記録の更新
そのあと、面接が行われた。
面接は志願者十人に対し、面接官三名によって行われると聞いていたが、なぜか俺の時は他の志願者を交えずに行われた。
これは特別待遇されているな。
面接を行っているのは、傭兵ギルドのギルドマスターと名乗る男、国家騎士、そしてスポンサーの商人三人だと事前に伺っていた。
【剣闘士:Lv29】
ギルドマスター、上位職か。凄いな、確かに筋肉ムキムキだもんな。大剣とか似合いそうだ。
【騎士:Lv3】
兵らしき男は、騎士だがレベルは低い。騎士になったばかりなのか、それとも箱入り息子として育てられたのかはわからない。
最後に身なりのいい男だが、
【貴族:Lv12】
商人というのは真っ赤な嘘で、本当は貴族様でした。この国の貴族は身分を詐称する風習があるのだろうか?
「君がイチノジョウ君か。実技試験、遠くからだが見させてもらったよ」
貴族様が大手を広げて俺に言った。
「恐縮です」
そう言いながらも、内心、身分を詐称するならギルドマスターや騎士の話が終わってから話し始めろよと思った。
「して、君はなぜ傭兵になりたいのかね?」
「はい、戦うことしか能がないので、せめてこの力が役に立つ職場で働けたらと思った次第です」
当たり障りのないことを言う。
通常の面接ならばもっと自分の力を誇示してもいいのだが、実技試験であれだけの結果を出したのだ。今度は当たり障りのない話をすることで、使いやすい人間だとアピールするつもりだ。
「そうか――希望する部隊はあるかね?」
「はい、私は複数の人間を相手にするのが得意ですので、最前線で国の剣となり戦いたいと思います」
「最後の質問だが、君はダークエルフについてどう思う?」
ん? この質問の意図はよくわからないが、確かこの国とダークエルフって友好的な間柄なんだよな? ならば思っている事をそのまま言えば良いか。
「ダークエルフの知り合いはひとりしかいませんが、良い人でした。また、ハンムノではダークエルフの行商人が運んできた食料品により非常に潤っています。この国のよき友人だと思います」
俺がそう言うと、貴族様は嬉しそうな笑みを浮かべた。
正解だったか?
「結果は本日午後に発表する。待合室で待っているように」
おい、貴族様。ギルドマスターと国家騎士様に質問はさせないんですか?
その日の午後、結果が貼り出された。
多くの人間が貼り紙の前に群がったので、俺は人が減るまで待つことにした。
まぁ、落ちることはないだろう。
というのも、周囲の人間の話を聞いていたが、この試験は合否を判断するというよりかは、傭兵をどの部隊に配属するか調べるためのものみたいらしい。護衛向きの傭兵や、斬りこみ部隊に向いている傭兵など戦い方のスタイルでわかるのだとか。
人手不足なので、よほどの無能でない限り合格するそうだ。
ようやく俺の就職活動連敗の記録も終わるのか。思えば長かったな。
まさか日本で就職百連敗の記録を作った後、異世界で就職活動を成功させることになるとは思ってもいなかった。
貼り紙の前から人がいなくなったので、俺はゆっくりと歩いていく。
俺の番号は四一七番。
まずは第一部隊――最前線で戦うことになる傭兵の番号を見る。
「……え? ない?」
予想外だ。どうやら希望通りのところに配属されることはないらしい。
もしかして、俺があまりにも強いから要人の護衛をする部隊に配属されるのだろうか? と思ったが、あれ?
「ない、ない、どこにもないっ!」
俺の数字、四一七番はどこにもなかった。
その瞬間、俺の就職活動連敗の記録が更新されたのだった。
恥ずかしい。
自信満々でいた俺が恥ずかしい。数字を見ると、九割以上の人間が合格している。木こりのおっさんや歴戦風さんだけでなく、割込み君まで合格しているのに、なんで俺が不合格なんだ?
もう、これは呪いじゃないだろうか?
就職活動で必ず失敗する呪いだ。
きっと俺の前世は、大会社の人事部に所属している面接官で、幾人もの前途ある若者を不採用にしていった大悪人なのだろう。きっと、俺に落とされたその若者の怨嗟が積み重なり、いまの俺に降りかかっている。
そんな気がしてならない。
「そうだ……もういっその事ひとりで国境を突破しちまうか。その方が手っ取り早そうだ」
俺がそう呟いて乾いた笑みを浮かべていると、実技を担当した試験官の男が近付いてきた。
「イチノジョウくん、ちょっと来てくれるかね?」
「……は、はい。えっと、私が不合格な理由を教えていただけるのでしょうか?」
「ああ、そういうことだ」
それはご丁寧にありがとうございます。
不合格の理由を教えてもらえたら次回に活かすことができる。お祈りされるだけよりかは遥かにマシだ。
「待っていたよ、イチノジョウ君。まずは君を傭兵として不合格にしたこと、お詫びしよう」
「イエ、ダイジョーブデス、ナレテイマスカラ」
「大丈夫そうには見えないが……まぁいい。実は君を不合格にしたのには訳がある。君は私の姪御の命の恩人だと伺ってね」
姪御の命の恩人?
俺がこの国に来て命を助けたというと、ひとりしか思い浮かばない。
「もしかして、シュメイ――様のことですか? ということは、あなたはハロルド侯爵様なのですか?」
「ああ、嘘をついていたことは申し訳ない。そう、シュメイ・ユ・ハリエルは私の妹の娘、私の姪にあたる」
ハロルド侯爵はそう説明すると、後ろの扉に向かって、「――入ってきなさい」と大きな声で言った。すると、扉が開き、一週間共に過ごした少女が現れた。




