スライムの作業場
今回はちょっと長めです
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転職する職業を選んでください
(選択しない場合、五分後自動で選択されます)
ダイバー:Lv1
見習い忍者:Lv1
給料泥棒:Lv1
ヒモ:Lv1
野生児:Lv1
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こりゃまた凄い選択肢だな。犯罪職がないのはいいことだが。
四回目にして、はじめて被った職業がヒモのみか。いったい、何種類の職業があるんだろうか? ダイバーって、おそらくは潜水士のことだろうな。サッカー選手のダイバー(ファールされたフリをする選手)だとしたら、そんな職業は哀しすぎる。
見習い忍者か。どうせなら、普通の忍者にしてくれたらいいんだけど。
給料泥棒に関しては職業ではないだろうとツッコミたい。犯罪職ではないだろうが、しかしこれに就いたところで覚えられるのは上手に仕事をさぼれるスキルだけだろう。
野生児に関しても最早職業ではない。
この中だと、使えるのは見習い忍者か。
漫画とかだと忍者って暗殺とか飛び道具のプロっぽいけれど、偵察のプロという一面のほうが強いはずだ。ミリの行方を捜すならいい職業だ。
【第一職業を見習い忍者に設定しました】
見習いなんで過度な期待はしないほうがいいだろうけれども、でも速度補正とか上がりそうだ。
「求職スキルの職業って、普通の職業が本当にないんだな」
職業鑑定スキルがあるから癖というか習慣というか、いろいろな職業を見ている。たとえば、迷宮の入り口を守っていたさっきの衛兵は【見習い槍士】だったし、デザートランナーを預けた厩舎の職員さんは【鞭使い】だった。
俺が求職スキルで確認した職業は現在十九種類。
タンク、ヒモ、アマゾネス、見習い料理人、詐欺師、くのいち、バトルマスター、火事場泥棒、ドラゴンライダー、賢者、猫使い、猫メイド、ゴーストバスター、偽勇者、コピーキャット、ダイバー、見習い忍者、給料泥棒、野生児のみだ。
そのうち、俺が実際に見たことある職業はたった一種類。
猫使いと呼ばれる職業だけ。しかもひとりのみなのだ。
確か、猫使いになるには、ケット・シーの長に認められる必要があるんだったよな。んー、もしかして、ほかにも特定の職業になるには、特別な人に許可をもらう必要があるんじゃないだろうか? 例えば、俺の騎士という職業も、パウロ伯爵に叙勲してもらって転職できるようになった。似たようなもので、スーシェフみたいな人に認められて初めて見習い料理人になれる――みたいなことはないだろうか?
「なぁ、マスター。そろそろ行こうぜ!」
俺が考え込んでじっとしていると、痺れを切らしたニーテがそう声をかけた。
「悪い悪い。そうそう、この迷宮には伝承モンスターがいるみたいだから、それを探そうぜ。砂漠越えに役立つスキルが手に入る職業みたいだから、南大陸での移動にも役立つだろう」
「マスター、その情報聞いてきたのはあたしだろ?」
そうだった。
釈迦に説法をしたような気分だ。
「よし行くか」
そう言って、俺たちはガガリアの町の迷宮を進んでいく。
「マスター! 宝箱だぜ!」
ニーテが部屋の中に木製の宝箱を発見した。
「あぁ、ミミックだな」
「わかるのか?」
「気配探知スキルにひっかかってるからな。宝箱の中に入っているのかと思ったが、宝箱そのものから気配がするから、ミミックだろ。スラッシュ」
剣を抜いて、宝箱を破壊する。
木だと思ったのはミミックの皮のようで、木片の内側はかなりグロテスクになっている。
「ミミックって食べられるのか?」
「迷宮産の魔物はどのみち食えないよ」
迷宮で生まれた魔物は、倒されると消えてなくなる。
その代わりにアイテムを残すんだ。
【イチノジョウのレベルが上がった】
【見習い忍者スキル:手裏剣投げを取得した】
【見習い忍者スキル:クナイ装備を取得した】
【見習い忍者スキル:跳躍補正を取得した】
いっきにレベル8まで上がった。
見習い職業はやはりレベルアップが早いな。
手裏剣とクナイに関しては持っていないので必要ないが、跳躍補正スキルは使えると思う。
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跳躍補正:ステータスアップスキル【見習い忍者:Lv5】
跳躍距離、速度が上昇する。
跳躍時、目標とする着地点と実際の着地点とのブレを減らす。
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ステータスアップスキルではあるが、実際のステータスには影響はないようだ。
「マスター、魔石が落ちてる! これ、もらっていいか?」
「ん? なんに使うんだ?」
「砕いて亀の餌に混ぜるんだよ。魔物の成長速度が上昇するんだ」
「レアメダルみたいなものか?」
レアメダルは、食べさせると魔物を強化することができる。
ジョフレとエリーズが飼っている(?)ケンタウロスというロバはレアメダルを何枚も食べたため、いまでは一般兵では相手にもならない緑の巨人という魔物ですらもワンサイドゲームで倒すことができるくらいまでに成長している。
「あれとはまた違うな。上がるのはあくまでも成長速度だけだからな。大人の魔物に食べさせても凶暴化はしても強くなることはないよ」
「へぇ、そういうことなら持っていけ。袋とか必要か?」
「ポケットに入れておくよ」
そう言って、ニーテはポケットの中に魔石を入れた。
いるよな、こういうなんでもポケットの中に入れる小学生って。
まぁ、別にいいんだけどな。
「魔物、あんまりいないんだな」
「戦争前だからな。兵のレベル上げに使ったんじゃないか?」
「ありそうだな――今回は急ぐわけでもないし、レベル上げをしながら降りていくぞ」
「おう」
そういうことで、俺たちは時間を掛けてゆっくりとダンジョンを攻略していった。
というより、時間を掛けざるを得ないんだよな。
フロアランスやベラスラ、ゴマキ山の迷宮ではハルの嗅覚により正しい道がわかっていた。ダキャットの迷宮では魔物が湧き出てくる場所がそのまま道しるべになっていたし、ケット・シーの迷宮ではステラが、デイジマの迷宮ではミリが道案内をしてくれた。
今回は道案内も道しるべもないから、定石通り総当たりで探索を行った。
砂漠の近くの迷宮だけど、砂漠にちなんだ魔物は少なかった。
むしろ、ゴーレムのような物質系の魔物が多い。
経験値はそこそこあり、
【イチノジョウのレベルが上がった】
【見習い忍者スキル:隠形を取得した】
【見習い忍者スキル:暗視を取得した】
【見習い忍者スキル:刀装備が刀装備Ⅱにランクアップした】
と、ここまでで見習い忍者のレベルは18まで上がった。
隠形スキル、暗視スキルと役立つスキルが次々に手に入るが、人探し向けのスキルはいまのところないか。
「マスター、ここじゃないか?」
「ここって、なにが?」
「伝承モンスターの居場所だよ。ほら、ここに書いてあるだろ?」
ニーテは扉の上に掲げられた看板を指さした。
『スライムの作業場』
スライムか。スライムと言えば、フロアランスで会ったな。確か、物理攻撃は効きにくいが、魔法に弱い魔物だった。フロアランスで倒したスライムは二種類。ひとつは普通のスライムで、スラッシュで倒した。その後で見つけた金色のスライムはプチファイヤーで倒し、そこでレアメダルとレアハンターの称号を手に入れたんだった。
ハルの話によると、スライムを直接剣で攻撃すると腐食するから遠距離攻撃が必要か。
でも、今回は戦いじゃない。
俺は扉を開けた。
「えっ!?」
扉を開けて俺は驚いた。
部屋はとても広い空間になっており、砂に満ちていた。
そこで一匹のスライムが、砂を体内に含んでは吹き出して砂の建物を作っていた。
「サンドアートってやつか?」
「だな、見事な像だ。でも、なんでトレールール様の女神像なんだ?」
スライムは砂を使って寝転がっているトレールール様の女神像を砂で作っていた。
そのスライムは、こちらをじっと見ている。
「マスター、扉を閉めろっていってるみたいだぜ? 風で崩れるって」
「あ……悪い」
俺は扉を閉めた。
なんで俺はスライムに気を遣っているんだ?
「マスター、ここに説明があるぜ」
ニーテの言う通り、部屋の壁に文字が彫られていた。
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●スライムの作業場
部屋の壺にある海水から真水を作ってスライムにあげよう。
ただし、魔法の水はスライムにとっては毒なのであげてはいけない。
外から水を持ち込んでもいいが、井戸水でも不純物を含んでいることが多いので適さない。
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スライムに水をあげればいいのか。
「マスター、ここに海水の入った壺があるぜ。ろ過すればいいんじゃないか?」
「ろ過か……ちょっと試してみるか」
スキルろ過を発動させる。
かつて、デイジマでどぶろくから清酒を作ったスキルだ。
スキルを発動させて十秒後、表面の水を手で掬って舐めてみる。
「やっぱりダメか。スキル説明によると、ろ過スキルは不純物を取り除くスキルらしい。ただし、完全に溶け切っている物は取り除けないんだ。泥水から泥を取り除けても、塩水や砂糖水から塩や砂糖は取り除けない」
「なら、どうするんだ?」
「簡単だ、一度沸騰させてから水蒸気を集めればいい――んだが」
俺はアイテムバッグの中から薬局で売られている精製水を取り出した。
それをスライムの頭にかけてやる。
日本の技術を駆使して純水に近付けた精製水だ、これでダメなら蒸留してもダメだろう。
【職業:サンドアーティストが解放された】
よし、クリアできた。
スライムは水をもらうと元気になり、作業を開始した。粘液を飛ばし、トレールール様の女神像作りを再開する。
職業をもらったので、スライムはもう倒してもいいのだが、暫く見ていようかな。
「すごいぜ、マスター! パンツまで完璧に再現している」
「いや、俺はむしろ寝転がって本を読むダメなところの再現度に驚いている。凄いな、このだらけ具合、本当にトレールール様みたいだ。しかも凄い速度だな」
もしかして――と俺はスマホを取り出した。充電完了しているスマホには、日本やこっちの世界で撮った写真が保存されている。その中で俺はその写真をスライムに見せた。
ミリとキャロの写真だ。
スライムはそのミリとキャロの写真をじっと見ると、興奮して砂を含んでは吹き出した。
途中、水が尽き欠けて作業が遅くなったが、精製水やミネラルウォーターを分けてやったら元気になって作業を進めた
そして、僅か三十分で完成させた。
ミリとキャロの砂の像を。
ハルや真里菜の写真も見せたのだが、ふたりの像はない。
「このスライム、やっぱりロリコンだったのか」
道理でこの迷宮に女神像があるはずのセトランス様ではなく、トレールール様の像を作っているはずだ。どうやってトレールール様の姿を知ったのかはわからない。スライムの性癖を見抜いた者がトレールール様の肖像画を見せてみたとか、そんなオチだと思う。
「マスター、それを確認するためにあたしたち三十分も待ったのか?」
「いいだろ――急ぐわけじゃないし」
そう思ったとき、スライムが触手で俺の足を叩いた。
なんだ?
と思ったところで、スライムは壁にへばりつき、中に入っていく。
「スライムが溶けた?」
「壁の隙間の中に入っていったんだ」
なにを見せられているんだ?
そう思ったとき、壁が倒れた。
その倒れた壁の向こうにあったのは――部屋?
草がいっぱい生えている部屋だ。部屋の中央には石碑がある。
「薬草畑だな。もらっていいのか?」
スライムが頷いた。
「なるほど、どうやらマスターのことを同士と認めたらしいぞ」
「同士って……これ、いい草なのか?」
「ああ、珍しい薬草だな。これはマイワールドに持ち帰れば薬草畑が作れそうだ」
ニーテが薬草を丁寧に抜いていく。
俺も手伝った。薬草は全部摘み切らず、必要な分だけにした。
「いいスライムだったな」
「だな。で、マスター、いいのか?」
「いいって、なにがだ?」
「あのスライム、これから毎日キャロやミリってマスターの妹の砂像を作り続けることになるんだぞ? ふたりに知られたら怒られるんじゃないか?」
「――――っ!?」
そこまで考えていないかった。
怒るだろうか?
像を作られること程度では、たぶんミリもキャロもそこまで怒らないと思う。
しかし、ロリ扱いされた結果、像を作られていることを知れば……怒るだろうな。
かといって、薬草をもらっちまったので、いまさらあのスライムを殺して口封じする気にはならない。
「……ニーテ、このことは――」
「わかった、内緒にするよ。貸しひとつな」
焦る俺とは対照的に、ニーテはどこか嬉しそうだ。
そんなに俺に貸しを作れたのが嬉しいのか? と尋ねたがそうじゃなかった。
「いや、あたしはあのスライムからしたらロリじゃないって安心したんだよ。大人の女性だな」
「あぁ、そっちで喜んでいたのか」
「勿論、貸しも嬉しいぜ? そうだな、この貸しでマスターの背中を洗う権利をもらうつもりだ」
「そんなことで俺の借りはなくなるのか?」
「ああ、あたしのおっぱいで背中を洗うからな。マスター、絶対おっぱいで洗われたら恥ずかしがって逃げ出すだろ?」
……大人の女性はおっぱいって連呼しないぞ。
本当にこいつはぶれないな。
そもそも、おっぱいで背中を洗うには、お前のそれは小さすぎるだろ――と俺が無言でため息をつくと、背後からニーテにチョップされた。
なんで俺の考えがわかったっ!?




