安心しろ、峰打ちだ
黄金樹の植樹先を俺はララエルに案内した。
当然、ララエルはその景色を見て最初は信じられなかったようだ。
確かに、木の種から人間が生まれるよりも突拍子の無い話だからな。
「ここはどこなのだ?」
「マイワールド――スキルによって生み出した、俺の許可した人間と女神しか来ることができない世界だ」
ここならば、絶対に他の人に見つかることはない。
ここに入れるのは俺の許可をもらった人間だけなんだから。
「俺から出す条件はひとつ。俺の許可なくマイワールドから外に出ないこと。それを守ってくれるのなら、この世界で誰にも気付かれることなく黄金樹を育てることができる」
女神様からこの世界の存在はできるだけ誰にも知られないようにと言われている。その約束を破ってシュメイだけでなくララエルもここに連れてきたのだ。
そのくらいの条件を出さないと女神様たちにも申し訳が立たない。
「そんな能力、聞いたことがない――まさか君は神なのか?」
「いいや、ただの無職だよ。ちょっとチートなだけのな」
俺がそう言ったところで、ララエルは、俺たちを見ている三人の女性に気付いた。
ピオニア、ニーテ、シーナ三号だ。
「彼女たちは?」
「こいつはピオニア、あっちはニーテ、世界の管理人、女神トレールール様から授かったホムンクルスたちだよ」
「ホムンクルス――そうか、君が言っていた私たちのような特別な生まれ方をしたというのはこの子だったのか」
そして、ララエルの視線はシーナ三号に向けられる。
「彼女もホムンクルスなのか?」
「私をホムンクルスと一緒にしてもらっては困るデス! 私こそは魔王ファミリス・ラリテイ様が作ってくださった偉大なる機械人形、シーナ三号なのデス!」
こいつはまた余計なことを言いやがって。
「魔王ファミリス・ラリテイの機械人形? 君は魔王とも知り合いなのか?」
「いや……知り合いというか……ファミリスの生まれ変わりが……俺の妹です」
もうここまで言ったし、正直に言うしかないか。
ララエルはたぶん、ファミリス・ラリテイとも直接会っているだろうから話しても大丈夫だろう。
ミリのほうはともかく、ファミリス・ラリテイに関しては直接会った人間の印象は悪くない。
「ははははは、なんということだ。そうか、君はあの魔王の兄なのか。そうか――よし、わかった。君のことを全面的に信用しよう」
「いいのか? そんなことを勝手に決めても」
「もちろんだ。なにしろ私はダークエルフの族長だからな」
――え?
ちょっと待て、話が違うじゃないか。
「ララエル、族長の娘って言ってただろ!」
「あれは嘘だ」
身分詐称するのは貴族だけにしてくれ!
シララキ王国の準貴族ってことを誰にも話していないんだけど、そのことを棚に上げて俺はそう思った。
「全面的に信用してくれるのは嬉しいが、いいのか? 狭い世界だから面白みはあまりないぞ」
「構わない。私たちの一番の望みは黄金樹とともにあることだから」
「そうか、じゃあ一度戻って皆に話をしよう。扉はここに開けたままにしておくから、俺の世界に来るダークエルフはこのシールを体に貼ってくれ」
ピオニアにMPを消費して出してもらった許可シールを人数分、ララエルに渡した。余分には渡さない。
そして、俺たちは一度集会所に戻った。
今度はダークエルフの代表五名のみで話し合うことになった。
俺とシュメイは一度集会所の外で待つことになる。
その間に、シュメイにはダークエルフたちにはこれからマイワールドに住んでもらうと伝えた。それを聞き、シュメイはとても喜んでいた。
黄金樹については暫くは黙っておいて欲しいとララエルに言われたので、悪いがシュメイにも黙っておく。
話し合いは僅か五分で終わりを迎えた。
結果は、俺を信じ、黄金樹を移植するということに決まったようだ。
「やけに早いんだな」
「すまない、これでも時間がかかったんだ。マイワールドという世界の存在についてどう説明したらいいか困ってな」
「そりゃどう説明したらいいか困るよな。見てもらったほうが早かったか」
と思ったとき、
「大変です、ララエル様」
若いダークエルフの少女がやってきた。
「どうした?」
「人間族の兵が森に油を撒いて火を放っています!」
「まさか、森を焼き払うつもりか!?」
ララエルが驚き声を上げた。
そうか、軍が油を買い占めていたのは森を焼くためだったのか。
気付かなかった。
「このままでは数時間すればこのあたりも炎に包まれます」
「ちっ、シュメイ! お前はマイワールドに戻ってろ!」
「しかし――」
「お前がここにいることを知られたら公王陛下も面倒なことになる。いいか? マイワールドに行ったらログハウスに入ってそこから出るんじゃないぞ。ちょっとだけマイワールドも賑やかなことになるからな」
「……わかりました」
シュメイが頷いた。
「ララエル、黄金樹をマイワールドに移すのにどれだけ時間がかかる?」
「……最低でも五時間。根を切ればもっと早くできるが――」
「根は切らなくていい。俺が奴らを止めてくる。さっき使っていたお面を貸してくれ。それと、全員、黄金樹を移すまで、俺の配下に入ってくれ」
「わかった――ダークエルフの指揮権は私が持っている。それを譲渡しよう。それで、どうするんだ?」
「こうする!」
俺はそのスキルを発動させた。
「大エールⅡ(ツー)」
エールとは、平民が覚える味方を強化するためのスキル。
これを軍師魔法で唱えることで指揮下にいる仲間全員に発揮させた。
効果の範囲は限られているが、森の中にいる限り有効だろう。
「凄い、力が湧き出てくる。これなら黄金樹の周囲を掘る時間も短縮できるだろう」
「頼んだ! 俺は森を燃やそうとしているバカ共のところにいく。お前、案内してくれ」
「わかりました、こちらです」
ダークエルフの少女――リリアナの案内のもと、俺は火事の現場に向かった。
森の入り口のほうに向かうと、黒煙が立ち込めてきた。
そこで見たのは、樹を燃やす兵たちと、そして風魔法で延焼を促す魔術師たちだった。
リリアナには離れた場所で待っておいてもらうように頼むと、俺は仮面を装着し、兵たちのほうに向かう。そして、声真似スキルを使って威厳ある男の声で言った。
「人間共、ここはダークエルフの地だ! いますぐ立ち去れ!」
その声に気付いた兵たちが一斉に矢を射かける。
俺はその矢をすべて剣で叩き落とした。
問答無用か――それなら、
「ブースト大洪水!」
魔力ブーストによって強化された水魔法Ⅳによって放たれた大量の水が、燃える樹木と兵たちを押し流した。
魔力がそれなりに失われたので、仮面の隙間から魔力回復促進薬を飲む。
「やりすぎたかな」
鎮火には成功したが、しかし軍と一緒に樹木もほとんど流されてしまった。
まぁ、これだけ濡らせば油を使ってももう燃やすことはできないだろう。
そう思っていたら、壮年の兵がひとり残っていた。
剣を地面に突き立てて流れに耐えたようだ。
【将軍:Lv52】
……凄い、初めて見る職業も凄そうだが、なにより高レベルだ。
「ダークエルフ、我々がこれまで守って来てやった恩を仇で返すつもりか!」
将軍が剣を抜き、俺にそう言った。
「恩があるから殺されろというのか?」
「殺しはしない! 約束しよう。教会に掛け合い、全員奴隷堕ちで済むようにする。奴隷といっても全て我が国で買い上げ、不自由のない生活を送れるようにするつもりだ」
「問題外だ――そんなことになるくらいなら、私たちはこの森を去るつもりだ。そのあとに森を焼きたければ勝手にしろ。もっとも、そうなれば森の恵みに頼った其方たちは何人死ぬことになるかな?」
交渉が通じないと思った将軍は剣を俺に向けた。
「せめて、貴君の首を――」
地を蹴り、俺を切ろうとするが、俺も同時に地を蹴る。
「――創生剣」
生み出された創生剣で、将軍の腹を切り裂いた。
鎧が粉々に砕ける。
普通なら即死の攻撃だが――
――ピコッ
「安心しろ、峰打ちだ」
「ピコ……ハンマー……」
可愛い効果音を残し、名のあるであろう将軍は地に倒れた。




