閑話 ガリソンの冒険日誌①
ちょっとジョフレ&エリーズの過去話を挟んでから次章に移ります
冒険者ギルドはいつものように騒がしい。その喧噪は大抵は雑言の類であり、聞いても意味もないのだが、中には後に命を左右するような情報が隠されている時もある。そのため、常に聞き耳をたてる。それが冒険者としての正しい姿である。
「おい、肉焼きまだかっ! 早く持ってこいっ! 使えないなガリソン!」
「こっちはエールだっ! エール酒おかわりだって言ってるだろっ! 耳がないのかガリソン!」
「早くテーブルの上を片付けろ! お前の手はなんのためについているんだ、バカガリソン!」
「やっかましいわ、見てわからないか、俺はいま手が離せないんだっ!」
同業者の連中からその雑言を浴びせられる俺は、ひよこ豆のポタージュをテーブルに置いて叫んだ。
くそっ、俺を笑うように見やがって。
「ガリソンさん、皆さんあなたと違ってお客様ですから、丁寧な接客をお願いしますよ」
いつものように可愛らしい笑顔で言ったのは、十八歳の、つまりは俺と同い年の狐耳の女性。
茶狐族のカチューシャちゃんであり、冒険者ギルドの受付嬢である彼女は、そこに所属する冒険者の俺たちにとってのアイドルである。この世界には六柱の女神がいるが、もしも七柱目の女神が誕生するとしたら、きっとこの冒険者ギルドからになるだろう。
「あぁ、わかったよ、カチューシャさんっ!」
俺はそう言って手を振ると、鼻歌混じりに料理を運んだ。
と同時に、またも隣の席から注文が入る。
「ガリソン、俺は肉焼きとエールな!」
「ガリソン、私は肉焼きとエールね!」
そんな男女の声に俺は景気よく、
「あいよっ!」
と声をあげたところで、その声に聞き覚えがある――というか今朝まで聞いていた声だと気付いた。
嘘であってほしいと振り向くと、やはりその声の主はそこにいた。
「何やってるんだ、お前等っ!」
十七歳のバカな赤い髪の男と、同じく十七歳のバカな青い髪の女。
じっとして喋らずにいたら美男美女のコンビであり、その堂々とした佇まいから一流の剣士と鞭使いと勘違いするかもしれないが、しかしながらやはりバカなのでバカであることを周囲にまき散らすように喋った。
「ところで、肉焼きって、なんの肉なの、ジョフレ?」
「それはエリーズ。肉といえば――なんの肉なんだ?」
「魚の肉……じゃないよね? 魚の肉なら魚肉って言うものね」
「待て、エリーズ。それを言うのなら、牛のお肉だって牛肉って言うし、豚のお肉だって豚肉って言うぞ」
「じゃあ牛さんや豚さんの肉じゃないんだね」
うちの肉焼きの肉は、紛れもなく豚の肉なんだが、もう関わるのが嫌になってくる。
そもそも、一体誰のせいでこうして働いていることになるのか。
って、そうだ。
そもそも、なんでこいつらがここにいる?
「さっきの質問に答えろっ! お前たち、仕事はどうしたんだ? ジョフレは採石場で、エリーズは裁縫ギルドで仕事だったはずだろっ!」
「「もう帰っていいって言われた」」
もう帰っていいって、まだ働き始めて三時間も経っていないぞ。
こいつらが三時間で一日分の仕事を終わらせられたとは思えない。
「「ついでに二度と来ないでくれとも言われた」」
ようするにクビになっていたということか。
……三時間でクビになるのか……力があればバカでもできると思ってジョフレを岩山へ、手先だけは器用だからなんとかなると思ってエリーズを紡績場へ割り振った俺が悪かったようだ。
「なぁ、ガリソン! やっぱり冒険者ならダンジョンに行こうぜ、ダンジョンに! 剣士の俺の実力の見せ場といったらダンジョンだろ!」
「私も、魔物使いの実力を見せるよ、ガリソン!」
バカがバカなことを言い出した。
ちなみに、このふたりは剣士と魔物使いと言っているが、それは詐称だ。
ジョフレは見習い剣士、エリーズは鞭使いだ。
「ダンジョンに行けるわけないだろ。誰のせいでこうなったと思っているんだ」
「「ガリソンのせい?」」
「お前等のせいだろうがっ!」
俺とジョフレとエリーズは、幼馴染というか子供の頃からの腐れ縁というやつだ。
俺が牧場の息子で、ジョフレとエリーズは牧場に忍び込んでは勝手に牛乳を飲んだり、時には乳しぼりの仕事を手伝わされたりしていた。
ある日、ジョフレとエリーズが冒険者になりたいと言い出し、俺も昔から冒険者という仕事に興味があったため、教会に行って見習い槍士に転職したのは一カ月前のことだ。
それから毎日のように槍で突きの練習をし、レベル3にまで上げた。
そろそろ初級ダンジョンに行こうかと話し合い、三人でささやかなパーティを開くことにした。
「俺はお前等に言ったよな。納屋に明日屠殺する予定の老ヤギがいるからそれを解体して焼肉パーティにしようって。なんでお前等は親父のお気に入りの羊を殺したっ! いや、みなまで言うなっ! お前等にヤギと羊の区別がつくと思った俺が悪かったんだ」
「ほら、やっぱりガリソンが悪いんじゃないか」
「ほら、やっぱりガリソンが悪いんだね」
お陰で親父には大目玉を喰らい、羊代を弁償しないといけなくなった。
羊の代金は四千センス。うち、残っていた羊肉と羊毛は三千五百センスで売れたから、残り五百センス(冒険者ギルド職員の給料約五日分、アルバイトの俺の一週間分の給料)を払わないと、俺の槍を返してもらえない。
つまり、迷宮に行けないというわけだ。
「そのことなら心配するな、ガリソン! お前の武器なら用意したからな」
「私も用意したよっ!」
ふたりはそう言って、俺にそれを手渡した。
「お前等……」
俺はジョフレとエリーズが取り出したそれらを見て、
「これは?」
まずはジョフレに尋ねた。
「見てわからないか? 採石場で給料代わりに貰ったんだ」
「見てわかるよ! どう見てもツルハシだよっ! 俺が言いたいのは、なんで槍士の俺がツルハシを武器にしないといけないんだって言ってるんだ。それにエリーズのこれは武器ですらないだろっ!」
「えへへ、裁縫ギルドで貰ったの。刺すというのは一緒でしょ!」
「大きさが全然違うよっ! 縫い針でどうやって戦えって言うんだっ!」
もしかして、この縫い針は自分達の口を縫い付けてくれというメッセージではないだろうか?
だとしたら、糸くらい用意してほしいものだが、糸はどこにもなかった。俺の堪忍袋の緒に使われている糸も、とっくに切れてしまい使い物にならない。
「ガリソン、ダンジョンに行こうぜ! もしもレアメダルが手に入ったら一気に借金も返せるだろ?」
「そうだよ、ガリソン。初心者向けのダンジョンならツルハシでも十分だよ。服屋のマーガレットさんなんて素手でゴブリンキングの頭を握りつぶしたって言ってたよ」
「そりゃマーガレットさんならな」
マーガレットっていう名前の人は、服屋で働いている筋肉隆々のおっさんだ。
元々は凄腕の傭兵だとか、冒険者だとか言われているが、実際どうなのかはよくわからない。
「とにかく、こんな武器でダンジョンに行けるわけが――」
「え? ガリソンさん初心者向けの迷宮に行くんですか?」
そう尋ねたのはカチューシャちゃんだった。
「いや、俺は――」
「ダンジョンに行くなら、ゴブリンソードの収集の依頼が出ているので、もしも手に入る様なら持って来てくれると助かります」
「任せてください、カチューシャさん! カチューシャさんのためなら、ゴブリンソードの一本や二本、ぱぱっと集めてきますよ!」
俺はカチューシャちゃんにそう言うと、ジョフレからツルハシを奪い取るように受け取り、冒険者ギルドを出た。
ガリソンは、書籍版成長チートの逆輸入キャラです。
そして、どいうわけかレギュラーキャラです。
1巻から4巻までフル出場中。
1/22発売の5巻では、なんとミリと……




