無職でも刀鍛冶ならできます(後編)
肉体ブーストのお陰で、一定時間、物理系ステータスが二倍になった。
さらに、もうひとつ。
「闘魂注入!」
鍛冶スキルを使う時限定、MPを消費し、その量に応じて力に上乗せすることができる。
鍛冶師と物攻特化の職業にしているため、MPはそんなに高くはないが、半分消費したところで、物攻値は通常の三倍にも膨れ上がっていた。
「いくぞっ!」
力いっぱい槌を振り下ろした。
直後――床が大地震のように大きく震えた。
「なっ!? 鍛冶スキルを使えばその衝撃はすべて剣に吸収されるはずなのに、衝撃が外に漏れ出ておるっ!? いったい、どんな力を込めればそんなことになるのじゃっ!?」
ドクスコが慄き叫んだ。
解説ご苦労――というか、俺もあんなに揺れて驚いた。
だが、完成したようだ。
槌を上げると、そこには白い鞘と打刀ができていた。
俺は打刀を持ち、出来栄えを見た。
白い刃に刃文が綺麗に浮かび上がっている。素人の鑑定眼だが、結構綺麗なんじゃないだろうか?
というか、この感覚、なにかを思い出すんだよな。いったいなんだ?
「ドクスコ、どうだ?」
俺はできた刀をドクスコに渡した。
「……儂が今まで見てきた刀の中でも屈指の作品だ。イチノジョウ、お主、何者だ? まさか、神匠と呼ばれる鍛冶師ではあるまいな?」
「いや、そんなんじゃない」
ただの無職です――と言えるわけもなく、
「傭兵紛いのことをやっているよ。ここにはもともと、傭兵の手伝いにやってきたんだ」
「そうだったのか。まぁいい――さて、あとは銘入れだな」
「銘入れ? 刀に名前を入れるってことだよな。いいよ、無名の名刀ってことで」
俺は知っての通りネーミングセンスがいいとは言えない。
「そうはいかん。銘入れを行えば、武器の質は上がるからな。闘魂注入ができるのなら銘入れくらいできるだろう?」
「……銘入れをしたほうがよかったのか?」
「切れ味が増したり、壊れにくくなるのは確かだ」
そうだったのか。
なら、鋼鉄の剣にも銘入れをしていたら竜巻切りを使った時に折れることはなかったかもしれない。
「名前はどんなのでもいいのか?」
「儂の経験上、どんな名前でもいいが、しかし名前に込められた意志のようなものが刀剣に影響が出るぞ」
「名前に込められた意志――言霊のようなものか」
そのあたりは、俺の名前が一之丞でありながら、イチノジョウという忌み名を持つというあたりでミリから聞いた覚えがある。
名前というのは力が籠もる……か。
この白い刀を見る。
雪のような白い刀か。
フユンの名前を考える時と同じように堂々巡りが続く。
そういえば、この刀を見たとき、なにかに似ていると思ったんだよな?
いったいなんだ?
白く、綺麗で美しい。
「……あっ!」
俺は気付いた。
この刀を見たときの感覚。ハルと初めて出会ったときの感覚に似ていたんだ。
「決めた。この刀の名前は白狼牙だっ!」
俺がそう宣言した次の瞬間、俺の刀――白狼牙が輝いた。
【イチノジョウのレベルが上がった】
おっと、鍛冶師のレベルが上がったようだ。
ファンタジーチックな話をするのであれば、刀が応えてくれた。そんな気がした。
いや、まぁこの世界はファンタジー小説のような世界なんだけど。
*
そう思うと、剣が応えたというのも気のせいなんかではなく、この感覚が地球のファンタジー小説などに影響を与えているのかもしれないな。
「ドクスコ。じゃあ、白狼牙はお前に渡すな」
「なんでだ? それはお前の刀だ。お前が使え」
「え? 素材はほとんどドクスコから提供してもらったものだし」
「刀がお前に使われることを望んでいるからな」
刀が望んでいる……か。
俺はドクスコに礼を言い、刀を鞘に納めて腰に差した。
剣の時とは違う感覚だが、妙にしっくりとくる。
「試し切りしていいか?」
「まぁ、刀を装備するには侍になって刀装備を取得する必要があるから普通の人間は鞘から抜くことも――」
ドクスコがなにか言いかけたが、俺はさっき使わなかったオーク木材を取り出して投げた。
「居合切りっ!」
鞘から超神速っぽい抜刀術で木片を真っ二つにした。
軽い――なのになんて切れ味だ。
「……本当に驚いた。鍛冶だけでなく侍でもあったのか、イチノジョウは」
「ああ。器用貧乏なんでいろいろな職業に就いては辞めてるんだ(本当は無職だけど)」
心の声が漏れそうになる。
「ドクスコ、それでダイジロウさんについて、教えてくれるんだよな?」
「ああ。儂が知っていることなら教えてやろう」
ドクスコはそういうと、応接室の扉を開けて言った。
「まぁ、そういう話は飲みながらだな。第一応接室に行くぞ!」
……結局飲むのかよ。




