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成長チートでなんでもできるようになったが、無職だけは辞められないようです  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
砂漠の王国編

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世界拡張

 当然、こんな大事なこと、俺とニーテのふたりで決めたら彼女の先輩であるピオニアの顔が立たないということで、ピオニアにも相談することにした。

「いい提案だと思います。拡張しましょう」

 二つ返事で賛同された。

「本当にいいのか?」

「肯定します。この星も少々手狭になってきましたので。私たちの家も建てさせていただこうと思います」

「そ、そうか」

 そういえばピオニアたちの家ってなかったな。てっきり俺たちがいないときはログハウスで寝ているものだとばかり思っていたんだが、野宿していた――いや、眠る必要がなかったのか。

 それでは、世界の拡張に取りかかるか。

 といっても、俺は魔力を注ぐだけなんだよな。

「じゃあ、マスター。あたしに魔力を頼むよ」

「ああ、わかった――っておい、なんでいきなり服を脱いでるんだよ」

 突然、ニーテがメイド服を脱ぎ始めた。

 俺は慌てて自分の手で目を塞ぐ。

「なんでって、マスターはキスのほうがよかったのか?」

「いや――だ、だが、上着を脱ぐときは、俺に背中を向けてからにしろよ」

「いいじゃん、見られたって減るもんじゃないからな。というより、見ても面白くないだろ、こんなペチャパイ」

 快活に笑うニーテ。

 別に服を脱がなくても、服の下に手を入れればそれでよかったし、それについては説明したはずなのに。

 俺は横目でピオニアを見た。

「なんでしょう」

「……最初のホムンクルスがピオニアでよかったと思ってな」

 こいつも大概あれだったけれど、ニーテほどじゃなかった。

 姉妹でも、こうも性格が違うのか。

「マスターはボブカットヘアの女性が好みということですか?」

「全然違う」

 あぁ、このやり取りが平和に思える俺が悲しくなる。

 そんなやり取りがあったのち、ピオニアは、温泉の洗い場の掃除がまだ終わっていないということで去っていった。

「ほら、マスター、魔力を頼むよ」

「わかったよ」

 第一職業のコピーキャット以外の職業を火魔術師、水魔術師、風魔術師、土魔術師に変える。

 いまの俺ならMP500くらい余裕だ。

 ただ、海の規模を考えると、この状態でもぎりぎりになりそうだ。

「ん……」

 魔力を流し込むと、ニーテが色っぽい声をあげた。

「どうした? 苦しいのか?」

「いや、気持ちいいぜ。以前とはまた違う。まるで母さんの胎内でへその緒から栄養を受けているみたいだ」

「お前が生まれる前は試験管の中だっただろ」

 と言いつつ、俺はなんで前回と違うのか考えた。

 あぁ、職業の違いか。

 職業によって、魔力の属性が異なるみたいなことなのかな。

 だとすれば、いまの俺の魔力は、四大元素すべて混ざった魔力ということになる。それがいいのだろう。

「あ……い、いい。マスター、もっと速く、強くお願い」

「注文が多い!」

 俺は強く魔力を込めた。

「あぁ、マスターの強くて大きいのがあたしの中に流れ込んでくる。そんなにされたら、私の小さな穴が壊れちまうぜ」

「誤解を招くようなことを言うなっ! 小さな穴って汗腺のことなっ!」

「誤解じゃなくてもいいんだぜ。乳揉むか?」

「揉まねぇよ!」

「いいじゃん。揉めば大きくなるっていうぜ?」

「それは嫌がる女に男が言うセリフだ! お前が言うなっ!」

 こいつの前世はセクハラ親父か?

 まったく、こんなところをほかの女性に見られたら、絶対要らぬ誤解を招くだろ。

「しかしよ、マスター。女がこれだけ誘惑しているのに怒るのって、それはそれで失礼だと思わないか?」

「悪いな。すでに先約が入っているんだよ」

 キャロには大きくなるまで手を出さないと言っている。

 にもかかわらず、ここで欲望に身を任せてニーテに手を出せば、キャロへの不義理だと思ってしまったのだ。

「マスターの気持ちはわかった。つまり、マスターからは絶対に手を出さないから、あたしから手を出せばいいってことだな」

「全然違うよ」

「あぁぁぁ、マスター、強すぎる、ちょ、待って」

 ニーテを黙らせるために、俺は全力で魔力を流し込んだ。

 そのため、予定よりも遥かに早く魔力の補充は終わった。俺ももう魔力枯渇寸前で、その場に座り込んでしまう。

「マスター、へろへろだな」

「あぁ……ちょっと疲れたよ」

「賢者タイムか?」

「……ちげぇよ。いまの状態の俺にツッコミを入れさせるな」

 まったく、こっちはいますぐベッドの中で寝たい状態だっていうのに。

 とりあえず、魔力の回復速度が速くなる薬を飲んでおく。

 一瞬で魔力が回復する薬は数がそれほど多くないので、必要なときのために取っておくことにした。

「あぁ、ダメだ。もう耳くそほじる力も残ってない」

 某有名な漫画のパロディの台詞を吐き捨て、俺はその場に倒れた。

「マスター、動けないのか?」

「ん、ちょっとな。三分くらいしたら動けるようになる」

「そうか、つまり、マスターはいま完全に無防備。マスターを殺すならいまってわけだな」

 ニーテはメイド服を着てそう言った。

「…………っ!? まさか、お前っ!」

 嘘だろ?

 ホムンクルスって絶対に服従じゃなかったのか?

 って、そういやこいつが絶対服従だったことはない。俺が辞めろって言ったことを何度もしてくる。

 いままでの悪ふざけは全部演技で、もしかして俺を――

「なわけないよな」

「ああ、倒れているマスターと初めて添い遂げて、色香で食い殺すなんてことはしないぜ」

「殺すってそういう意味か――でこの膝枕は?」

「ああ、ハルワタートから、マスターは膝枕が好きだって教わったからな」

 ハルワタート、お前もか。

 ブルータスに裏切られたカエサルの気分がよくわかる。

 まぁ、ハルは浮気に寛容というか、強い男が複数の妻を娶るのは当然という考えを持っているから、いまさらという感じだ。

「それ以外に、ハルからなにか聞いてるか?」

「そうだなぁ、マスターがいかにカッコいいかという話は聞かされたぜ? ハルワタートにもキャロルにもマリナにもノルンにもな」

「……へ、へぇ」

 ハルやキャロはとにかく、真里菜やノルンさんも俺のことを褒めてくれていたのか。

 それはかなり嬉しい。カノンが入っていないのは、まぁ仕方ないか。関わったのって、杖を貰ったときくらいだもんな。

「お、どうした、マスター。顔が赤くなってるぜ。あたしの膝枕に興奮したのか?」

「お前は心の機微をもっと理解しろっ!」

 好き勝手言いやがって。

 その後、俺の「耳くそほじる力も残っていない」と言ったためか、ニーテが俺の耳掃除を始めた。

 むかつくけれど、非常に気持ちよかった。


 しっかり両耳を耳掃除をしてもらったあと、ゆっくりと立ち上がる。まだふらふらするけれど、倒れるほどじゃないな。

 とりあえず、近くに生えていた木の根元まで歩いていき、幹にもたれかかって木陰で休むことにした。空の明かりは太陽ではなく熱もないので木陰に入る意味はないのだが、背もたれが欲しかった。

 ニーテが「あたしのおっぱいを背もたれにしてもいいんだぜ?」なんてばかみたいなことを言ったが、無視した。

「マスター、お疲れ様です。お茶をどうぞ」

 ピオニアが気を利かせてカップに緑茶を淹れて来てくれた。この世界で作った茶葉を元に作っている。

 アイテムバッグの中にも茶はいろいろあるし、時間が止まっているので淹れたての茶もあるのだが、しかし気分の問題か、本当に淹れたてのお茶はありがたい。

「ニーテ、マスターに優しくしていただきましたか?」

 俺がお茶を飲んでいると、ピオニアがニーテにそう尋ねた。

「おう、マスターはあたしにとって理想のマスターだぜ! 奥手なのが玉に瑕だけどな!」

「そうですか、それはよかったです。でも、あまりマスターを困らせるものではありませんよ」

「おう、あたしはいつだってマスターのために、誠心誠意尽くすホムンクルスだ! マスターを困らせるわけないだろ!」

 いろいろと言いつけたいが、まぁ今回だけは口を噤んでおくことにした。

 理想のマスターって言ってもらったのが嬉しかった。

 別段なにか特別なことをしたわけではないんだけどな。

「では、世界を拡張しましょう。ニーテ、やり方はわかりますね?」

「おう、任せろ!」

 ニーテが天地創造の書を手に、念じた。

 すると、地面が凄い音と振動で揺れ出した。

 勿論、それが世界拡張によるものだとすぐにわかったので取り乱したりはしないが、フユンは大丈夫だろうか?

 さっき、遠くで草を食べていたフユンを見る。

 フユンは踏ん張っていた。

 地震なんぞに負けるか! という感じで、力強く。

 馬は見た目以上に繊細な生き物であるって誰かが言っていたが、これを見たらきっと前言撤回せざるを得ないんじゃないか? と思えてくる。

 さらに遠くを見ると、そこには鉱山があったがだんだん遠くに行ってしまう。

 世界が広くなっているんだ。

 地震は三分ほど続き、ようやく収まった。

「ふぅ、終わったか。どのくらい大きくなったんだ?」

「八倍くらいだな」

「八倍? となると、面積は……」

 球体の体積の求め方や表面積の求め方は、もうほとんど忘れてしまっている。しかし、体積は半径の三乗に比例し、表面積は半径の二乗に比例することくらいは覚えているから、体積が八倍ということは、半径が二倍、表面積は四倍ということになるのか。

「たったMP500で面積が四倍ってすごいな」

「ん? マスター、勘違いしてないか?」

「え? まさか面積が八倍になったのか?」

「違うぜ! この星の一周の距離が八倍になったんだ」

 ……は?

 待て、星の一周の距離って、球体の一周の距離くらいなら俺でも覚えている。

 直径×円周率だろ?

 それが八倍ってことは、直径も八倍?

「って、じゃあ、面積は六十四倍っ!? 体積だと……えっと、五百倍くらいか!?」

「おう! そういうことだな!」

「そうだなって、重力とか全然変わってない……いや、それはいいのか」

 この星の規模からすれば、むしろ地球やアザワルドと同じ重力だったことのほうが異常なのだ。

 でも、面積六十四倍だ。

 もう、ジョギング感覚で世界一周とか、難しくなったな。

「三分の一は海にしましょう。その前に施設の移動などをしないといけませんね」

「だな。手伝うぜ、ピオニア姉さん。それじゃあ、マスター。準備ができたら海を創って亀の養殖を始めるぜ」

 亀の養殖?

 あ、そうだった。世界拡張の話はそもそもエメラルタートルとルビアタートルを効率よく狩って経験値を稼ぐために始まったんだった。

 規模が凄すぎてすっかり忘れていた。

「いつでもいいので海草を摘んで来てください。できることなら、海老や蟹なども用意していただけると助かります。小魚は以前マスターカノンが用意したものを使いましょう」

「海草と海老と蟹?」

「肯定します。海草と海老、蟹を養殖するつもりです。ウミガメの多くは肉食なので」

 そうか、養殖なら餌も必要だよな。

 亀って肉食なのか。

 温和そうに見えるから、てっきりワカメでも食べているのかと思ったが、俺が作った疑似餌に食いついたのだ。肉食なのは間違いないだろう。

「わかった、用意するよ」

 早いうちに用意したほうがいいよな。

 大陸に到着したら、そこの海岸で言われたものを集めることにしよう。

 卵から亀が孵化するまでにはまだ時間がかかるだろうからな。

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