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砂漠の少女

 北へと進むと、土壁のようなものが見えてきた。土壁といっても高さは五十センチくらいしかない。

 デイジマにもあったけれど、砂避けの壁のようだ。これ以上砂漠が広がらないように作っているのだろう。

 俺はアイテムバッグから、さらに魚を一匹出して、デザートランナーの前に投げた。見事に空中キャッチして、嬉しそうに鳴いた。

「よし、行くぞ」

「クエェェェっ!」

 デザートランナーはもう一度鳴き声をあげると、五十センチどころか二メートルは高く跳んで壁を乗り越えて砂漠入りした。

「うぉっぷ」

 口の中に砂が入ってしまう。

 デイジマの砂漠とは全然違う。

 デイジマの砂漠が鳥取砂丘だとしたら、ここはゴビ砂漠……は言い過ぎでも地球で十番目に広いタクラマカン砂漠くらいの差はあるんじゃないだろうか?

 地平線がぼやけて見える。

 いまは壁があるからいいが、これは確かに方向感覚がわからなくなりそうだ。

「行くぞ! オアシスについたら特大のゲソ足一本食わせてやるからな!」

「クエ、クエェェェっ!」

 砂漠で足場が悪いにもかかわらず、三本指の後ろ足で砂漠を駆けていった。

 砂が続く砂漠。時折、トカゲやサソリのような生物がいたけれど、強い魔物ではないようなので、そのままにして北へと向かった。

 一時間に一度、鷹の目スキルを使って上空から地上の様子を見る。

 遠くにオアシスのようなものが見えたので、デザートランナーをそちらに走らせる。実はオアシスは蜃気楼だった、というオチもなく、そこで休憩。デザートランナーに約束通り巨大イカのゲソ足を一本食わせてやった。

 食いしん坊なデザートランナーも、その巨大なゲソ足は食べきれなかったようで、四分の一くらい残して満足したようだ。

 アイテムバッグの中に入れようかと思ったら、デザートランナーは自分の口の中に入れた。しかし、この場で食べるのではなく、口の中に保存しているという感じだ。栗鼠が頬袋にしまっているみたいなものだろう。

 オアシスの中を見ると、小魚がいたが、さすがにこれは栄養にも経験値にもならないだろうということで、ヤシの木みたいな木の下で休憩することにした。

 にしても、砂漠って本当に広いな。

 オアシスを辿るルートで昼間のみの移動なら、一週間か。

「ん? なんだ、この音は――」

 地鳴りのような音が聞こえてくる。

 と思ったら、とてつもない気配が――

「この雰囲気、あれみたいだな」

 となると実に厄介だ。

「デザートランナー」

「クェッ!」

 俺はデザートランナーに跳び乗ると、全力で走らせた。

 直後、俺の背後からそいつが現れた。

 黄土色の巨大ミミズが。

「サンドワームってやつか」

 こいつが砂漠に現れることは知っていた。

 ただし、これは――まるでイトミミズ。フェルイトで出会ったあいつにそっくりだ。

 イトミミズはフェルイトの土壌を改良する守り神みたいな存在らしいが、サンドワームはどうなんだ?

 倒していいのかわからないので、とりあえず逃げることにした。

 重さを減らすために、剣はアイテムバッグに入れる。

 このデザートランナーは大喰らいなだけあって、力持ちのようだ。みるみるサンドワームから距離を取っていく。

 だいぶ距離を稼いだ――と思ったそのときだった。

 俺はそいつらを見つけた。

 職業が盗賊になっている男たちと、そして盗賊に追われていた少女を。

 盗賊たちは少女を取り囲み、隷属の首輪を無理やりつけようとしている。下品な顔を浮かべ、なにやら良からぬことを考えているようで、俺が近づいても全然気付いていないようだ。

 ん? また地鳴りが聞こえる――反対側からもサンドワームが来ているようだ。こりゃ、挟まれたな。

「あのぉ、お取込み中すみません」

 盗賊だろうと、魔物に食われてしまうのを見るのは気持ちいいもんじゃないし、いちおう注意をしておこう。

「いちおうわかってはいるんですけど、盗賊三人が罪もない女の子を無理やり奴隷にしている――っていう場面で合っていますよね」

「お逃げ下さい!」

 俺の質問に答えず、少女が俺に逃げるように言ってきた。

 あぁ、武器とか邪魔になるからアイテムバッグにしまっていたので、剣士に見えなかったようだ。

「だったらなんだって言うんだ? おぉ、兄ちゃん」

「隷属の首輪って、奴隷商にしか扱えないって思っていたんだけど」

 と俺は盗賊たちの職業を見た。

 犯罪職ばかりだが、ひとりだけ異質な職業の持ち主がいた。

【闇奴隷商人:Lv13】

「そっちの男が奴隷商なんですね」

「な、なぜそれをてめぇが知っていやがる」

 職業を言い当てられたときの反応はいつも同じだな。

「いや、それを話すより、魔物に追われていまして迷惑をかけてしまうかもしれないなと思っていたんですけど……」

「魔物に?」

 と、追いつかれたか。

 俺の後ろにサンドワームが現れた。ここに来るまでにサボテンいっぱい食べてきたようだし、腹いっぱいになってくれて……いないよな。

「そ……そんな――サンドワームっ!?」

「――逃げろぉぉぉぉっ!」

 砂賊たちは一目散にサンドワームのいるほうと反対方向に逃げ出した。

「おい、待てっ! そっちはっ!」

 そう叫んだが――手後れだった。

 そっちにもサンドワームがいるのに気付かなかったのか。

 全員一度に丸呑みにされてしまった。

「やれやれ、だからそっちに行くなって言おうとしたのに――えっと、君はこのあたりの人かな?」

 俺は平静を装いながら、運よく助かった彼女に尋ねる。

「え? はい――そうですけど」

「サンドワームってこのあたりの大地の守り神とかそういう話はあったりする? フェルイトじゃイトミミズっていう似たような魔物が大地に恵みを与える大切な魔物だったりするんだけど」

「いいえ、そういう話はありません」

「そっか――じゃあ殺しても問題ないよね」

 俺はそう言うと、小さな声で魔法を唱える。

 相手はエメラルタートルよりも大きいのでプチアイスでは辛いか。

「アイスっ!」

 俺が魔法を唱えると、サンドワームが一気に凍り付いた。っと、同じ魔法は連続で使えないので、

「ブーストプチアイスっ!」

 と魔法ブーストで巨大なサンドワームの氷柱をもう一本作り出した。

 いやぁ、涼しい。

 暑かったからちょうどいいや。

 ここでもう一度休憩にするか。

 さっきの少女も、一緒に食事でもどうか?

 そう尋ねようとしたのだが、気付けば少女はその場に倒れてしまっていた。

「……どこのどなたか存じ上げませんが――お願いです。私の荷物の手紙を――ハイドル侯爵の元へ――届けてください」

 俺に言っているのだろうか?

 そう思って駆け寄ったところ、彼女は一本の筒を持っていた。

 これを届けろってことか?

 俺が受け取ると、彼女は――

「お願いします――このままでは魔王が――魔王が」

 そう言って倒れてしまった。

「……え? ミリがどうかしたのか?」

 そんな俺の声が彼女の耳に届くことはなかった。

よいお年を!

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