる。
「嘘だろ、生きているのかっ!?」
いや、俺だってエメラルタートルを生きたまま氷漬けにしたことはあるけれど、まさかドラゴンを生きたまま凍らせるなんて。
「死んでいないぞ。死んでいたら意味がないからな」
「死んだら意味がない? あぁ、もしかして解凍蘇生して生体実験にするとか、動物園の見世物にするとかそういうのか?」
「――イチノジョウさん、そうじゃないぞ。これは東の傭兵の国ゴーツロッキーの王妃様に献上し、殺してもらうんだ」
割込み君が説明したが、ますますわからん。
生きたまま運んでわざわざ殺してもらう?
「本当にわかってないという顔だな。イチノジョウ、パーティを組んでいないグループが魔物を倒したとき経験値は誰がもらえるか知っているだろ?」
「ああ、それは知っている」
ラストアタック――つまり最後に殺した人が経験値を総取り。
って、あぁっ! そういうことか。
「つまり、死ぬ寸前まで弱らせたドラゴンの経験値だけ貴族が貰うってことか」
「正解だ。ドラゴンは魔物の中でも経験値は高い方だからな」
「そんな方法でレベル上げをするのか。ズ……さすが貴族様だな」
ズルいと言いそうになったが、そんなこと言ったら不敬罪になりそうだな。
俺だってズルいと言われるレベルアップ方法は山程してきた。そもそも、俺の二種類の天恵が最大のズルなんだから、俺に文句を言う資格はないだろう。
「それで、わざわざ凍らせて運んでるのか。で、なんでお前らはここで足止めになったんだ?」
「このドラゴンの護送は俺たちと別のパーティの二グループでしていたんだ。高価な品だからな。そのグループっていうのは、新進気鋭の若手冒険者グループで、正直その実力は俺たちよりも遥かに上だった。頼りになる反面、嫉妬もしたよ」
割込み君は悔しそうに言った。
なるほど、木こりに見習い剣士ふたりというバランスも悪く決して強いとは言えないパーティがどうしてこんな凄い荷物を運んでいるのかと思ったが、こいつらだけじゃなかったのか。
「本当に凄い奴らだった。途中現れたロックゴーレムも剣と魔法で倒しちまってな。それで、旅は順調――予定通りこの村までたどり着いたんだ。そこで事件が起きた」
俺は息を呑んだ。
話に出ていた新進気鋭の冒険者グループというのは見当たらない。とすると、どうしても最悪な想像しかできない。
「まさか、全員何者かに殺された……のか?」
「いや、死んではいない。しかし重体だ」
死んでいないのならよかった……というべきだろうか?
いや、しかし重体ということは、もしかしたら、冒険者としてもう活動できないくらいの状態になっているんじゃないだろうか?
そう思うと、一概にもよかったとは言えない。
「本当にいまでも信じられない。まさか全員、急性アルコール中毒で意識を失うなんて思わなかった」
「酒の飲みすぎかよっ! そうか、新進気鋭って、さては若者のグループだなっ! 酒の飲み方をわかっていない奴に無理やり酒を飲ませるな」
「いや、飲みすぎだってドワーフたちは止めたんだが、奴らが酒を出さないと暴れだしてな。最終的にはドワーフの秘酒にまで手をつけちまって」
「そんなの数日寝たら治るんじゃないのかっ!?」
「奴らが飲んだのはドワーフの秘酒、別名竜殺しと呼ばれる酒だ。そう簡単に治るまい」
歴戦風さんがそんなことを言う。
竜殺しって、ドラゴンを生きたまま運ぼうとしている奴らがそんな酒を飲むなよ。
「それに、奴らが意識を取り戻してもドワーフの秘酒を無断で飲んだ罪が残っているからな。犯罪者として輸送されることになった」
……酒の過ちで一生を台無しにする典型的な例を聞いた気がする。
酒は飲みすぎれば毒になるということを覚えておいてもらいたい。
「俺たちだけでもゴーツロッキーに輸送しようかって案もあったんだが、途中に魔物も盗賊も出る。安全な道を迂回して進めば氷が溶ける。依頼人のユーティングス侯爵から新たな人員を送ってもらえばゴーツロッキーの王妃様に伝えている期限内に届けることが不可能になる。さて、どうしたものかと思っていたところ、兄ちゃんが現れたってわけだ」
「大体の事情はわかった。ちなみに、ゴーツロッキーまで順当に進めば何日くらいかかるんだ?」
「そうだな、ざっと四日といったところか」
「四日か……」
それなら、ハルたちを迎えに行くための時間には十分に間に合う。
こいつらと一緒に行動するとマイワールドに戻れなかったり、俺の無職スキルの存在を知られないように気苦労しそうだけれども、しかし進む方角は一緒だからな。
「わかった――ただし、条件がふたつある」
「あぁ、聞こう」
木こりのおっちゃんは頷いた。
「まず、パーティは組まない。俺はソロで動く」
「それは問題ない。というより、ゴーツロッキーに行くまで冒険者ギルドがあるような町はないからな。パーティを組もうにも組めない」
「次に、俺は目立つのがあまり好きじゃないからな。だから、俺が持っているスキルなどについて知ったことは、ユーティングス侯爵を含め、誰にも言わないでほしい。目立ちたくないんだ」
「条件ってそれだけか? 報酬の話とかはいいのか?」
「それはお前たちと一緒でいいよ――あぁ、条件っていうわけじゃないが、ひとつ頼みがある」
本当に今更だが、俺は三人を見て苦笑しながら尋ねた。
「お前たちの名前、教えてくれないか?」




