ピオニアの隠れた体質
とりあえず、情報を一通り集めた。
といっても、海のこと以外ではほとんどわからない。近くにハンムノという町が、あるのか。
このまま無罪放免にすると、反省を促すことができそうにないので、全員で近くの海岸に行き、小さい蟹、海老、魚卵のついた海草、ついでにサザエやアワビのような貝類などを集めさせた。
海賊たちには、お前らが悪いことをしたと俺の耳に届いたら、今度は砦ごと魔法でぶっ壊すぞ、と脅しておいた。今後は、あの少年がオイルクリエイトで作った油を売買してお金を稼ぐそうだ。子供に頼りっきりの海賊というのも情けないな。
海賊が差し出した宝のうち半分、没収させてもらい海賊たちのアジトをあとにした。
そして、誰もいないところで、海老と蟹、貝類が入っているバケツにマイワールドへ入るための許可シールを貼って、マイワールドへと戻った。
そして、その直後――
「すみまっせんでしたぁぁぁ!」
海賊たちの土下座よりも綺麗な姿勢で、ピオニアに謝罪した。
なぜなら、俺はピオニアの自信作である帆船を失ってしまったんだから。
スキルの不具合やトレールール様の陰謀があったとしても、帆船を失ったのは俺の責任だから潔く謝罪する。
「頭を上げて、事情を説明してください。どうなさったのですか?」
ピオニアに言われ、俺は起こった出来事をすべて話した。
海賊に襲われたという話はすでにシーナ三号から聞いていたようなので驚かなかったが、船をほったらかしにして強制転移という事情は、当然知らなかったようだ。
「把握しました。それはマスターの責任ではありませんので、謝罪の必要はありません」
「そうか? でも俺がシーナ三号を見張りに残せば船を失わずに済んだと思うんだが」
「その場合、シーナ三号ひとりで海の上を漂わせることになります。マスターの判断は間違っていません」
そう言われて、俺はピオニアの心の広さに一安心した。
あれだけ楽しそうに船を造っていたのに、一カ月も経たないうちに失くしたと言ったら絶対に怒られるって思っていたからな。
「それに、帆船が失われたのなら新たな帆船を作ることができます。楽しみです」
訂正、いままでの発言は寛容な心の賜物ではなく、自分の欲望によるものだった。いや、俺の心を楽にさせるために、そう言っているのかもしれないな。
ピオニアは早速俺が集めてきた(というよりほとんど海賊に集めさせた)海草や小海老、小蟹、貝類の仕分けを始めた。貝類のうち二割ほどには寄生虫が入っているそうだ。このままでは使えないが、焼けば大丈夫だそうなのでピオニアのおやつになるらしい。
ついでに、ここからは服装を砂漠仕様に変更する。
海賊たちから穏便に譲ってもらった白いベールを頭から被った。この国の民は全員このベールを被っているらしい。あと、服を半袖から長袖に変えた。
いままで着ていたのと同じようなデザインの服だけれども、ミリが持ってきてくれた日本製の服でサラサラしていて気持ちいい。半袖のままでいないのは、どうやらこの国は熱帯気候であり、砂漠が多いと海賊から聞いたからだ。
灼熱の乾燥地帯で素肌を晒して行動すると、火ぶくれなど低温火傷を起こす危険もあり、最悪命に関わるため、ほとんどの国民は長袖で移動するそうだ。ただし、一部の貴族は高級な日焼け止めの薬を塗っているため、素肌を晒しても大丈夫なんだとか。
馬車に乗り、ハンムノの町を目指すことになった俺だが、大問題が起きた。いや、起こる予感はしていた。
フユンが言うことを聞いてくれないのだ。
シーナ三号も女だから御者を任せればなんとかなるかと思ったが、ダメだった。やはり馬だからか、シーナ三号が普通の女性とは違うことを感じ取ったのだろう。
乗馬スキルを持っているので、無理やり背中に乗ってやろうかと思ったが、俺が乗ろうとすると暴れだした。意地でも乗らせるか! という雰囲気だ。
こんな状態だったら、マイワールドから出ることもできない。
歩いていくしかないのか? せっかく馬車に載せるための偽装の荷物(油壺)まで用意したのに。
「どうどう、あたしが御者をするよ。フユン、それで文句ないだろ?」
とそう言ってフユンを宥めたのはニーテだった。いつの間にか、アラビアンナイトの姫様のような恰好をしている。砂漠の国にはぴったりだ。
鬣を撫でられ、落ち着くフユンだったが、ニーテが御者?
「おい、ニーテ。お前、この世界から出られるのか?」
「ん? 当然だろ?」
「いや、でも以前ピオニアは出られないみたいな事を言ってたが」
「そりゃ、ピオニア姉さんは基本引きこもり体質だから」
そうだったのかっ!?
初耳だ。
え、あいつ引きこもりだったの?
だとすれば、とんだアグレッシブな引きこもりもいたものである。俺のスキル【引きこもり】によって生み出された世界の管理人にぴったりと言ってもいいかもしれない。
「否定します、マスター」
「って、急に現れるな。心臓に悪い」
どこから話を聞いていたのか、俺の背後にピオニアが立っていた。
気配探知スキルでも気付かなかったぞ、おい。
「私は外の世界に出られないのではありません、外の世界に出る必要がないと思っているだけです。ここにいれば大抵の物資は手に入りますし、必要なものはマスターに買ってきてもらえば問題ありません」
「それって、家の外に出なくてもパソコン一台あれば金を稼げるし、必要なものだってネット通販で手に入る――と言っている引きこもりのようなものか? ……いや、なんでもない」
怖っ!
物凄い形相で睨まれた。え? こいつって怒らせるとこんなに怖い顔をするの!?
一瞬だったのでよくわからなかったけれど、しかし一瞬だったからこそ恐怖だけが明確に残る。こいつは夜叉か。
「マスター、私はトレールール様よりこの星の管理を任されており、トレールール様がいつ来ても構わないように出迎える準備をしないといけません。よって、ここから出ることはできないのです。決して引きこもりというわけではありません」
「そ、そうだな。うん。その通りだ。だから怒るな」
俺は凄んでくるピオニアを宥めた。




