傭兵ギルドへ
「ご苦労様です」
「よ、お疲れさん」
衛兵さんはさっきと変わらずに見張りをしていた。
「ん? その槍はどうしたんだ?」
「槍――? ああ、持ったままだった」
ボスモンスターが落としたスコーピオンスピアだ。
そうだ、衛兵さん、見習い槍士だったよな。
持っているのは青銅でできている槍だし、彼にはいろいろと情報を教えてもらった。
よし、俺が持っていても意味はないし、これは彼にあげることにしよう。
「あの、これ、ボスが落としたんで、よかったら使ってください」
「え? だが――」
「これで攻撃をすると麻痺を与える効果があるそうです。衛兵が使うにはちょうどいいのでは? これが少しでも治安維持に繋がれば俺としても助かりますから」
「……それじゃ、受け取らせてもらうよ。兵士が物品を受け取ったとき、上司に報告する義務があるので、いちおう、報告させてもらうよ。そのときに上司に取り上げられたら……取り上げられたくないな」
「ははは……取り上げられそうになったら素直に渡して、出世の道具にしてください」
そういうのって、バイト経験しかない俺にはあまり実感のないことだ。
実際、ファミレスでバイトしていたときは時間に余裕のある俺は重宝されていて、上司のほうが俺に気を遣ってくれていたところもあったしな。
正社員になると話はだいぶ変わるのだろう。
「ところで、傭兵になりたいんですけど、どこに行けばいいんでしょう?」
「ああ、傭兵になりたいのか。それなら、明日の朝の鐘が鳴って三時間後、この通りをまっすぐ進めばいいよ。詳しい場所がわからなくても直ぐに見つかるからさ。この迷宮のボスをソロで倒せたあんたなら、きっといい傭兵になれると思うよ。あと、武器を持っていくのを忘れるなよ」
「わかりました、ありがとうございます」
俺は衛兵に頭を下げ、そのあと、宿の場所を訪ねて別れた。
そして、浄化で砂漠越えや迷宮探索の汚れを綺麗に洗い流し、宿に向かった。
翌朝。
目的の傭兵ギルドが直ぐに見つかるという意味がようやくわかった。
いかつい男たちが全員同じ方向に歩いていき、しかもそれが市場のおばちゃんが言っていた方向と一致していたのでついて行ったらすぐに見つかったからだ。
五十人くらいの傭兵希望らしき男達が一列に並んでいたので、最後尾に並ぶ。
傭兵として雇われるための簡単な面接の試験があるという話を全員が聞いているからだろうか?
どことなくピリピリとした緊張感と焦燥感が伝わってくる。
その結果、
「お前、割り込むなっ!」
「なんだとっ! ここは元々俺がいた場所だっ!」
「嘘つけ、いなかっただろうがっ!」
列の前のほうからそんな声が聞こえてきて、俺は思わず笑みを零してしまった。
まぁ、若い男が割り込んだのか、それとも並び方が下手だったのか、または本当にきっちり並んでいたのにいちゃもんをつけられたのか、俺にはわからない。
自慢じゃないが、俺はこのような列に並ぶのにはとても慣れている。
就職面接の順番待ち――あっちは椅子こそ用意されているが、その緊張感はこの傭兵ギルドの順番待ちと変わらない。まぁ、百回就職に失敗した成果なのだから、本当に自慢ではない。
「よう、兄ちゃん。余裕そうだな」
俺の前に並んでいたソフトモヒカンのおっさん(四十歳くらいか?)が、そう声をかけてきた。
「ん? あぁ、まぁこういう試験や面接には慣れているからな……失敗にも慣れているけど」
「ははは、そうか。ところで兄ちゃんは剣士なのか?」
「剣は得意だな。そういうあんたは――あぁ、斧使いか?」
「おうよ。この斧があればどんな魔物も一撃必殺だぜ」
「そりゃ頼もしいな」
でも、職業は木こりなんだよな。
俺は男の職業を調べてそう思った。
【木こり:Lv17】
まぁ、斧装備スキルは木こりのレベルを上げたら手に入るから、扱うことはできるだろうけれど、でも相手は魔物なんだから、動いていない木とは全然違うぞ。職業が木こりだと、冒険者になることもできなかったはずなんだけど、でも並んでいる奴を見ると、戦闘職以外の人間も多いことがわかった。
確かに、戦闘職以外でも、レベルによっては低レベルの戦闘職より強いこともあるし、スキルの中には非戦闘職でも戦闘に使えるスキルがあったりする。
例えば、釣り師の糸操作スキルを使えば、鋼糸を使った攻撃が可能になるように。
ちなみに、戦闘職と言えども、盗賊や山賊、海賊といった犯罪職の人間はいなかった。
「なぁ、面接と試験ってどんなことをするかわかるか?」
「試験は魔術師様以外は全部共通だよ。木偶人形に対していかに効率よくダメージを与えられるかだ。面接の内容は、試験の結果を踏まえて話すことになるな」
木偶人形か。確かに動いていない木相手なら、木こりでも合格――いや、むしろ斧という破壊力抜群の武器を使う以上有利そうだ。
俺も鋼鉄の剣じゃなく、いい武器を買いにいくか? いや、いまは戦争で武器が高騰しているそうだから、武器屋にいってもいい剣は売っていないだろうな。仮に売っていたとしてもかなりふっかけられるだろう。
「そう言えば、武器は自由なのか?」
「ああ。どんな武器を持っているかも試験の基準になるからな。国の兵士ならまだしも、傭兵に武器の支給なんてない。凄腕の剣士を傭兵として雇ったのに、肝心の剣がボロボロだったなんて使い物にもならんだろ?」
「なるほどな……」
こいつ、いろいろと詳しいな。男版キャロと呼ぼうか? と思ったが、いかついおっさんに、便宜上とはいえ可愛いキャロの名前を使いたくないのでやはりやめた。
でも、いろいろと聞きにくいことを尋ねる。
「じゃあ、なんであんたは傭兵になるつもりなんだ?」
「んー、そうだな。お前、この戦争に勝てると思うか?」
「それは……」
まぁ、敗戦濃厚だろ。戦力の規模が全然違うそうだし。
国の兵も一部脱走したって話だ。
「そこで言葉に詰まるってことはわかってるな。ああ、この戦争は普通にやっても勝てるわけない。だからこそ傭兵になるのさ」
「全然わからないんだが」
「戦争に負けそうなときほど兵というのは役に立たない。自分の領地を持っている貴族や騎士なら話は別だが、雇われているだけの兵っていうのは、国が危なくなったら脱走する奴らも現れる。人員不足になって、それでも戦争しないといけない国は傭兵を雇わなければいけない。だからこそ、国は大金を使ってでも傭兵を雇う。そして、戦争に勝てなくても、もしも戦争を停戦や休戦に持ち込むことができれば、戦争で活躍できた傭兵は爵位が与えられることもある。国の大貴族の命を救った傭兵が領地をもらったって話もあるくらいだからな。そうでなくても前金はかなりの額になるそうだぞ」
なるほど、需要と供給の関係か。商品の需要が高いが、供給量が少ないとき、その商品の値段は跳ね上がる。この国ではその商品というのが兵力だった――ということだろう。
つまり戦える人間は喉から手が出るほど欲しいという現状。
身元が多少不確かでも合格できるということか。
「いろいろと教えてくれてありがとうな」
俺は木こりのおっさんにそう礼を言って、列の前のほうに目をやった。ようやく、建物の前にいた四人が中に入っていった。そのついでに、さっきまでずっと喧嘩していたふたりもようやく決着がつき、割り込もうとしていた若い男は大人しく俺の後ろに並び直していた。
退屈な時間が続くが、俺は内心喜んでいた。
職業に関しては、ミリが作った見習い剣士の偽造証明書があり、俺の剣の腕は剣聖。並んでいる傭兵候補の中には戦闘職以外も混じっている。
つまり、俺がこの試験に落ちる要素はまずないってわけだ。
あとは面接でヘマをしなければ。
いよいよ就職運が向いてきたか。




