紅のきつね
倒した魔象は解体しないと、部屋から出すこともできないのでそのまま放置することにした。
さすがにこれだけでかいとアイテムバッグに入れるのも苦労しそうだし。
盗賊たちは何人か目を覚ましていたが、鈴木の縛り方が上手なのか縄抜けして逃げるような奴もいなかった。
屋根の上にいた奴らも気絶したままだったので、下ろして縛っておく。
結局、どれが敵の頭かわからなかった。
「なにやってるんだ?」
鈴木がアイテムバッグから大量の落ち葉を取り出して置いていた。
ゴミを捨てている……んじゃないだろうな?
「この落ち葉は、燃やせばカラフルな煙が出るんだ」
と言って、鈴木が火打石で火をつけようとするが、なかなか付かないようだ。
魔法で燃やせば――と思ったが、魔力の消費もそろそろ抑えたい。
って、そうだ。火打石があるなら魔法は必要ないな。
「貸してみろ。火打石を上手に使うスキルがある」
「そんなスキルがあるの?」
「さっき覚えた。火事場泥棒の付け火ってスキルだ」
「それ、火事場泥棒じゃなくて放火魔のスキルじゃないの?」
「それは俺も内心思っていたことだからみなまで言うな」
そう言って、火打石を使う。初めて使うはずなのに、火打石の扱いが手に取るようにわかる。実際に火打石は手に取ってるんだけど。
簡単に葉っぱに火がついた。
すると、紫色の煙が天に昇っていく。
毒々しい色に見えるけれど、別に有害な煙ではないそうだ。
「狼煙か?」
「この島のパウロ伯爵の部下に対しての合図。もう少ししたら部下の人たちが来ると思うよ」
「そっか……じゃあ、カップラーメンでも食べて待つか」
俺はそう言うと、前にベラスラの町でしたように、魔力消費を抑えたいと思っていたのは即座に撤回し、プチウォーターとプチファイヤーを組み合わせたお湯を作って鍋の中に入れた。
「器用だねぇ。カップうどんはないの?」
「紅のキツネならあるぞ?」
「本当にっ!? 食べていいの?」
「三千ケースくらい買ってたからいいが、小麦アレルギーじゃないのか?」
「うん、まぁそうなんだけどね。でも聖騎士のレベルを上げて、一定時間毒が無効になる魔法を覚えたからね。お陰でいまではパンも食べられるんだ。まぁ、魔法の効果は五分しか続かないし、クールタイムが結構長いから、急いで食べないといけないんだけどね」
俺はアイテムバッグの中からカップうどんの「紅のキツネ」とカップラーメンの「ラ帝」を取り出した。
鍋の湯が少し温そうなので、ちょうど目の前にあるたき火で温めることにした。
「狼煙の火で水を沸騰させないで欲しいんだけど」
「別に毒ってわけじゃないんだろ?」
煙だってしっかり出ているし、問題ないじゃないか。
沸騰したお湯をそれぞれの即席麺に注ぐ。
ちなみに、俺の方は、一度箸で混ぜてからお湯を捨て、再度お湯とスープを入れたら出来上がりなので、三分待つ必要はない。
あ、紅のきつねは五分か。
「はぁ……うまい」
「ねぇ、楠君、一口貰ってもいい?」
「……一口だけな」
本当は断りたいけれど、鈴木にとっては三年ぶりの即席麺だからな。
鈴木は
「毒無効時間」
と魔法を唱え、
「はぁぁ、美味しい。カップラーメンって初めて食べたけど、こんなに美味しかったんだ」
「三年振りじゃなかったっ!? え? お前、カップ麺食べたことないの?」
「うちって医者の家系だからね。体に悪い物は食べたらいけないって言われて、いろいろと厳しかったんだよ」
「そうなのか――でも、こっちの世界では医者の知識は役に立たないのか? ほら、魔法でも病気は治せないだろ?」
「さすがに学生が持っている知識程度じゃね。こんなことなら医学書を読み漁っていればよかったよ」
鈴木は残念そうにそう言うと、
紅のきつねの蓋を捲って出汁を呑む。
「うん、美味しい。あれ? でもこれってもしかして関西ダシ?」
「お、わかるか? 紅のきつねって、東日本、西日本、関西、北海道と四種類の出汁があってな、試しに全種類取り寄せてみたところ関西出汁が一番好みだったから、妹が取り寄せてくれたんだよ」
「わざわざ取り寄せたんだ。あぁ、でも美味しい――やっぱり日本人だなぁ」
と鈴木が言ったところで、複数の人の気配が近付いてくることに気付いた。
警戒して剣を握るけれど、
「スズキ様ですか! 私どもはパウロ伯爵の配下の者です」
いかにも正規兵と思われる装備の兵が十人――職業も剣士や槍士などで、犯罪職の者はひとりもいなかった――の姿を確認すると、俺たちは剣を納めた。
その後、盗賊たちは全員捕縛――さらに密輸団の船を隠しているもうひとつのアジトの場所を教えた。
そこにデスウォーリアーの職業に扮していた仲間も囚われていることを教える。
「さっそくこのことは上に報告いたします。スズキ様、イチノジョー様は町に案内しますので、どうぞお休みください」
案内されることになった。
ふぅ、これで一段落ついたな。
これで無事に南大陸に渡れる――ってあれ?
「俺、密輸団の船に乗って南大陸に渡る予定だったよな? 密輸団を倒したら南大陸に渡れないんじゃないか? まさか、この島で足止めか?」
「大丈夫だよ。そっちに関してはなんとかするから」
鈴木がそう言ってウィンクをする。
男のウィンクなんて気持ち悪いだけだが、信じるぞ。
嘘だったら今回の密輸団の宝、独り占めさせてもらうからな。
「あ、でもうどんを食べてから――あ……」
と鈴木が言ったところで、気付いたようだ。
毒無効化の魔法が切れたことに。
クールタイムは三十分間。
鈴木は泣きそうな顔でのびきったうどんを食べたのだった。
「アイテムバッグの中に入れておけばのびずに済んだな」
と俺が思い出したように言うと、鈴木は本当に涙を流した。




