謎のスキル発動再び
航海はすこぶる順調だった。嵐に遭遇することもなければ、当然ネズミが大量発生することもなかった。
そして、釣りのほうも順調だ。
翌日。
よっし、来た!
釣れたのは巨大海老。海老といってもイルカくらいの大きさがある。
昨日も釣れて晩ご飯に食べたが、かなり美味かった。
経験値はそれほどでもないのだけれど、
【イチノジョウのレベルが上がった】
それでも成長速度四百倍の恩恵か、レベルが上がった。
【コピーキャットスキル:セルフコピーを取得した】
ん? なんか変わったスキルだ。
効果を調べてみる。
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セルフコピー:魔法系スキル【コピーキャットレベル20】
【コピースロット】とスロット番号を唱えると、現在の使用者のステータスの数値のみを記録することができる。
【ペーストスロット】とスロット番号を唱えると、一定時間、セーブしている使用者のステータスの数値と同じ状態になる。
【リセット】と唱えると、一定時間が経過しなくてもステータスは元に戻る。
ただし、職業は変わらず、現在HP、現在MPが増加することはない。
ペースト前のHP・MPが最大HP・MPより高い場合、現在HP・MPは最大HP・MPと同じ値になる。
スロットは五つあり、効果持続時間は魔法の熟練度によって変わる。
もとのステータスに戻ると、ペーストスロットは五分間使用できない。
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考えること数分。
最初は、自分のステータスをコピーしてなにが楽しいんだ? なんてバカみたいなことをと思ったけれど、これってかなり凄いスキルだな。
たとえば、見習い剣士を極めた人間が剣士に転職すると、剣士のレベルが一定に達するまでステータスは見習い剣士のときよりも下回ることになる。だが、見習い剣士が最大レベルのときに数値をコピーしていたら、それをペーストすることで全盛期の力を取り戻すことができる。
それだけじゃない、剣士として修業を積んだ人間が魔術師になったとき、敵に接近戦に持ち込まれたら剣士としてのステータスで戦うことができる。俺が持っているような自由に職業を変更できるスキルは、他の人にはないのだから。
俺が使うにしても、最強のステータスの職業でステータスをコピーすれば、低レベルのほかの職業を鍛えるときにも役に立つだろう。
一定時間というのがどのくらいかわからないので、要検証だが、いいスキルが手に入った。
【求職スキル使用開始より二十四時間が経過しました】
【第一職業が無職に戻りました】
おっと、二十四時間が経過したらしい。タイミングとしてはナイスだ。
とりあえず、第二職業から第五職業を設定して、第二職業から第五職業を火魔術師、水魔術師、風魔術師、土魔術師にした魔術特化タイプのステータスだけでもコピーしておこう。
そのあと、俺は休憩を交えながらさらに南大陸を目指した。
さらに航海は続く。
旅はやはり順調。
ただ、魚の気配があまり感じられなくなったので、退屈が最大の敵になったのだけれども、ミリが残したアイテムバッグの中にあった大量の漫画に救われた。
凪で船が動かなくなったときには、ミュージックプレイヤーで音楽を流して優雅にお茶をする余裕もあったくらいだ。もっとも、讃美歌の三百二十番の曲が流れてきたときはさすがに驚き、プレイヤーを止めたが。あれはタイタニック号が沈むときに流れていた曲だからな。
そんなちょっとしたエピソードがあるにはあったが、翌日には南大陸が見えてきて、海岸沿いを進むことになった。
俺たちは小さな蟹や海老、海草などが獲れそうな海岸を捜していた。
そんなときだった。
「マスター、進行方向一時の方角に救難旗を掲げている漁船があるデス」
シーナ三号がそんなことを言い出した。
言われた方角を見ると、俺が乗っているよりも遥かに小さい、小型のボートが漂っていた。帆が破れており、あれでは風を受けてもまともに進むことができないだろう。
「船に乗っているのは子供ひとりか――」
帽子を被った色白の男の子が手を振っている。
子供はまだ体力があるらしく、黄色い旗を振って助けを求めているようだ。
「マスター、このあたりは岩礁地帯デス――帆船で近付くのは危険デス」
確かに、海底もかなり浅く、俺たちが乗っている船で近付けば船底を傷付けそうだ。
仕方がないので、一度船を停泊し、小船で子供が乗っているボートのほうへと向かうことにした。
「待ってろ、いま行くからな!」
俺は帆船の上のシーナ三号に、念のためマイワールドに避難しておくように言った。
そして、大きな声をあげて小船を漕ぐ。
もう少し――というところで気付いた。
気配探知スキルが反応することに。
岩陰に気配がする――四つも。
他にも誰かいるのだろうか?
ヒッチハイクで可愛い女の子が助けを求めていて、車を止めたらいかつい男たちが現れる――みたいなことか?
それとも――
「おい、坊やひとりかっ!?」
「そうだよ、助けてよ!」
子供がそう叫んだ。
おかしい。岩陰からは確かに気配がする。魔物でもいるのか?
子供はかなり焦っているように見えるが、俺は思考トレースを発動させた。
すると、子供の感情に気付く。
僅かな焦りと不安、そして期待があるが、ほとんどの感情は俺を嘲り笑う気持ちだった。
あぁ、――やっぱりそうか。シーナ三号をマイワールドに避難させて正解だったな。
俺はこっそり鷹の目を発動させる。
上空から見下ろしてみると――やはりだ。
岩陰には大人の男四人が、武器を持って待ち構えていた。
鷹の目を使って移動した目線では職業鑑定は使えないが、しかし漁師には見えない。おそらく、海賊だろう。
しかも、ネルソンのような軍人海賊などではなく、アウトローな海賊に違いない。
俺は視線を戻す。
「んー、そこの岩が邪魔だな。魔法で破壊するから待ってろ」
と嘯いて、魔法を唱える。
「ペーストスロット一」
これにより、俺のステータスは魔術特化の状態になった。
そして、
「ファイヤ!」
と魔法を唱える。
中級魔法だけれども、俺の魔法攻撃力があれば、かなり強力なものとなる。
俺が指さした岩の上空を通り過ぎ、誰もいない岩を破壊した。
「おっと、手が滑ったな。待ってろ、今度こそ、その岩を破壊するからな」
「ま、待ってよ、兄ちゃん! そんなことしなくても、その小船で十分こっちに来られるだろ!」
「そうだな。じゃあ岩を破壊するか」
「うわぁ、この人本気だっ! ダメだ、父ちゃん!」
「ちっ!」
ここまで舌打ちが聞こえてきた。
岩陰から男たち四人が乗った小船が現れた。
その四人の職業を見る。三人は盗賊、ひとりだけが海賊だ。
ちなみに、子供だけは【平民:Lv2】だった。まだ犯罪行為に手を染めていないのだろう。
さて、普通に戦うのも面倒だし――
「プチサンダー」
俺は敵のいる海面のど真ん中に向かって雷の魔法を放った。雷は海面伝いに広がり、小船に乗っていた海賊たちを全員感電させた。
レベルが上がっていないところを見ると、殺さずに無力化できたらしい。
俺に助けを求めていた少年は無傷だったけれど、恐怖で腰が抜けて動けなくなっているようだ。
まぁ、これで一件落着だな。
俺は全員回収して、全員を縄で縛り上げる。
こいつらは、ゲノッパの町で役人に引き渡そう。
「さてと、ちょうどいいし、この辺で蟹と小海老を捕まえるか」
アイテムバッグの中からバケツを取り出す。岩礁の窪みには水が溜まっており、その中に沢蟹くらいの大きさの蟹を何匹か見つけた。
これならば亀の餌にちょうどいいだろう。
指を挟まれないように、一匹ずつ摘んでバケツに入れていく。
ついでに、海草も採取しようと思ったが、やはり潜らないと手に入りそうにない。
波は穏やかだが、服を脱いで入るのもな。
よし、海草はシーナ三号にでも取ってきてもらおう。
サルベージはお手の物のシーナ三号なら海草摘みくらい余裕だろう。
俺は小船を漕いで、帆船に戻る。
海賊どもが目を覚ます前に、シーナ三号に作業を終わらせてもらうか――そう思ったときだった。
「ん……」
海賊の坊主が目を覚ましたようだ。
まぁ、こいつは感電したわけではないから、目を覚ましてもおかしくない。
「ここは――」
「よう」
「う、うわぁぁぁっ!?」
「そんなにビビるなよ。取って食いはしないって」
子供に怯えられるというのはあまり気分のいいものではない。でも、まぁさっきあれだけ脅したら、怯えられて当然だな。
「ほら、周囲を見てみろ。お前の仲間、全員気を失っているけど殺してないだろ?」
「え? あ……父ちゃん……えっと、兄ちゃん、おいらたちどうなるの?」
「どうもこうも、お前らは海賊だからな。ゲノッパの港町で役人に引き渡すつもりだ。どうなるかは役人次第だな」
「そんな。そんなことをしたら、父ちゃんたち、奴隷堕ちになっちゃうよ!」
そういわれても、こっちは襲われているしな。
ここで解放したら、別の誰かが襲われる危険がある。
「待ってよ。おいらたち、そんな悪いことしてないよ」
「悪いことしたから職業が海賊になってるんだろう」
「いや、おいらたち、海賊じゃなくて、このあたりの漁師なんだ。悪い海賊が出るから、おいらが囮になって海賊を倒そうとしたんだよ。まさか兄ちゃんが悪い人じゃないなんて思わなかったんだ」
また子供らしい、わかりやすい嘘をつくな。
当然、思考トレースをしてもそれが嘘だとわかる。
この子供以外の職業が全員犯罪職であることは確認済み。元々漁師だったのは事実だろうが、罪を犯している以上放っておけない。
「悪いが信じられないな。お前の親父さんが持っているのは人を殺すための剣だ。漁師がそんな武器を持っているとは思えない」
「それは……借りたんだ! 旅の剣士さんに」
「それが本当だとしても、それなら役人に引き渡しも問題ないだろ。もう諦めろ。悪いがこのまま連れていく。いちおう、情状酌量で罪が軽くなるように頼んでやるよ」
俺がそう言うと、少年は頷き、そしてため息をついた。
「わかった、諦めるよ」
「そうか、それはよかった」
「この国にいるのは。拠点帰還」
待て、その魔法は――
「アンジェラ」
嘘だろ。レア中のレアと言われた魔法をこんな子供が――と思ったが、ブラフではなかった。
少年だけでなく、気絶していた海賊たちも消えていなくなっていた。
どうやら、アンジェラというのは少年と仲のいい女性で海賊なのだろう。
奴らは自分たちのアジトに逃げたということだ。
逃げられちまったな。まぁ、別にいいか。
そう思ったときだった。
【スキル××××の効果が発動しました。スキルフェイクマジックの効果が発動しました】
【スキル××××の効果が発動しました。スキルフェイクマジック《拠点帰還:アンジェラ》が発動しました】
げっ、また出た!?
俺を無人島に拉致したスキルが、今度は勝手に俺のスキルを使いやがった――これってどうなるんだ?
そう思った次の瞬間、俺は見知らぬ洞窟の中で、縄に縛られた海賊たちと一緒に、数十人の海賊に囲まれていた。俺の目の前には少年と同じくらいの年齢の女の子――きっとこの子がアンジェラなのだろう。
フェイクマジックって他人の拠点帰還に使うとこんな裏ワザのような使い方ができるのか。でも、フェイクマジックって確か半分の効果しか発動しないんじゃなかったか?
っていう疑問を考えるのは後にしておこう。
それどころじゃないから。
俺は見知らぬ洞窟らしき場所の中で、数十人の男に囲まれていた。
「もしかして、全員友達?」
俺の問いに、少年海賊は無言で頷いた。
おいおいおいおい、なんなんだよ、この状況はっ!
【××××】のスキルは、俺のために働いているんじゃなかったんですか?
なんでこんな目に合わないといけないんだよ。
俺が転移するまでの僅かな間にすでに少年が事情を説明していたようで、どうやら海賊たちはその犯人が俺だということもわかっているらしい。
じりじりと距離を詰めて俺を囲みにかかる。
はぁ、このまま見逃してくれるわけにはいかないよな。
面倒だけど仕方ないか。
俺はアクラピオスの杖を取り出した。
あぁ、こんなことになるのなら、海賊なんて関わらずにその場に放置してくればよかった。




