火の大精霊
あれが火の精霊――魂魄とかじゃなかったのか。
「精霊っていい奴じゃないのかよ」
「そんなことはないさ。精霊という存在は非常に厄介でね、特に大精霊と呼ばれる奴らは本当に厄介だ。火の大精霊は火山を噴火させ、水の大精霊は大洪水を起こし、風の大精霊は竜巻を生み出し、地の大精霊は大地震を発生させることがある。しかも周囲に新たな精霊を生み出すから、大精霊がそのままだったらきっと人類はここまで増えなかっただろうな。ちなみに、火の大精霊はセトランス様の眷属で、火の精霊はその支配下にあるはずなのだが」
「……だったら、その大精霊が人を襲うとは――」
「でも、実際に襲ってるんだよ?」
そうだ、実際に精霊に軍は襲われている。
セトランス様の命令なのか?
くそっ、なんで軍は撤退しないんだよ。
「ニーテ、お前は戻ってろ」
「マスター、精霊には物理攻撃は効かない! 魔法で攻撃するんだぞ! あと、精霊は大精霊の手足のようなものだから、精霊を倒しても経験値は手に入らないぞ」
「わかった」
ニーテのアドバイスを受け入れ、俺はひとりで飛び出した。
小さな火の球精霊を一匹一匹プチウォーターで撃ち落とすが、全然追いつかない。
なんで軍は撤退しないんだ?
俺は一番立派な鎧を着ている人を探した。
あれか――
指揮官らしき男がいる場所を目指し、俺は走った。
「くそっ!」
護衛の兵が剣で精霊を追い払おうとしているが、斬っても斬っても精霊は再生する。本当に剣が効かないようだ。
「プチウォーター」
俺が魔法で精霊を撃ち倒す。
すると、指揮官らしきちょび髭の男が息をつき、言った。
「た、助かった。礼を言おう。私はシララキ王国のユーティングス侯爵だ」
ユーティングス侯爵?
パウロ伯爵に紹介された貴族じゃないか。
シララキ王国も今回の戦いに参加していたのか、全然気付かなかった。
「パウロ伯爵の配下、イチノジョウ准男爵にございます」
俺はそう言ってパウロ伯爵からの紹介状を渡した。
「なんと、あの昼行燈のパウロの配下か――わざわざこのような場所まで大儀であった」
そう言うと、ユーティングス侯爵は空を飛ぶ精霊を見て忌々し気に言う。
「おのれ、ダークエルフめ、このような面妖な魔物を生み出しおって」
「ダークエルフが生み出したにしては、大森林も燃えてしまっています。あれではもう中にいる者は誰も助からないでしょう」
「ふん、いい気味だ」
と言ったところで、さらに精霊が十匹ほど襲ってきた。
「プチウォーター!」
俺は水の魔法を使い、精霊を撃ち落とすが、わざと一匹逃した。
その一匹がユーティングス侯爵の天幕を燃やしてしまう。
「侯爵様、ダークエルフはもう滅びました。すぐに撤退しましょう」
俺がそう進言したところで、
「爆発したぞ!」
「油壺に引火したんだ!」
遠くからも爆音と怒号が起こった。
それが決め手となった。
「ああ――撤退だっ! 鐘を鳴らせ」
ユーティングス侯爵の指示により、軍が撤退を開始した。
俺はここに残って殿を務めると宣言した。
「任せたぞ、イチノジョー卿! 無事に生還したときは望みの褒美を」
名前が違いますよ、ユーティングス侯爵。
声には出さず、撤退する軍を見送りながら迫りくる小さい火の精霊を倒していく。
あとは大精霊をなんとかするだけだ。
周囲から火の精霊がいなくなったところで、鷹の目スキルを使い周囲の様子を探る。
一番火の精霊が集まっているところを調べ、そこに向かった。
砂地の下から敵の気配があった。
「この下か――土砂掘りっ!」
俺はそう叫び、地面を掘った。
足下から砂が消えうせ、俺は落下した。
俺が落ちた先は巨大な遺跡の中だった。遺跡は広く、ところどころ巨大なものがぶつかった跡がある。おそらく、サンドワームが巣の代わりに使っているんだろう。
砂漠の砂の下に遺跡があるのってお約束だよな。
そして、お約束がもうひとつ。
巨大で真っ赤なトカゲがそこにいたのだ。
「巨大なトカゲ――やっぱりサラマンダーか」
ファンタジー事情に詳しいわけではないが、しかし四大精霊くらいは俺でも知っている。
水の精霊ウィンディーネ、風の精霊シルフ、土の精霊ノーム、そして火の精霊サラマンダー。
サラマンダーはトカゲのような姿をしているという。
フロアランスで出会ったフィッシュリザードの親玉よりもさらにでかい。
「ウォーター!」
水の魔法を放った。サラマンダーに当たった水は、一瞬にして蒸発してしまう。湯気ではない、完全な気体になっている。なんて高温なんだ。
この巨大な炎、完全に消そうと思えば海に放り込むくらいしかないんじゃないか?
もちろん、そんなことできるわけがないが。
それなら――
「ブーストメガアイスっ!」
氷魔法――俺が放った氷魔法がサラマンダーを巨大な完全に閉じ込めた。
これで封印――ってわけにはいかないか?
そう思ったのだが――
「動いてるだと?」
氷の中をサラマンダーが動いていた――そう思った直後、氷が爆発して四散した。
……わかった――氷の内側が一瞬にして溶けて、蒸発し、気体になったんだ。気体になったことで体積が膨れ上がり、逃げ場のない水蒸気が爆発を起こした――ということだろう。
水もダメ、氷もダメ――くそっ、これじゃどうすれば。
『ダメなことはないさ』
「セトランス様っ!?」
セトランス様の声が聞こえてきた。
『イチノスケ君。君の攻撃はサラマンダーを弱体化させた。お陰で、私がこうして話せるようになった」
「セトランス様、大精霊は女神様の眷属なのですよね!? だとしたら、このサラマンダーは女神様の意思で暴れているのですか?」
『これは確かに大精霊だが、私たちの眷属ではない。火の大精霊、サラマンダーは我々女神や人類がこの世界に生まれるよりも前にこの世界にいた太古の存在だ。遥か昔、我々を生み出した創造神は人類が繁栄しやすいように太古の大精霊を封印した後に我々女神を生み出し、そして女神の眷属である大精霊を生み出した。もう少しサラマンダーを弱らせてくれ。そうすればあとは私たちがなんとかしよう』
「なんとかって――」
魔力の残りも心許ない。
とそのとき、サラマンダーが口から高温の炎を噴出した。
「くそっ、竜巻切り」
俺は手刀で竜巻を作り出した。物理攻撃でサラマンダーは切れなくても、炎を跳ね返すくらいはできるだろっ!
竜巻は炎を飲み込み、炎の渦となってサラマンダーに衝突。当然、炎でサラマンダーは倒せない。
まずはここから脱出しないといけないが、足下の砂のせいで踏ん張りが効きにくいな。
俺は砂固めスキルを使用して足下の砂を固めると、穴の上に向かって跳んだ。
地上に脱出したところで、穴の中から炎の柱が上がった。




