ミリの危惧していた事態
そのあと、根が剥き出しになった黄金樹――岩盤の下まで入り込んでさすがに切らざるを得なかった部分は切断してから植物回復スキルで治療し、そして全員で縄を結び、斜めに倒し、マイワールドの中に半分くらい入れた。
よし、これで完了だ。
「皆、移動するぞ!」
全員でマイワールドの中に入った。
黄金樹は無事にピオニア特製の台車の上に乗っている。
よくあんな大きな樹を乗せても壊れないな。
「ここが、私たちの新天地――マイワールドか」
「なんと美しい――まるで神々の住まう地だ」
ダークエルフたちはマイワールドを見て感嘆の声をあげるが、ララエルが一喝を入れた。
「皆、まだ終わっていないぞ! これから黄金樹を植えなおす作業がある。皆で台車を引くのだ」
「「「「はい!」」」」
そのあと、ダークエルフたちだけでなく、俺やピオニア、ニーテ、シーナ三号、さらにはフユンとデザートランナーとまさに全員がかりで台車を引っ張り、黄金樹を植える候補地へと運んだ。
黄金樹を植える場所に扉を開いたらよかったな。
でも、全員で目的地に辿り着き、縄で黄金樹を立て、植え直しが終わったときには全員が盛大に喜んだ。
「本当によかったのですか、マスター」
「いいんだよ。ダークエルフもここから出なかったら、俺の無職スキルの秘密が外部に漏れることはないだろ」
「そうではなく、ダークエルフは黄金樹を守るために生きている種族なのですよね? 確実に黄金樹を守る方法を取ることはないのでしょうか?」
「確実に黄金樹を守る方法?」
「マスターを殺すことです。マスターさえいなければ、この世界と外部を繋ぐことができる人間はいなくなります。それは黄金樹とこの世界の永遠の安寧を約束することになります」
「…………いや、それはさすがにないだろ」
「考えていませんでしたね」
いや、大丈夫だろ。
そう思っていたら、ダークエルフたちが全員そろって俺の前に並んでいた。
五十名近くの美女が一堂に並ぶというのは爽快ではあるが、しかしピオニアの言葉を思うと軽く恐怖がよぎった。
そのとき、ダークエルフたちは全員その場に片膝をつき、頭を下げた。
「――我らダークエルフ四十七名、この命と身体、黄金樹に捧げるとともに、イチノジョウ様にも捧げます」
【称号:ダークエルフを統べる者を取得した】
【称号職業:エルフ弓士が解放された】
ダークエルフでもエルフでもないのに、エルフ弓士のスキルって、いいのかな?
まぁ、ダークエルフに関しては大丈夫みたいだな。
統べるつもりはないんだけど、称号は嘘をつかないだろう。
これから、ピオニアには黄金樹周辺の整備と、ツリーハウスの建設などを任せ、俺とララリエはシュメイが待っているログハウスに向かった。
中で待ってろって言ったのに、シュメイはログハウスの外で待っていた。
「イチノジョウ様っ!」
「シュメイ、これでダークエルフ救出ミッションは完了でいいな?」
「はい、ありがとうございます」
ミッションコンプリートだ。
さすがに今回は疲れたが、ダークエルフという人がこの世界に住む以上、俺に万が一のことがあってもピオニアとニーテが魔力不足で動かなくなるということはないだろう。
もっとも、ニーテが言うには俺の魔力は美味らしいので、MPを補給しなくてもいいってことにはならないだろうな。
「ところで、シュメイ、そしてララエル。ふたりに聞きたいんだが、魔王について教えてくれ。ふたりはファミリス・ラリテイを知っているのか?」
「私から話そう。ダークエルフが魔王と協定を結んだ話は知っているな?」
俺は無言で頷いた。
それについては海賊から話を聞いた。
「十五年前、魔王は大森林を訪れた。彼女の頼みはダークエルフを仲間に加えることではない。万が一自分が死んだ時のために、ある秘宝を預かって欲しいというものだった。その条件として、魔王は黄金樹が生えている洞窟の周囲に認識阻害の結界を張ってくれた」
「結界は魔王が作ったのか。ところで秘宝ってなんだ?」
「これだ――」
ララエルが取り出したのは、小さな小さな丸い玉だ。
BB弾みたいな大きさだが。
「これは――もしかして薬か?」
「ああ、知識薬というものらしい。魔王ファミリス・ラリテイはある知識をこの薬の中に封印し、私たちに託したのだ」
「なんの知識かは知っているか?」
俺が尋ねると、ララエルは首を横に振った。
ファミリスが封印した記憶か。気になるな。
「じゃあ、シュメイが言っていたのもこれに関することなのか? 魔王ファミリス・ラリテイに関することか?」
「わかりません。彼女は突然、私と父の前に現れて言いました。自分は魔王の生まれ変わりだと」
「魔王の生まれ変わりっ!? そいつはどんな姿をしていた!?」
「見た目は女の子です。紺色の変わった服を着ていて、髪はこういう風に左右ふたつに結んでいて」
と両手でツインテールの形を作る。
間違いない、ミリだ。
ミリはこの国を訪れていたのか。
「彼女はなんと言ったんだっ!?」
「ダークエルフを滅ぼしてはいけない。黄金樹がこの世界から失われたら、砂漠に恐ろしい怪物が復活すると」
「恐ろしい怪物? 恐ろしい怪物ってなんだ? ララエルは知っているか?」
俺が尋ねるも、ララエルは首を横に振った。
「――マスター、よろしいですか?」
「なんだ?」
「黄金樹には周囲の地を清める効果があります。黄金樹により悪しき物が封印されていたとしても不思議ではありません」
「そうか。つまり、結果的に黄金樹が守られてよかった――あれ?」
待てよ?
黄金樹が世界から失われたらっていったよな?
つまり、それって――
「マイワールドに黄金樹を移すのもヤバイってことじゃないのか?」
俺がそう言うと、ニーテが走ってきた。
「マスター、外の様子がおかしいぜ」
「――っ!?」
マイワールドの扉を開けっぱなしにしていた。
現在開いている扉を閉じて、ここに扉を開けなおす。
そして、俺は扉の外を見た。
「森が燃えてる――嘘だろ? 油壺は全部水で押し流したのに。それに、この短時間で燃やしたのか――」
ダークエルフたちは、黄金樹を移したら、悲しいけれど大森林については諦めると言っていた。
しかし、森が焼けるのは悲しいな。
「マスター、妙じゃないか?」
「妙?」
「こんな簡単に森を燃やす方法があるのなら、どうして油を集める必要があったんだ?」
それもそうだ。
「――もしかしてっ!?」
俺はニーテを背負い、跳んだ。
水魔法での消火はもう間に合わないので、プチウォーターで最低限移動できる場所を確保しながら、森の外へと向かう。
「軍が戦ってるっ!」
戦っている相手は、空を飛ぶ小さな火の球だ。
昼間から浮かぶ火の球っていったいなんなんだ。
幽霊とかなら光魔法が有効か? こんなことならゴーストバスターの職業を鍛えればよかった。
「あれは精霊だな」
「精霊!? 精霊ってあの精霊か?」
「ああ、自然界を司る精霊――火の精霊だ」
ニーテはまるで幽霊でも見ているような信じられない表情で、そう呟いた。
成長チート8巻は2/22、猫の日に発売です!
ハルが白狼族から白猫族に種族チェンジ……はしないです。




