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成長チートでなんでもできるようになったが、無職だけは辞められないようです  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
砂漠の王国編

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【幕間話】笑うダイジロウ

 イチノジョウがニーテに唇を奪われた同時刻。

 飛空艇の中で、ミリは気配の変化を感じ取っていた。

そして、 それはダイジロウも同じようだった。

「サラマンダーが復活してフェニックスに取り込まれた――これでますます女神セトランスの力は強大になる……か」

 ダイジロウはそう言うと、飛空艇の窓をあけた。気圧の差か、空気が激しい勢いで外に流れ出ていく。彼女が被っていた帽子が部屋の外へと飛ばされていった。

 彼女はそんな風にも負けず、銃口を窓の外へと向けて引き金を引いた。

 閃光が煌めき、発砲音が鳴り響くが、それだけだ。彼女の拳銃は普段は空砲しか入っていない。ミリに奪われて襲われるのを恐れているのか、警告用に使っているのか、それともジョフレやエリーズといったバカが銃で遊んだときに間違って暴発しないように注意しているのか、理由はわからない。

 もしかしたら、いまのように気分が乗ったときに遊ぶためかもしれない。

「嬉しそうね、ダイジロウ」

 ミリはそう言って窓を閉めた。

 いい加減に風が鬱陶しかった。

 ミリの言葉にダイジロウは大仰に首を横に振る。

「まさか――サラマンダーを倒すための秘密兵器を使う機会がなくなったんだから悲しいよ。ミリちゃんこそどうなの? わざわざ私にお願いまでしてニックプラン公国に行ってあげたのに、それも全部無駄になっちゃったんだから」

「無駄じゃないわよ。私が警告したから、おにいがしっかり対処できたんだし」

 ミリはそう言ってそっぽを向いた。

 もう話すのも面倒、そんなミリの態度を無視し、ダイジロウは目を細めて尋ねる。

「……ミリちゃんは、君のお兄さんがサラマンダーを倒したって思ってるの?」

「どう思おうと私の勝手でしょ?」

「そうね。でも、私ももしかしたらって思っている。変な次元を自分で作っていることといい、ミリちゃん。君のお兄さんはいったい何者なの?」

「おにいのことは関係ないでしょ。忘れたの? 私が大人しくついていく条件は、おにいに手を出さないことだって」

 ミリが睨みつける。

 彼女の魔力を封じている白い腕輪がジリジリと音を立て、小刻みに震え始めた。

「怖い怖い、わかった、もうお兄さんのことは聞かない」

 ダイジロウはそう苦笑して手をパタパタとさせた。

 余裕ぶったその顔が、ミリは気に食わなかった。

 もしかしたら、彼女は全てわかった上で聞いているのかもしれない、そんな雰囲気を漂わせている。

 それでいて、本当はなにも知らないのかもしれないのだから猶更だ。

「で、いったい何をしに来たの?」

「そうね、サラマンダーが倒された腹いせに、ノームの封印を解いて今度こそ私たちで倒さないか誘いに来たんだけど、そんな気分じゃなくなったから漫画を借りようと思ったの。私の場合、もうこっちの世界のほうが長いんだけど、やっぱり日本語を読むと私は日本人なんだって思うわ」

「それなら小説もあるわよ? こっちを読んだらどう? 日本語がいっぱいだし」

「あはは、今度にするわ」

 ダイジロウはそう言って、ミリの部屋にある本棚から、少女漫画を三冊ほど見繕っていく。

 すべて兄ラブものの漫画だった。

「男の子の話なんだけどさ、実の妹がいる男の子は妹萌えの小説をあまり読まないって聞くの。現実の妹を知っているから妹に無駄な幻想を抱かないらしいんだけど、その点ミリちゃんはどうなの?」

「ダイジロウには兄はいないの?」

「いなかったわね。弟がひとりいたけれど、甘えたがりな子でね、私がいなくなって泣いていないか心配よ」

「安心して。あっちの世界の人間は、異世界転移された人間のことをまったく覚えていないことになっているから」

「だよね。あぁ、お姉ちゃんとして悲しいよ」

 よよよ、とわざとらしく泣くふりをするダイジロウだったが、そんな彼女にミリは何も言わない。

 茶化してはいるが、家族に覚えてもらっていないというのはやはり悲しいものだとミリも思ったから。

「……お兄ちゃんがいたら、嬉しいよ。ちょっと疲れることもあるけどね」

「そっか――」

 ニマニマと笑うダイジロウがむかつき、ミリは彼女の口の中に亜空間から取り出したフランスパンを詰め込んだ。

 ダイジロウは楽しそうにフランスパンを食い千切り、残ったパンで肩をトントンと叩いた。

「パン、ご馳走様。今晩はフランスパンによく合うスープを作るわね」

「ふん――で、いまどのあたりを飛んでるの?」

「ああ、伝えていなかったわね」

 ダイジロウはにっこりと笑い、フランスパンをマイクに見立てて言った。

「アテンションプリーズ。皆様、長旅お疲れ様です。当機はこれより三十分後、マレイグルリ空港に到着いたします。現地の天気は曇り、気温は二十八度です。シートベルトのサインが出たら座席のベルトをしっかりお締めください」

「シートベルトなんてこの部屋にないでしょ」

 ミリのツッコミは簡単に無視されて、ダイジロウは部屋を出た。

 そして、彼女たちを乗せた飛空艇は、三十分後よりさらに七分遅れて、マレイグルリの都市内にある広場に着陸することになった。

そういえば、第8巻には、ダークエルフたちとイチノジョウの閑話が二本も掲載されるそうです。

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