実技試験
並ぶこと二時間。俺の前にいた木こりのおっさん、俺、後ろに並び直した若い男、そしてさらにその後ろに並んでいた歴戦の戦士っぽい男と順番に入った。
ちなみに、後ろの若い男は【見習い剣士:Lv27】、歴戦の戦士っぽい男は【見習い剣士:Lv25】と若い男に軍配が上がっている。完璧に片方は見掛け倒しだったな。
傭兵ギルドでは受付が何人もいたが、俺たちは受付には案内されず、奥にあるという修練所へと案内された。
中庭のようなその場所には舞台があり、高さ二メートルくらいの木偶人形が大量におかれている。木偶といっても全て木製というわけでなく、藁でできている人形もあれば、あきらかに金属っぽいものもある。金属製なのに木偶って言っていいのだろうか? って話だが、面倒なので全て木偶で統一しておこう。
そして、四十歳くらいの男試験官――おそらくこの国の兵でしかも騎士爵を持っているのだろう、職業が騎士様だ――が待っていた。
「これから順番に舞台に上がって、この人形に攻撃を仕掛けてもらう。そこから三分以内にどれだけの数の木偶を壊すかを合否の参考にさせてもらう。なお、順番は君たちが決めてくれ。ただし、四人全員の戦闘が終わるまで、舞台の上の木偶を取り換えることはない」
試験官がそう言い放つと同時に、俺たちは同時に向き合った。
つまり、この試験は最初に舞台に上がるものが有利となる。当然だ。木偶が多ければ攻撃できる木偶も多いし、最初に参加した人が木偶を壊せば足場が散らかり、舞台の上の移動も困難になる。
さらに、木偶の種類も藁、木製、金属製の三種類があるということは、最初の奴が壊れやすい藁の木偶だけ潰せば、残ったやつは壊しにくい木製、金属製の木偶しか残らないことになる。
当然、自分が一番に参加したいと誰もが思うはずだ。
「俺から行かせてくれ」
そう主張したのは、若い男、割り込み君だった。
「待て、そんなの勝手に決めるな」
「そうだ、僕も一番がいい」
木こりのおっちゃん、歴戦の傭兵風おっさんがともに待ったをかけた。というか、歴戦の傭兵風のおっさん、一人称が僕なのか。意外過ぎるぞ。
でも、これは不味い流れだな。
この試験、一見攻撃だけを重視しているようだが、順番を俺たちに決めさせるというところから質が悪い。
きっと、受験生の協調性や問題を打破する力も見ているのだろう。
「あぁ、ちょっといいか? 順番を俺に決めさせてくれ。その代わり、俺は最後でいい」
俺がそう言うと、全員黙った。
当たり前だ。全員、このままだと話し合いが終わらないことくらいわかっているのだろう。
「言ってみろ」
割り込み君が偉そうに言った。
「一番は斧使いのおっちゃんだ。これはまず問題ないだろう」
「おぉ、わかってるじゃないか」
「待て、なんでだよ」
割込み君が文句を言ってきたが、しかしこれは問題ないと思う。
「考えてもみろ、斧使いのおっちゃんの武器は一撃必殺の斧だ。手数はないから一番に上がっても舞台がそれほど荒れることはないし、なにより試験官は数で勝負だと言っているが、でも硬い木偶を倒したという事実は成果につながるはず。同じ手数で倒すのなら、柔らかい藁の木偶より硬い木製の木偶を壊したほうがいいに決まってる。そうなると、藁の木偶を壊したいふたりとしても助かるんじゃないか?」
「む、確かに」
「いいだろう。僕は構わない」
俺の説得に割込み君も歴戦風さんも納得してくれたようだ。
まぁ、本当は穴だらけの理論なんだけどな。
斧の攻撃って手数は少ないけど、でもその少ない手数で木偶を壊すことができるから、舞台の荒れ具合は本当はそんなに変わらないだろうし、木こりのおっちゃんが木の木偶を壊して、剣士のふたりが倒す藁の木偶が残るだろって話も、逆に見習い剣士のふたりが藁の木偶を倒すから木の木偶は残る。木こりのおっちゃんは三番目でいいよなって話の持って行き方もある。
でも、それができないのは、ふたりにとって敵は木こりのおっちゃんではなく、残りの剣士だからだ。持っている武器も同じ剣――ならば当然、比較されるからな。
「二番目は、割り込――じゃなくて、君ね」
俺は割込み君を見て言った。
「よしきた」
「なぜだ」
割込み君が喜び、歴戦風さんが不満げな顔をした。
でも、これには理由がある。
だって、割込み君を三番目にしたら面倒っぽいからだ。ここで喧嘩にでもなったら評価に関わる。
「だって、あんた剣士としての腕はかなり上だろ? それに剣も相当鍛えこんでいる。それなら、一撃で藁の木偶を倒すのも可能だろ。そんなことされて、さすがに全部の藁の人形を壊されたら彼はなにもできない。あんたを歴戦の剣士と見込んで後にしたんだ」
「……そういうことなら仕方ないな」
よし、プライドを刺激してなんとかなったな。
まぁ、見た目から入るような男で、しかも順番を決める時も前へ前へとなかなか出ない。プライドが高い男だと思ったが予想通りだったようだ。
よし、これで順番はなんとかなったな。
勿論、こうなったら俺が一番不利になるわけだが、その状況で成果を見せれば、一発大逆転は可能だろう。
順番が決まったところで、さっそく試験が始まった。
木こりのおっちゃんは、斧を操り、木偶を壊していく。
一撃で確実に木偶の首の部分をはねていく――さすがは木こり。動いていない木を切るのはお手の物ってわけか。結果、彼は木の木偶の三分の二を破壊した。
「よっしゃ、どうだ」
「次だ」
評価に関することはなにも言わない。試験官は割込み君に舞台に上がるよう促した。
割込み君の剣は素早い動きをしているが、しかし攻撃する場所がバラバラなせいか、なかなか一体一体の藁の木偶を壊すことができずにいた。結局藁人形を三分の一くらい壊したところで時間切れになった。
「ちっ、あの藁、変なものでも仕込んでるんじゃないか?」
己の力不足を棚に上げて文句を言う割込み君。
そして、最後に上がったのは歴戦風さんだ。
いきなり、歴戦風さんは見習い剣士のスキル、スラッシュを使い、遠くにあった壊れかけの木偶を倒した。
「な、あれは俺が痛めつけた木偶だぞ」
割込み君が文句を言うが、これは壊せなかった割込み君が悪い。
そして、歴戦風さんは木偶が集まっている場所にいき、回転斬りスキルを使って周囲にあった木製の木偶一体、藁製の木偶二体を同時に壊す。一手一手の攻撃は大したことはないが、スキルの使い方がうまい。
結果的に、歴戦風さんは、残っていた藁製の木偶の三分の二、さらに木製の木偶を数体壊して終わった。
こう言っては何だが、歴戦風さんを三番目にしたのは、本当に歴戦風さんのためになったようだ。レベルの差以上に、戦い方の差が大きい。この戦いを見た後だったら、割込み君ももっとマシな戦い方ができただろう。
「最後、お前だ」
試験官に促され、俺は舞台の上にいった。
「すまないな、ちょっとやりすぎたようだ」
舞台から降りる歴戦風さんがすれ違いざまに謝った。
まぁ、謝られても仕方ない。
舞台の上にはもう藁製の木偶は数体しか残っていない。木製の木偶もあまりない。
「さて――」
俺は剣を抜き、残っている木製の木偶、藁製の木偶を一体ずつ倒していく。
すべて一撃で倒しているが、このままだと評価は歴戦風さん以下、割込み君以上だろう。それでも合格はできそうだが、ここは確実に合格したい。少なくとも、最前線送りにされるくらいの強さを見せなければ。
なので、俺は剣を鞘に納める。
ミリに言われた、力を隠すとき以外はこのスキルを使ったほうがいいと。
剣聖のみが使うことができるこのスキル――使う時はいまだろ!
「創生剣!」
手の中に魔法の剣が現れた。
白く光る剣――俺はその剣を握ると、近くにあった鉄製の木偶の胴体をふたつに切り裂いた。
「試験官さん、まだ時間ありますけど、残ってる鉄の人形、全部壊していいですか? この鉄製の木偶は作るの大変そうですけど」
「い、いや、もういい。それで十分だ」
試験官はそう言って、俺の試験を強制終了させたのだった。
割込み君が、「なんなんだ、いまの剣! あんなの反則だろ!」と言ってきたが、武器が自由な試験なんだから別に問題ないだろうということで俺は全く取り合わなかった。




