エメラルタートル
偽勇者も犯罪職の可能性があるからなりたくない。
犯罪職は火事場泥棒で十分だ。
猫使いは、なんとなくあの同人誌売りを思い出すとハズレっぽい。
猫メイドに関しても、男の猫メイドってダレトクだよ! って言いたくなる。
とすると、やはりゴーストバスターにするのが一番か?
そう思ったが、
「マスター、違うデス。コピーキャットはなにかの真似をするのが得意な人、考え方や手法、そのほかいろいろなものを模倣する人という意味デス」
訂正したのはシーナ三号だった。
「犯罪職じゃないのか?」
「違うデス」
そうか……いろいろなものを模倣か。
考え方の模倣というのはいいかもしれない。
ミリならこう動く、ダイジロウさんならそこに行く――という考えができるようになるかもしれないからだ。
おっと、そろそろ五分経過してしまう。
自動で選択される前に決めないと。
【第一職業をコピーキャットに設定しました】
よし、また釣り再開だな。
死んだ鮫は、アイテムバッグに収納。あとで一度に解体しよう。
待つこと三十分。再度大物の気配が。
「HIT!」
さっきより大きな魚影が――え? 魚影じゃない?
どう見ても魚の形ではない。
あれは、まさか――
「ウミガメか」
巨大ウミガメがこっちに向かって突撃していた。
巨大といっても、大きさは鮫と同じくらいで、伝奇小説によく出てくるような、島と間違える巨大ウミガメではない。
ただ、あの亀の背中、どこか奇妙だな。
「マスター、あれはエメラルタートルデス。背中がエメラルドになっていて高く売ることができるデス。運がいいデスね」
運がいい?
あぁ、そういえば、運のいい職業に変えていたんだった。そのお陰でエメラルタートルがかかったんだろう。
銛を投げてもあの甲羅だと跳ね返されてしまうかもしれないし、なによりあの綺麗な甲羅を傷付けたくないので、俺は亀を引き上げることにした。
糸強化のスキルを使用する。
スキルの説明を見ると、このスキルは糸に魔力を通すことで、糸の強度を数倍から数十倍まで高めることができる。俺の魔力なら当然数十倍――ちょっとやそっとじゃ切れないだろう。
「行くぞっ!」
「今夜は亀鍋デスっ!」
「食わねぇよっ!」
そうツッコミを入れて、俺が釣り上げると、亀は甲板に上がった。
「プチアイスっ!」
氷魔法を使う。
亀は完全に凍り付いた――というより氷の中に閉じ込められた。
爬虫類は冷気が苦手だって思ったから、氷の魔法を使ったんだけど。
「殺したのデスか?」
シーナ三号が氷を手でペタペタと触って尋ねた。
霜焼けになるぞ――と思ったが、機械だから大丈夫なのか?
「いや、すぐには死なないみたいだな。このまま仮死状態にでもなったら面倒だし、さて、どうしたものか」
仮死状態ならアイテムバッグに入れることもできないよな。
これなら、雷の魔法をぶち込んだほうがよかった気がする。
「そうデスか――ぎゃぁぁぁ、手がくっついて剥がれないデス」
「ああ、もう。引っ張るな、お湯をかけてやるから」
アイテムバッグの中に保存してあった、温めのお湯が入っている水筒を使ってやる。まったく、手間のかかる奴だ。
「剥がれたデス」
「そりゃよかったな――っと、さっきお湯をかけたところの氷がだいぶ薄くなってるな」
でも、これでも鋼鉄の剣じゃ斬れないか。
前に使っていた鋼鉄の剣は、南の島でシーナ三号の罠のせいで折れてしまったので、いま使っている剣はその後、俺が鍛冶で作った剣だ。
そのため、強度は以前よりも増しているけど、それでも氷を触ってみるとまるで鉄のように硬く、やはり剣で斬るのは現実的じゃない。斬れないことはないんだけどな。
それなら――
「創生剣」
スキルにより光の剣を生み出す。
創生剣の凄いところは、その形をある程度自由に変えられるということだ。ただし、剣の形に限る。斧や槍には変えられない――銃剣はどうか? と思ったが、やはり無理だった。
一般的に剣といわれる長剣型。
その半分くらいの大きさの短剣型。
そして、二本のショートソード、双剣型。
ロングソードよりも遥かに大きい大剣型。
そして、突きに特化した細剣型。
俺は剣を細剣型に変形させ、薄くなっているところに突き刺した。
氷の表面に罅が入り、その剣はエメラルタートルの眉間に突き刺さった。
三秒後。
【イチノジョウのレベルが上がった】
【コピーキャットスキル:声真似を取得した】
【コピーキャットスキル:フェイクマジックを取得した】
コピーキャットのレベルが7にまで上がった。
コピーキャットのレベルが上がりやすいのか、それともエメラルタートルの経験値が高いのかはわからないが。
んー、たぶんどっちも狙っていたスキルじゃないな。
声真似は、文字通り他人の声を真似るスキル。
フェイクマジックは、その目で見た魔法を登録し、使用できるスキル。ただし、効果は通常の魔法の半分程度であり、そのくせMPは通常通り消費する。
過去に見た魔法が使えるというわけではないので、ミリが使っていた【暗殺者の操り人形】やフロアランスの迷宮で見た【グロウシード】も使えない。
しかも、登録できる魔法は十種類と限度がある。
便利ではあると思う。
「んー、ちょっと声真似を試してみるか」
俺は一度咳払いをしてみた。
「このハルワタート、ご主人様のためなら身命を賭して戦う所存です」
とハルの声を真似て言ってみた。
あれ? でもなにか違うんだよな。確かに声質は変わったんだが。
「犬耳さんにそっくりデスね」
「そっくりなのか?」
「はいデス――録音したので再生するデス」
再生?
『このハルワタート、ご主人様のためなら身命を賭して戦う所存です』
凄い、こいつ録音再生機能があるのか。
やっぱり機械なんだな。
再生された声は、間違いなくハルそのものだ。
そうか、自分の声を録音して聞くと、まるで他人の声のように聞こえるって聞いたことがあるけれど、これはその逆かな。
面白いな、これ。
「マスター、このエメラルタートルはどうするデスか?」
「そうだな。とりあえずここで氷を溶かしてから、アイテムバッグ行きだな」
金に換えるのはいつでもできるし。
解体してもいいが、こういう魔物は下手に解体しないほうがいいかもしれない。
標本として入手したい好事家もいるだろう。
「亀鍋の準備はいつデスか?」
「だから、食わねぇよ。その辺の亀の子タワシでも食ってろ」
俺はそう言ってため息をついた。
シーナ三号は優秀なんだけれども、長い時間話していると疲れるな。
ピオニアが愚痴をこぼす理由がよくわかった。
いや、長時間話すと疲れるのはピオニアやニーテも一緒か。




