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成長チートでなんでもできるようになったが、無職だけは辞められないようです  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
砂漠の王国編

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一週間の航海はあっという間に

 香ばしい匂いが船の上に広がる。

 たこ焼き――というかタコの焼いた足がそこにあった。さすがにあの巨大な体を船の上に引き上げるのは無理なので、足を一本だけ斬りおとして残りは海に沈めた。

 ラストアタックは鈴木に取られたので経験値が得られなかった。パーティ設定も、俺の職業を変えてからはもう解除しているからな。

 虚しい勝利だ。

「ほら、醤油」

 俺は鈴木に醤油さしを渡した。

「ありがとう、楠君。うわぁ、この香り、久しぶりだな」

「もともとうす塩味だから掛け過ぎるなよ」

「うん、医者の家系だからね、一日に必要な塩分量くらいは理解しているよ」

 自慢ではないんだろうなぁ、なんて思いながらクラーケンの足を俺たちは食べ進めた。

 大味だけど、うまいな。

 十分に焼いたから寄生虫の心配もないと思う……というか仮に熱に強い寄生虫がいても、キュアで治療できるし。

「お前たちは食べないのか?」

 一応、仲間のフリは必要だからな。

 遠巻きに見ているだけの皆に尋ねた――が、誰もこちらに来ない。

 おいおい、足一本とはいえふたりでは食べ切れないから遠慮することないのに。

 薄情な奴らだな。

「仕方ないよ、楠君。このあたりじゃタコは悪魔の遣いって言われているからね。ましてやクラーケンは数々の船を沈めてきた、いわば海を行く者にとっては悪魔そのもの。そんなの食べようだなんて思わないよ」

 あぁ、欧米の地中海沿岸地域以外じゃタコとかイカってあまり食べないんだっけ? 悪魔の魚(デビルフィッシュ)とか言われて忌避されているっていうのは聞いている。この気持ち悪い外見もそうだが、旧約聖書で魚類の中でヒレとウロコがないものは忌むべきものって言われているのが原因なんだとか。

 俺の大好物であるウナギが欧米ではあまり食べられないのも、きっとその記述によるものだろうと思っている。

 ウナギも見た目は鱗がない魚だからな。いや、ウナギって実は皮膚の下に鱗があるので、旧約聖書の記述に従ってもウナギは食べてもいいと思うんだけど。

「おらももらっていいだか?」

 そう尋ねたのはパブロフと、

「拙者もいただきたく」

 元用心棒のデストロイヤー先生だった。

 パブロフはともかく、先生が来たのは意外だったな。

「いいぞ、いっぱいあるからな」

 周囲の人間がかなり気味悪がってるな。

 はぁ、いろいろと聞きたいこともあったのに。まぁ、鈴木に尋ねるとするか。

「なぁ、鈴木。これから交渉を行う島ってどんなところなんだ?」

「デイジマって言われる島だよ」

「デイジマ?」

 まるで日本の出島みたいな名前だな。

 俺が顔をしかめると、鈴木も苦笑した。同じ感想を抱いたらしい。

 鈴木の話によると、デイジマは南大陸にある大国の領内にある島らしい。

 島の南と北の海岸沿いにそれぞれ町がある。大きさは淡路島くらいだけど、東は砂漠、中央は山がそびえ、人が住む場所は限られているそうだ。また、砂漠の中にも迷宮があるらしく、冒険者も数多くいるという。

「パウロ伯爵が治める島でね――」

 鈴木は語った。

 パウロ伯爵の過去、家族構成、人柄等を教えてくれた。

 貴族というと、オレゲールの件もあり、少々面倒だと思ってしまうんだけれども、しかし話を聞く限り悪い人間ではなさそうだ。

 いや、オレゲールも悪い人間ではなかったのだけれども。

「スズキ殿はデイジマについて詳しいでござるな。自力で調べたでござるか?」

「あはは、蛇の道は蛇って言いますからね。裏で情報を集めるプロに頼んだんですよ」

 鈴木は笑ってそう言うと、デストロイヤー先生は訝し気な表情を浮かべる。

 こいつ、もしかして鈴木と俺が、この密輸団の敵だと勘ぐっているのだろうか?

「……タコって変な味だなぁ……粘土を食ってるみたいだ」

 パブロフはタコはあまりお気に召さないようだ。

 デストロイヤー先生は、焼きタコ串を受け取るが、なかなか食べようとはしない。やはりタコが目当てではなく、俺たちを探りにきたのか。

 油断できないな、この男。



 航海が始まり、一週間が過ぎた。

 航海はすこぶる順調とは言い難い。結構暇だからなぁ。

 誰に見られているかわからないので、マイワールドに行く事もできない。シーナ三号とピオニアをふたりきりでマイワールドに残しているが、うまくやっているだろうか? あのふたりは似た者同士のところもあるから、問題ないとは思うけれど。

 航海の手伝いをしようかと思ったが、鈴木から下手に手伝えば密輸団の皆と仲良くなって、いざという時に戦いにくくなるよって言われてしまった。

 その通りなので、仕方なく結局は釣りで時間を潰すことにしている。

 ここに来る前、トマトなどを採取する時に農家としてのレベルが上がり、釣り師という職業が開花したからな。

 いまは海釣りをして釣り師としてのレベルを上げている。

 いくら四百倍の成長速度とはいえ、一週間なら七年くらい釣りをしているレベル――レベルも8までしか成長していないけれど、変なスキルをいろいろと覚えた。「合わせ」なんて釣り以外で使えそうにないスキルと、「糸操作」という操り人形がうまくなりそうなスキルだ

 まぁ、何かの役に立つこともあるだろうと思っている。

 ハプニングといえば、大きなハプニングがひとつ。

 たった一週間なのに、密輸団の体臭がきつくなっているのだ。最初に会ったパブロフまでとはいかないまでも、五時間フル装備で練習を続けた剣道部員並みに臭い。

 浄化クリーンでも掛けてやらないと、こっちの鼻が先に死んでしまう。

 そう思っていた時だった

「島が見えてきました」

 見張り台にいたひとりが大きな声を上げた。

 ここからだと島なんて――いや、見える。

 島にあると言っていた山の先端らしき物が。

 あれがデイジマ――あそこでこれから密輸団こいつらの交渉が始まるわけか。

更新遅くなってすみません、現在発売中の6巻で大きな分岐ポイントができてしまい7巻の執筆を先に済ませてWEB本編と八巻がなんとか合流できるように話を調整していました。

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