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成長チートでなんでもできるようになったが、無職だけは辞められないようです  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
砂漠の王国編

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密輸団の男たち

「それにしても、よくこんな場所に空間を造れたな。海岸を下手に掘ったら、海水が入ってきてもおかしくないだろうに」


 俺は縄梯子を下りながら、鈴木にそう声を掛けた。

 もしくは壁に罅でも入ったら海水が流れ込んでくる可能性もある。


「いや、逆みたいだよ。この町は偉大な土魔術師が埋め立ててできたんだけれども、土が足りなくてね。仮設ということで、中を抜いた状態になったんだ。後で埋め直すという話だったんだけど、その土魔術師は高齢で、埋め直す前に亡くなってしまいそのままになっているらしい。強度的には問題ないけれど、いつの間にか忘れられてね。こうして密輸団のアジトとして使われるようになったんだ」

「そりゃまた……犯罪組織のくせに勉強熱心だな」

「犯罪者が他の人よりも頭を使うのは、日本でもこの世界でも一緒ってことだよ。密輸団の他にこの空間を知っているであろうこの町の統治者たちも、この空間は触れられたくないパンドラの箱だったみたいだし」

「開けても希望は残っていないだろうけどな」


 そんな希望すら残らないパンドラの箱に縋って犯罪者のフリをしている俺が言ったところで、皮肉にもならないのだけれども。


 梯子を下り切った俺の鼻に刺激臭が押し寄せた。と同時に足音も近付いてくる。

 やってきたのは、緑の服を着た小太りの髭男。髪がフケだらけで白くなっている。蚤が棲んでいても驚かない。

 恐らく、臭いの原因はこいつだろう。

 職業は【平民:Lv8】だった。

 

「スズキのだんな、きた、そいつだれ?」

「やぁ、パブロフ。彼は僕の友達の海賊だよ。南大陸に行きたいらしくてね、護衛をロハで手伝ってくれるって言ったから連れて来たんだ」

「スズキのだんなのともだちだぁ? よろしくたのむなー。おらのことはパブロフって呼んでくれ」


 パブロフは涎を垂らしながらにたっと笑い、俺に握手を求めてきた。

 手が垢で黒くなっている。

 正直、握手なんてしたくないんだけど――

 密輸団にとって、この不潔さは普通なんだ、ここで心証を悪くしたら雇ってもらえなくなるかもしれない。


(これは中途採用面接だっ! パブロフは面接官だっ! 面接官が握手を求めてきた時、その手が汚いという理由で断っていいのか?)


 俺はそう自分に言い聞かる。

 百戦錬磨(ただし百戦全敗)の面接の効果があってか、懇親の営業スマイルを浮かべた。


「よろしくお願いいたし――するよ、パブロフ」


 危うく敬語を使いかけたが、舐められすぎないためにもここはフレンドリーに接しよう。


「おぉ、スズキのだんなのともだちはいいひとだな。オラとあくしゅしてくれたひとははじめてだぁ」


 パブロフはそう言ってとても嬉しそうに笑った。

 しまった、密輸団の中でも彼の不潔さは普通じゃなかったのか。

 しかも、自分でも不潔だってわかってるのか。


「なぁ、パブロフ。生活魔法の浄化クリーンで綺麗にしようか?」

「んー、スズキのだんなのともだちはまじゅつしさまなんだか?」

「ああ、魔法も得意だ」

「そうかぁ、ならたのんでもいいかぁ?」

「任せろ」


 ていうか、はやく浄化クリーンで綺麗にしないと。呼吸するたびに肺が苦しくなる。

 俺はパブロフの体の隅々まで浄化クリーンで綺麗にした。

 髭はボサボサのままだが、垢やフケはなくなっている。

 なにより驚いたのは、彼の着ていた緑色の服が白色になったことだ。浄化クリーンの魔法には脱色の機能はないから、どうやら緑色に見えていたのはカビだったらしい。

 ついでに自分にも浄化クリーンをかけたのはご愛敬だ。


「きれいになっただぁ――ありがとうだ」

「いやいや、むしろ浄化クリーンにかかってくれて礼を言いたいのはこちらというか――」

「おかしらのところにあんないするだ」


 パブロフはそう言うと、のっしのっしと歩いていく。


「助かったよ、楠君。実はパブロフの臭いには僕も困っていてね」

「だよな――でも、なんであんな奴を密輸団は使ってるんだ?」

「さぁ? 人手不足なんじゃないかな?」


 理由は鈴木にもわからないらしい。

 広い地下空間を歩いていく。暫くすると、多くの荷物だけでなく、小船まである。

 明らかに倉庫の穴から入れることはできないから、別の出入り口があるのだろう。


 でも、こんなところに小船を置いておく理由があるのか?


「おかしらはここにいるだ」

「……凄いな」


 そこにあったのは、ログハウスだった。

 まさか、地下に船だけでなく、家まで作っているとは。

 マイワールドに帆船やログハウスだけでなく、畑や温泉施設まで作っていることは棚に上げ、俺は密輸団のアクティブさに驚いた。

 でも、ここって天井もあるんだし、わざわざ家を建てる必要があるのか?


「それではおいらはこれで」


 パブロフはそう言うと、歩いて戻っていく。

 鈴木が言うには、彼は体臭のせいで密輸団のメンバーに近付くことが禁止されているらしい。

 そして、鈴木は慣れた手つきで家の扉をノックした。

 返事はない。

 再度ノックし、


「黄昏の向こうに真実はある」


 とよく意味のわからないことを言うと、扉が開いた。

 ――そういう符丁とかって、倉庫に入る時にするべきじゃないのか?

 そう思った時、今度は酒の臭いが俺の鼻についてきた。今日の俺の鼻は大忙しだ。

 ハルが一緒にいなくて本当によかった。

 彼女がいたら、パブロフと会った時に気絶して、この扉が開いた時に酔っぱらっていただろう。

 そして、扉が開くと、十人の男が出てきた。

 職業を見ると、盗賊や海賊、中には山賊までいる。

 犯罪者のオンパレードだ。


 職業が海賊となっている男が一歩前に出た。

 どうやら密輸団のリーダーのようだ。


「スズキ先生、そのお方は――」


 おっと、さっそく俺について質問か。

 まぁ、当然だろうな。  


「僕の友だちでね、南大陸に行きたいそうなので護衛の仕事を手伝わせようと連れて来たんだよ。名前は――」

「知っております。イチノジョーさんでしょ?」

「「え?」」


 俺と鈴木は同時に声をあげた。

 なんで俺の名前を知っている? 微妙にジョフレみたいな間違いはしているけれど。


ポートコベ(この町)であれだけ騒ぎを起こせば地下ここにも情報は届きますよ」


 しまった、そこまで考えていなかった。

 これでは、俺が海賊ではないことが――


「海賊のイチノジョーさんですよね」


 そうだった、ポートコベでは海賊として活動していたから、むしろ好都合だった。

 これはとんとん拍子で仕事が貰えるのではないか?


「よく知ってるな。じゃあ、俺を護衛として雇って――」

「いいえ、その必要はありません。スズキ先生、あなたももう必要ありません。私たちには凄腕の護衛がついて下さることになりまして。大先生、いらしてください」


 あぁ、家の中に気配がひとつ残っていたが、大先生だったのか。

 家の中から出てきたのは、

【デスウォーリア:Lv39】

 という凄腕の剣士風の男だ。

 いや、凄腕の剣士風というのは失礼だ。本当に凄腕なんだろうな。


「こちらの大先生がいらっしゃるので、スズキ先生もイチノジョーさんも必要ないんですよ。申し訳ありませんね」

「つまり、この男が俺たちより強いから護衛の必要はないと?」

「ご理解いただけたようでなによりです」

「ふぅん、じゃあ、俺がこの男より強いことが証明されたら、無事雇ってもらえるってことか」


 俺はそう言って、鞘から剣を抜いた。

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