牛を捜して見つけたものは?
俺はゴブリンに案内されて、目的の物を探すために森の奥へと入っていった。
ゴブリン語とかわからないから、あとどのくらいでそれが見つかるかはわからない。ただ、この道はどうやらゴブリンたちが普段から歩く道らしく、土が踏み固められており、獣道となっているようだ。
「グギャっ!」
ゴブリンが前方を指さして声を上げた。
そっちを見ると、二羽の鶏(?)がいた。シルエットは俺がよく知る鶏なのだけれども、それを鶏と判別するのは非常に難しい。
なぜなら、その鶏は真っ黒だったから。普通は真っ赤な鶏冠まで黒い。
ルリーナから、黒い鶏がいると聞いて、ちょっと日に焼けたくらいの鶏だと思っていたが、まさかここまでとは。あの二羽が特別なのか?
と思っていたら、さらにその奥に二羽の鶏を見つけた。そちらも真っ黒だった。
「味は普通の鶏肉だって言ってたけど……美味しいのか?」
俺が小声で尋ねると、ゴブリンは笑顔で頷いた。
ゴブリン的には美味しいらしい。
人間の味覚とゴブリンの味覚の差がわからないから、本当に美味しいかはわからないけれど。
さて、捕まえるか。
ピコピコハンマーで気絶させるのは一番楽なんだが、このピコピコハンマー、無傷で捕まえるというわけではなく、あくまでも致死量に達しないダメージを与えるスキルだ。できることなら、あの鶏は無傷で捕まえたい。
さすがに隠形、埋没スキルを使っても近付き過ぎればバレる。
キャロがいたら、魅了の魔法を使ってもらうんだろうけれど。
まぁ、実力行使が一番か。
俺はアイテムバッグから、四枚のシールを取り出す。
「さて、行くとしますか――マイワールド」
俺が魔法を唱えると、目の前にマイワールドへの扉が現れた。
と同時に、さすがに突然現れた穴に鶏たちも気付いたようだ。
だが――
「俺の速度を舐めるなよ」
鶏は速い。素人が捕まえるのは意外と難しい。なんて思っていたことがあった。
高速で動き回るだけでなく、上下に飛び跳ねて移動し、捕まえたら暴れる。
しかし――
「遅いっ!」
俺は鶏を一羽を捕まえると、シールを貼ってマイワールドの扉へと投げた。
と同時に、さらにもう一羽の足を掴み、そのまま走る。
残りの二羽とはかなりの距離があったが、
「アイスっ!」
氷の魔法を放つと、鶏が逃げ込もうとした茂みが氷の塊になった。衝突を回避しようとした鶏はそのまま大きく上に跳んだが、
「マイワールド」
捕まえていた一羽にシールを貼って投げ、さらにもう二羽を捕まえた。
素早い動きだけど、火の精霊に比べたら動きも予想しやすい。
捕まえた二羽もマイワールドの扉に投げた。
一応、ルリーナには鶏を捕まえたらマイワールドの中に投げると言っているから、無事に捕まえてくれていることだろう。
デザートランナーが食べてしまった――ということはないと思いたい。
ついでに、さっきの鶏のものと思われる卵も回収しておく。
「卵は白いんだな」
黒い鶏だったから、卵もピータンみたいな色をしていると思っていたけれど、違ったようだ。
「考えてみれば、カラスの卵だって白いって言うしな」
とりあえず、卵も回収しておく。
これで、マイワールドの食肉事情もかなり改善することだろう。
「助かった、ゴブリン。あとは牛でもいればいいんだが、知ってるか?」
「グギャっ!」
またゴブリンは頷いた。
殺さずに従えて正解だったようだ。
牛は食肉にもなるが、牛乳があれば料理のレパートリーもかなり増える。
ミリが地球から持ち込んだ牛乳が大量に残っているけれど、ダークエルフたちの人数を考えると心もとないからな。ここでできることなら、雌牛と雄牛を数ペア捕まえてマイワールドに入れておきたい。
牛って平原にいるイメージだけれども、大森林の中にも茶色い毛の牛が生息しているそうだしな。
ゴブリンの案内のもと、俺は牛を探して、さらに森の奥に入っていく。いや、もう森も半分以上抜けたので、森の奥というよりは森の北側の入り口に向かっている方が正しいのかもしれない。
「グギャっ!」
どうやら目的の場所に着いたらしい。
ゴブリンが指さすその方向に、四本足の動物がいた。
しかしそれは――
「牛とそうじゃない動物の区別がつかないのか? これはどう見ても牛じゃないだろ……」
そこにいたのは、一頭のロバだった。
というか、明らかに間抜けそうなその顔、俺が近付いても逃げる様子もなく草を食べているという食への執着、どう見てもアレだよな?
「なにやってるんだ、ケンタウロス」
そう、こいつはジョフレとエリーズが飼っていたロバだ。その証拠に、背中には二人が乗るための鞍がついている。
スロウドンキーと呼ばれる種族の魔物なのだが、こいつは人間を襲うことはなく見ての通り食べることにしか興味がない。
ジョフレとエリーズはダイジロウさんに雇われていたはずなので、こいつはミリを捜す一番の手がかりになるはずであり俺は喜ぶべきなのだが……なんだろう、もう嫌な予感しかしない。




