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成長チートでなんでもできるようになったが、無職だけは辞められないようです  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
砂漠の王国編

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スマホの充電器

 デスウォーリアーの大先生、どの程度の強さかと警戒はしていた。剣を抜こうとしたので、さすがにあんなもので斬られたら痛いだろうなぁと思って、剣だけを弾き飛ばすつもりで飛び蹴りをして元の位置に戻ったら、デスウォーリアーの大先生は壁にめり込んでいた。

 レベルが上がっていないので殺しはしていないだろうが、少し申し訳ないことをした。

 いくら犯罪職とはいえ、もしかしたら止むに止まれぬ事情で罪を犯した者かもしれないのに。


 だけど、考えてみれば密輸団に用心棒として雇われている時点で悪人か……と自分のことを盛大に棚上げして、俺は密輸団のリーダーを見た。

 彼は俺のことを新たに「大先生」と呼んでおり、契約料として銀貨が詰まった袋を渡してきた。

 中身は一袋銀貨百枚、つまり金貨一枚分――一万センスということになるらしい。これなら金貨二枚を渡したらいいんじゃないかと思ったが、金貨は普通の店では使いにくく、そして銀貨に替えるために両替商に行ったらそこから足がつく可能性があるから、そのままで使いやすい銀貨のほうがいいのだろう。

 実際、俺も金貨を何枚か持っているが、キャロが交易商の店で買い物をする時に使う場合、あとハルを買った時に使ったくらいで、ほとんどアイテムバッグの肥やしになっている。

 金貨といえば百万円だもんな。日本のファーストフード店ですら、一万円札を使うだけで、「一万円入りまーす」とわざわざ点呼確認しないといけないくらいなのに、百万円なんて渡したらパニックになる――いや、一番上の一万円札だけ抜いて九十九万円と一万円のお釣りを渡すだけか。昔のCMに「店長、百万円入りまーす」みたいな台詞があったそうだが、そんなボケはないだろう。

 と、話は横道に逸れてしまったが、しかし一回の密航の往復の護衛だけで二万センス――二百万円か。

 密輸団ってやっぱり儲かるんだな(まぁ、儲かるから密輸をするのだろうが)。


「それで、船はどこにある?」

「はい、船ならここよりさらに地下にございます。荷はもうすぐ詰め終わりますので、イチノジョー大先生とスズキ先生はゆっくりおくつろぎください」


 密輸団のリーダーは俺にそう言うと、部下たちに、


「おい、野郎ども! 休憩は終わりだ! とっとと荷を運びやがれ!」

「「「へい、親分」」」

「親分じゃない! 犯罪者みたいだろうが! 私のことは社長と呼べ!」


 リーダーの男が怒鳴りつける。ちなみに、彼の職業は盗賊であり、立派な犯罪者だ。


「いやぁ、見事だったね、楠君。もしかして、僕より強いんじゃない?」

「さぁ、どうだろ? とりあえず、暇だしどうするか」

「漫画でも読んでる? まだ他にあるんでしょ?」

「こち渋なら持ってるけど」

「もしかして、『こちら渋谷区代々木公園前派出所!?』 わぁ、僕読んでたよ。何巻まであるの?」

「最終巻まで全部だな」

「最終巻っ!? え、こち渋が終わったの!? うそ、永遠に続くと思ってたのに」


 鈴木が酷く驚いている。まぁ、こいつがこっちの世界に来た時にはまだこち渋は連載中だったし、驚くのも無理はない。


「『笑っていいかも』も放送終了したぞ」

「へぇ、そうなんだ」


 どうやらあまり興味がなかったらしく、俺が貸してやったこち渋の198巻を黙々と読み始めた。

 俺も暇だったし、スマホを取り出したところで、


「スマホっ!?」


 これまでで一番の驚きを見せた。


「え、なんで――まさか、魔法で安定した電気を作ることが――」

「できないできない。ただ、ミリの奴が発電機を持って来てくれたんだよ」

「発電機を!? 凄いことをする妹さんだね……転移する前はキャンプにでも行くつもりだったの?」

「いや、富士山を登ってたらしい」

「発電機を担いで富士登山っ!?」


 まぁ、アイテムバッグのない日本では、ひとりで運ぶのは不可能だろうな。

 ミリは空間魔法が使えたらしいからその程度余裕だったろうが。


「ねぇ、楠君。僕のスマホも充電できるのかな?」

「機種は?」

「エルフォンの4S」

「俺が前に使っていた機種だな。予備バッテリーがあるよ」


 俺は予備バッテリーを鈴木に渡すと、鈴木は俺に礼を言って、アイテムバッグから予備バッテリーと、ソーラーパネルバッテリーを取り出した。


「ソーラーパネルバッテリーまで……これも妹さんが?」

「三台持って来てた」

「なんでそんなに……いや、助かるよ。これ、借りていてもいいのか?」

「やるよ。俺の今のスマホ、アンボロイドだから使えないんだよ。アンボロイド用のソーラーパネルバッテリーも五台入ってたし」

「ありがとう」


 鈴木はそう言って、予備バッテリーを接続した。

 暫くして、電源ボタンを押す。


「付いた……よかった」

「電池が切れてたのか?」

「うん、こっちの世界に来たときにちょうど切れてたんだ。前日に充電するのを忘れてね」

「そうか――」


 かつてよく聞いていた起動音が聞こえ、スマホが立ち上がった。


「やっぱり圏外だね」


 鈴木がお約束の言葉を述べた。


「まぁ、地下だしな」


 俺は適当に返した。

 そして、鈴木はピクチャーを見た。

 こいつのことだ、(同人誌)でも保存しているんだろうと思ったが、彼が見ていたのは、医者のような男の写真だった。


「もしかして、それ――」

「うん、父さん。視るの三年ぶりだよ」

「そっか――」


 俺のスマホには父の写真データはない。一昨年買い替えた時にデータを移せなかったから。

 父さんの写真か――遺影くらいならきっとミリが置いていったアイテムバッグの中に残っているだろうと思いながら、俺はスマホで日本にいた頃にダウンロードしていた電子書籍を読むことにした。


   ※※※


 俺と鈴木がふたり並んで鶏柄のインスタントラーメンを食べていた。周りの人間は匂いを嗅いで涎を垂らしていたが、俺のデスウォーリアー大先生との戦いを見たため、虎の尾を踏むのを恐れたのか近付いてこなかった。


「いやぁ、美味しかった。やっぱり鶏がらのインスタントラーメンは美味しいね」

「だな、卵を乗せたら格別だ」


 ふたりで食べていると、パブロフが近付いてきた。


「うまそうなにおいだぁ」


 俺たちのことを怖がりもせずに、椀の中を覗き込む。


「やぁ、パブロフ。一緒に食べないか?」

「いいだか?」

「うん、いいよね? 楠君」

「お前は本当に性格までイケメンだな――いいよ、パブロフ。一緒に食おう」


 いまのこいつなら別に臭くないし、ふたりだけでいい物を食べることに罪悪感もあった。

 パブロフの椀に鶏ガラのインスタントラーメンを入れ、お湯を注いでやる。


「食べるだ!」

「あ、待って……」

「うまいだぁ!」


 全然煮えていないチキンラーメンを、パブロフは湯の中から素手で取り出してひとくちで食べた。

 説明をするのが遅かったと反省するが――熱くなかったのか?

 パブロフはその後、チキンラーメンのスープ……じゃなくてお湯を飲み干した。


「おい、パブロフ! 準備ができた! お前の出番だ! イチノジョー大先生とスズキ先生もいらしてください! 出港の時間です!」


 どうやら時間が来たようだ。

 俺たちはリーダーの男に案内され、パブロフの次に、地下に続く梯子を下りていく。

 すると、そこには大きな船があった。

 しかし――


 どういうことだ? 船があるのに水がないじゃないか。

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