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成長チートでなんでもできるようになったが、無職だけは辞められないようです  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
砂漠の王国編

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守りたいものと守らなくてはならないもの

新年おめでとうございます

 さすがに砂漠の真ん中で放置するわけにもいかないので、とりあえずデッキチェアーの上に寝かせてパラソルを立てる。

(さすがミリのアイテムバッグだな――ここはリゾートビーチかよ)

 俺のアイテムバッグの中には「MADE IN 地球」のアイテムが山のように入っている。ミリが持ち込んだアイテムをアイテムバッグに入れたのだ。本来、アイテムバッグには契約魔法が掛けられており、契約者にしか開けることができないはずなのに、闇魔法の中にその魔法を打ち消す魔法が存在し、ミリは自分のアイテムバッグのうち、ひとつを誰でも使えるようにしていた。

 そのため、ミリが使っていたアイテムバッグの中身は一度俺のアイテムバッグに移してから、現在はハルたちに使ってもらっている。

「竜巻切り」

 剣戟で竜巻を作り出す――ってでかいな!

 サンドワームよりも大きな竜巻が、その氷をバラバラに切り刻んだ。

 いまは剣聖、侍、闇魔術師、光魔術師とバランスの取れた職業にしていた。しかし、竜巻切りの威力は物攻に比例するそうだから、もしも物理攻撃主体の職業にしていたらどうなってたんだ? 恐ろしいな。

【イチノジョウのレベルが上がった】

【侍スキル:流鏑馬を取得した】

【闇魔術師スキル:魔攻補正(王)が魔攻補正(帝)にスキルアップした】

【職業:氷魔術師が解放された】

【光魔術師スキル:魔攻補正(帝)が魔攻補正(皇)にスキルアップした】

【職業:雷魔術師が解放された】

 よし、全職業レベルアップした。

 剣聖はスキル無しか。

 でも、魔攻補正がさらにパワーアップしたのは大きい。

 王と帝と皇って、ここまでくると本当にその順番でいいのか? そもそも違いがわからないが、なんて思ってしまう。

 職業もいい具合に開放されたな。氷魔法や雷魔法って光魔法や闇魔法よりも先に覚えるんだけど、職業が解放されるのは後なんだな。このふたつは、とりあえず光魔法と闇魔法を極めてからレベルアップを図ることにしよう。

 職業と言えば……と俺は少女の職業を再度見た。

【貴族:Lv2】

 やれやれ、砂漠に入っていきなり貴族の女の子を助けるとか、俺はどこのヒーロー小説の主人公だよ。ドラゴンに誘拐された姫のほうじゃなくて本当によかった。

 厄介事の予感しかしない――いや、厄介事で言うのなら、もうこの国に来たときから厄介事の連続だった。

 太陽の動きに合わせてパラソルの角度を変える。周囲の温度は氷漬けになったサンドワームの破片のおかげでだいぶ下がっていた。このまま溶けてしまえばスプラッター映画のようなグロテスク映像になってしまうだろうから、少女が目を覚ます前に、砂をかけておくことにした。

 あとは水さえ飲ませることができれば熱中症になる危険は回避できるのだけれども、気を失っている少女に無理に水を飲ませれば誤嚥の恐れがあるし、顔色を見る限りそこまで深刻な状況ではないと判断し、俺は彼女が目を覚ますのを待った。

「ん…………ここは……」

 少女はテンプレともいえる台詞を言った。どうやら意識を取り戻したようだ。

 少女はゆっくりと起き上がると、俺の顔をパンパンと二回叩く。

「…………痛くない、これは夢ですね」

「痛いのは俺の頬なのですけど」

「痛いのなら夢ではないんですね」

 虚ろな瞳で俺の両頬に手を添える少女。

 このままキスでもしてしまいそうな雰囲気であるが、徐々に彼女の目に正気が戻ってくる。

 あるときを境に、どうやら自分がなにをしているか気付いたようだ。

 慌てて両手を離す。

「し、失礼しました。えっと……ここは?」

「ここは砂漠の真ん中です。あなたは盗賊に追われていたんだけど覚えていますか?」

「そ、そうでした……あれ? でも盗賊はいったいどこに? サンドワームは?」

 彼女は首を傾げて言う。

 どうやら気を失う直前の記憶が抜け落ちているようだ。

「申し遅れました。私は、シュメイ・ユ・ハリエルです。ここから北西にあるガガリアの町を目指している途中、砂漠の遺跡を(ねぐら)にする賊に襲われてしまったようです」

「これはこれはご丁寧に。私の名前はイチノジョウと申します。職業は――旅の剣士と言ったところでございます」

 相手は貴族なので、少し丁寧に受け答えをした。

 俺が剣士であるという職業証明書までアイテムバッグのなかに入っているから、普段はそう名乗ることにしている。

 いったい、ミリがどうやってこんな嘘の身分証明書を用意したのか、結局わからないままだった。

「どうか、敬語はおやめください。イチノジョウ様のほうが年も上のようですし、あなたは命の恩人です。それに、私は敬語を使ってもらうような家柄ではありませんから」

 シュメイはそう言って微笑んだ。でも、職業は貴族なんだよな?

 いちおう、俺も准男爵という身分ではあるが、貴族ではない。となると、やはり敬語を使うべきなんだろうが、どうやら彼女は身分を隠しておきたい事情があるようだ。

「わかったよ、シュメイ」

 俺はそう言って彼女に手を差し出すと、彼女は俺の手を一瞥し、笑顔で握った。

「俺もちょうどガガリアの町に行こうとしていたんだが、よかったら一緒に行かないか?」

「よろしいのですか?」

「もちろんだ」

 俺が口笛を吹くと、デザートランナーが走って駆け寄ってきた。その口の中には、さっき俺が倒したサンドワームの氷片が入っている。

(早く食べろ!)

 俺はそうデザートランナーに囁き、急いで食べさせる。

 本当にこの食いしん坊は――でも助かる。

「イチノジョウ様、どうかなさいましたか?」

「いや、なんでもない。直ぐに行くよ」

 そろそろここを出ないと、サンドワームの氷片も溶けかけている。砂で隠していても臭くなるからな。

 俺はようやく食事を終えたデザートランナーの口を拭いて、パラソルとデッキチェアをアイテムバッグに入れた。

 そして、デザートランナーに飛び乗ると、シュメイに手を差し出す。

 シュメイは俺の手を掴むと、俺の後ろに乗った。

「このデザートランナーは力が強いんですね」

「あぁ、それ以上に大喰らいなんだ。買い手が付かないって言ってたから安く買えたんだ」

「ガガリアの町へは、いったいどんな用事で行くのですか?」

「ガガリアの町には、迷宮がある。そこにいる砂の蠍という伝承モンスターを倒すと砂漠越えに便利な職業が手に入るという話を聞いたんでね」

 砂漠を越えるのは苦労する。

 まず、暑い。南大陸全体的に気温が高いが、砂漠はさらに気温が増す。

 さらに馬車が使えない。砂に車輪が取られるし、馬への負担が大きすぎるからだ。

「あ……あの。イチノジョウ様、伺いたいのですが。盗賊とサンドワームを倒したのはイチノジョウ様――」

「あぁ……ええと、それは――」

「のお仲間の方でしょうか?」

 ……はい?

 えっと、どうしてこの状況で、サンドワームを倒したのが俺じゃなくて俺の仲間だってことになるんだ?

「さっきのことを思い出そうとしているのですが、サンドワームが氷の魔法で倒された気がして――でもイチノジョウ様は剣士様なのですよね? それなら――」

 あぁ、そうか。

 俺はサンドワームを魔法で倒したけれど、剣士って名乗ったからな。確かに不自然か。

「それに、サンドワームの鱗はとても硬く、その剣で倒すのは非常に困難な気が――」

「いや、俺の仲間じゃないよ。通りすがりの魔術師さんが倒してくれたんだ。凄かったよ」

 俺は笑いながら言った。

 そんな都合がいい展開があるだろうか? と自分で言っていて思ったが、しかしシュメイはそれでいちおう納得をしたようだ。

「そう……ですか」

 なぜか少し残念そうにシュメイは言った。

 もしかして、俺が護衛だと心許ないとでも思ったのかな?

「まぁ、安心してくれよ。あの魔術師ほどじゃないけど、俺も剣の腕には自信があるからさ」

「はい、お願いいたします」

 弾んだ声でシュメイは言った。

 かなり訳アリのようだが、訳アリはこちらも同じなのだから、お互い言いっこなしだ。

 彼女の身分を使えばガガリアの町にすんなり入ることができるだろうから、助かるのは俺も同じだろうし。

(それに、ハルたちと別行動を取っているせいで、ひとり旅は寂しかったからな)

 俺は未だ西大陸にいるはずのハルやキャロ、マリナたちを思い浮かべてデザートランナーを走らせた。

 それにしても、なんでこんなことになったんだろうな。

「シュメイ、魔術師さんに聞いたんだけど、手紙を届けるんだって?」

「あ、あの、そのことは忘れていただけると助かります」

「忘れるのはいいんだけど、魔王がどうとか言っていなかったか? 魔術師さんから聞いたんだけどな」

「……そのことは忘れてください」

 シュメイの言葉、その頑なさに俺はいまはそれ以上尋ねることができない。

 でも、俺も引き下がるわけにもいかない。

 か細い糸ではあるが、現魔王軍についての、つまりはミリに関する情報が得られるかもしれないのだから。

 まぁ、一週間ある。

 ゆっくり話を聞けばいいだろう。

「シュメイの家はどこにあるんだ?」

「公都コロンに住んでいました」

 公都コロンはハンムノから北東にある、砂漠の近くの町だった。都というだけあって、公王が直に治める、この国最大の都市らしい。

 砂漠に近いのに、水の都とも呼ばれており、その宮殿の美しさは世界でも五本の指に入るとか。

「公都か。都会っ子なんだな」

「いえ、そういうわけではありませんよ。私は元々大森林近くの小さな町に住んでいたんです」

「大森林の近くか。いい町なんだろうな」

 俺はララエルを思い出した。

 ダークエルフが治める大森林、きっといい森だろう。その森の近くの町ならば、自然も豊かに違いない。

「はい、とってもいい町です……とっても」

「そうか」

「あの、イチノジョウ様。イチノジョウ様は、守りたいものと守らなくてはいけないもの、どちらかひとつを選べと言われたらどうなさいますか?」

「いきなり抽象的な話だな」

「す、すみません」

「いや、いいよ」

 守りたいものと守らなくてはいけないものか。

 俺の場合、守りたいものといえば、ハルやキャロ、それにミリの三人が全員一位だな。

 守らなくてはいけないものって、つまりは義務って意味なら、女神様との約束と、あと、いちおう俺はシララキ王国の準貴族でパウロ伯爵の部下だから、シララキ王国を守らなくてはいけないだろう。

 どちらかって、そんなの決まってる。

「守りたいものだな」

「即答ですね」

「まぁ、気楽な旅人だからな。それほど義務ってのもないし、それに、どっちが正しいのかわからないのなら尚のこと守りたいものを守るべきだろ」

「どうしてですか?」

「守らなくてはいけないものって言うのは、自分ではない誰かが自分に課して守らせるものだ。それを選ぶということは、その責任を自分ではない誰かに押し付けることになる。守りたいものを守るっていうのは自分の意思で守ると決めたものだ。それで間違えても全ては自分の責任、誰も責められないからな。まぁ、一番良いのは、両方守るのだろうが」

 まぁ、世界を守るか大切な人を守るかとか、そういう二択だったらきっと答えは違うのかもしれないが、基本的に小物の俺にそんな選択肢が訪れるわけもないので考えないでおく。

「……そうですね……ありがとうございます」

 シュメイは控えめに笑って、俺にそう礼を言った。

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