イチノの錬金術鍛練第二章
約束の三時間が経過し、一度密輸団のアジトに戻り、外で待っている鈴木に声をかけた。
「よかった、無事だったんだね」
鈴木がほっと安心した様子で言った。
無事か……唇を奪われたりはしたけど、特に問題はない。
「何を心配してたんだ?」
「いや、楠君が部屋に入ってすぐに気配が消えたから、もしかしてなにかあったんじゃないかって心配だったんだよ」
「そういえばお前も気配探知系のスキルを持ってたな……部屋には入ってないよな?」
それは迂闊だった。
気配探知スキルがあれば、俺が部屋にいないことはまるわかりだ。
一応、マイワールドへの扉は閉じておいたけど。
でも、俺が扉から出てきたことに対して何も言わないってことは、扉は開けなかったのか?
「ノックとかしなかったのか?」
「うん、まぁ楠くんの邪魔をしたらダメだって思ってね」
「……してないぞ?」
こいつ、俺が部屋でナニをしていると思ってノックをするのも躊躇ったのか。
DT勇者の二つ名を返上する気はないということか。
「じゃあ、お前が入っている間は火事が起こってもノックしないという方向でいいな」
「うん、まぁ火事くらいなら自力で切り抜けられるからね」
冗談で言ったんだが、まぁ俺でも火事程度なら自力で切り抜けられる自信はある。
鈴木が部屋に入っていった。
と同時に、扉の前でごそごそと何かを始める。
あぁ、この部屋、鍵がついていないから、アイテムバッグから荷物を出して鍵の代わりにしたんだな。
そんなことしなくても覗きはしないぞ、俺はノーマルだからな。
ということで、俺は扉の前で作業をすることにした。
ピオニアが採掘した五百キロの銀鉱石――これを純銀に変えるのだ。
錬金術のレベルを上げた俺にとって、その程度余裕だ。
「よし、始めるか」
もちろん、見習い錬金術師レベル37と錬金術師レベル33を設定するのは忘れない。
ごつごつとした銀鉱石を両手に持ち、錬金術スキルを使用する。
同時錬金のスキルにより、MPを二倍消費することで二個一度に製錬できるというわけだ。
「むっ、鉄鉱石から鉄を作る時より魔力の消費が激しいな」
鉄鉱石から鉄を作る時の十倍くらいの速度でMPが消費されていく。
第三、第四職業を火魔術師と水魔術師に設定していなかったら十個くらい作るだけで魔力が枯渇して動けなくなったかもしれない。ニーテに魔力を搾り取られたばかりなのも問題だな。
低レベルの錬金術師のMPなら、一日一個製錬するのが精いっぱいだろう。
銀が高価なのは、銀鉱石の埋蔵量が少ないからだけでなく、銀を製錬するのが大変だというのも理由のひとつかもしれない。
【イチノジョウのレベルが上がった】
んっ? 二個作っただけで、見習い錬金術師のレベルが39に、錬金術師がレベル34に上がった
想像以上の経験値だ。
そうか、貴金属は経験値が多いというだけではない。
普通の錬金術師が一日二個、銀鉱石を純銀に製錬できるとすると、俺はいまのこの数分で四百日分の製錬を終わらせたことになる。
そりゃレベルも上がるわ。
「ひさびさにボーナスタイムが来たんじゃないか?」
俺はそう呟いてほくそ笑む。
が、調子に乗ったらしい。
すぐに魔力が尽きそうになった。
「くぅぅぅ、これはダメだ。思っていたよりきつい」
四十個、銀の玉を作ったところで、これ以上魔力を使えば気を失う感覚になった。
しかし、いまの作業で、見習い錬金術師はレベル40でカンストし、錬金術師もレベル48になった。
これまでのメッセージをまとめると、こんな感じ。
【イチノジョウのレベルが上がった】
【見習い錬金術師スキル:即時錬金を取得した】
【見習い錬金術師のレベルはこれ以上あがりません】
【称号:見習い錬金術師の極みを取得した】
【錬金術師スキル:貴金属化を取得した】
【職業:合成師が解放された】
【錬金術師スキル:錬金術Ⅱが錬金術Ⅲにスキルアップした】
【レシピを取得した】
と、まぁ、新たな職業が解放された。
合成師がどんな職業かはわからないけれど、なにか二つ以上のものを組み合わせて一つにする仕事だということくらいはわかる。
とりあえず、今後レベルアップしてスキルを増やしていこう。
即時錬金というのは、一瞬で錬金作業を終了するスキルのようだ。ただし、即時錬金を使用した場合、経験値は手に入らず、魔力を二倍消費するそうなので、封印だな。俺には使えない。
貴金属化というのは、鉄や鉛といった卑金属を、触媒を使って銀や金に変えるスキルらしい。
貴金属化にもレシピが存在するんだが、鉛を金に変えるには賢者の石と呼ばれる道具が必要らしい。
ねぇよ、そんなもん。
……錬金術を極めたら作れるようになるのかな?
N-starの『転生没落王子は『銭使い』スキルで成り上がる ~魔法もスキルも金次第っ!?~』はそろそろクライマックスですね。
これを機にまとめ読みとかお勧めです。