密輸団のアジトへ
ダイジロウさんが女性だという事実の再確認はとりあえず、脇に置いて、シュレイルに頼んで、俺の職業を一時的に海賊に偽装してもらった。
鈴木から、町の外に出たり職務質問を受けたりしないように注意を受けた。町に入る時に使われる《職見の宝玉》を使われたら、俺は犯罪者扱いされてしまうからだ。あの宝玉の名前が《職見の宝玉》という名前だということを初めて知った。
結局、密輸団と接触する夜まで、俺は鈴木の泊まっていた豪華な宿に戻って過ごすことにした。
そして、宿に戻るとハルたち女性陣に暗い雰囲気が立ち込めていた。
特に、ハルやキャロが俺が帰ってきたのにこちらを一瞥しただけで何も言わないのは気になった。
俺、何かまずいことしたか?
その沈黙を打ち破り、口を開いたのはカノンだった。
「実はね、ダイジロウの行方や目的を知っている人が三人ほど、この大陸にいるかもしれないの。そのことを今、マリナたちに話していてね」
「本当か?」
「うん、ふたりは勇者アレッシオと魔術師のハッグ。かつてのダイジロウの仲間」
そうか――確かにアレッシオとハッグはダキャットでの動乱の中に竜王に乗って現れ、フェルイトの町を守ってくれた。
彼らなら、ダイジロウさんの目的や詳しい居場所について何か知っているかもしれない。
「ふたりの居場所はわかるのか?」
「まぁ……ね。たぶん、今はアランデル王国にいると思う」
アランデル王国――フロアランスやベラスラのある国。つまり、俺が転移した先にあった国だ。
「もうひとりは?」
「クインスっていう奴隷商人。偶然だけど、そこにいるキャロちゃんにとっては大切な人なんだよね」
今度は予想外の人物の名が挙がった。
クインスさんは、ベラスラの町で奴隷商館を営む妖艶な女性だ。煙管がよく似合っていた。
キャロを買ったのが、そのクインスさんの奴隷商館だった。
「あの人は裏では名の知れた情報屋で、冒険者ギルドや諸国のお偉いさん、果ては魔王軍にまでその情報網を持っていてね。私やミリ様も、コラットではそのコネのせいでいいように使われて死にそうな目に遭ったよ」
カノンはケラケラと笑いながら言ったが、ノルンさんの青ざめた表情を見ると、本当に大変なことに巻き込まれたのだろう。
それにしてもクインスさんが……。
「そこでね、ちょっと提案していたんだけどミリ様を探すのなら二手に分かれない?」
「二手に?」
「そう、私は命令されているからミリ様を追うことはできないのよ。だから勇者とすれ違わないように、私たちはここから北上してベラスラの町を目指すつもり」
「わ、私もカノンと一緒に行きたいと思って……います。元の世界に戻るのも大事だけど、楠さんに恩返しをしたいと思っていて」
マリナがいつも通りびくびくした口調で言った。
マリナとカノンは仲がいいからな、ふたり一緒の方が行動しやすいだろう。
「それで、イチノ様。クインス様が関わっているのなら、キャロも一緒に行ったほうがいいかと思いまして」
「私も、アランデル王国の町の自警団とはコネがありますから、人探しをするのなら役に立てると思って」
キャロとノルンが言った。
どちらも理にかなっている。
でも、それだと残ったのは――
「南大陸では俺とハルのふたり旅になるってことか」
「――いえ、ご主人様。この中でいざという時に戦えるのはカノンさんと私だけです。それに、私もアレッシオ様とは幼いころに面識がありますので、ご主人様が許していただけるのでしたら、私もキャロたちと一緒にこの大陸に残ろうと思います」
ハルの決意に満ちた目を見て、俺は尋ねた。
「ミリに言われたことを気にしているのか?」
「多少は――しかし、これは私の意思です」
そうか――それなら。
「任せてもいいのか?」
「はい――ご主人様の期待に沿えるように尽力いたします」
ハルの決意に満ちたその目を見て、俺は彼女の手を握った。
「一ヶ月――今日からちょうど三十日後。フロアランスの町で待っていてくれ。必ず迎えに行く」
俺は生活魔法の拠点帰還の魔法でノルンの家として登録されているマーガレットさんの家まで転移することができる。
その時、ミリを連れ戻すことに成功し、全てが終わっていたら――
いや、これ以上言ったら死亡フラグだな。
※※※
その日の夜、俺と鈴木は密輸団に接触することになった。
密輸団のアジトは、船着き場の倉庫にあるらしい。しかし、倉庫の中に入ったが、木の箱が大量にあるだけで人の気配は――
「下か」
気配探知スキルが活躍してくれた。
床下から十数人の気配がする。
「さすが楠君。正解。上にある荷は全部ダミー、密輸団や荷は全部地下にあるんだよ」
「でも、それって結構やばくないか? 俺みたいに気配探知のある捜査員がいたら簡単にばれるだろ」
「勿論、普段は隠形スキルを持っている人間が待機、作業しているだけで潜伏場所は別だよ。それに、結構地下深くまで掘っているからね。普通の気配探知スキルじゃ例え人がいても気付かないって密輸団のお頭さんが言ってたよ。僕の気配探知スキルでも気付かないからね」
俺は気配探知Ⅱのスキルがあるからわかったわけか。
地下に続く穴があるのは、まさかのトイレだった。
もともと汚物を海に流すために掘られた穴だったらしいが、密輸団がそれを抜け穴として利用したらしい。
トイレの個室のひとつに故障中の貼り紙が貼られており、その扉をあけると少し黄ばんだ便座があった。
鈴木は少し嫌そうな顔を浮かべながら、便座を床材ごとずらす。
すると縄梯子と土の壁が現れた。
いまはトイレとして使われていないらしいが、かつて使われていたとしたら――
「……浄化」
俺は生活魔法で周りの壁を綺麗にした。土壁なので見た目ではわからないけれど、気分の問題だ。
「鈴木がひとりで行動していた理由がわかった気がするよ。こんなところ、女の子に入らせるわけにはいかないもんな」
「ははは、わかってくれて嬉しいよ。まぁ、それだけが理由じゃないんだけどね」
鈴木は苦笑し、先に梯子を下りて行った。
俺も後に続く。
これから密輸団の仲間のふりをするわけか。
……海賊の仲間になったり密輸団の仲間になったり、俺の人生いったいどこで歯車が狂ったんだろうな。
清く正しく生きてきたつもりなのに。
更新遅くなってすみません、今週もう一回更新します。
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