エピローグ
「イチノジョウ、ここで何があったか話せ」
トレールール様が現れるやいなや、俺にそう言った。
俺は、ハルたちと一緒にその説明をした。
ミリがここで暴れまわったこと。
突如、空間をぶち破り空飛ぶ船が現れたこと。
そして、その船がミリを誘拐していったこと。
「そうかそうか、あの魔王の小娘、ダイジロウに攫われおったか。転生させるときに妾をあれだけ脅したのじゃからな、いい気味だ」
トレールール様はとても面白そうに笑った。
どうやら、ミリの奴、この世界に来るときにトレールール様に対してかなり失礼な態度を取ったそうだ。そこは謝罪しないといけないのだろうが、俺としてはいい気はしない。
「っと、そうであったな。あの魔王娘はお主の妹でもあったな。すまなかった」
「あ、いえ、こちらこそ申し訳ありません」
そういえば女神様は心の中を読むことができるんだった。
これでは、俺がトレールール様のことをロリ女神様だとか心の中で呼んでいることも知られてしまう。
「ほう、そんなことを思っておったのか」
「……申し訳ありません」
思ってはいけないと考えている事をついつい思ってしまう。
「まぁそれもよい。コショマーレのオーク女神よりは四百倍マシじゃ。イチノジョウ、お主はこれからそのダイジロウを追え」
「あの、トレールール様。俺の名前、一応イチノスケなんですけど――戻してもらう事はできません……よね」
「うむ、面倒じゃ。妾が名前を憶えるだけありがたいと思え」
間違った名前を憶えられても困るんだけど。
「しかし、まぁ、ダイジロウを見つけ、その時にいた人間を全員ここに連れてくることができたらお主ひとりの名前くらいは変えてやってもよいぞ」
「本当ですか!? じゃあその時は妹の名前をミリに戻してもらってもいいですか?」
「ん? お主の名前じゃなくてもよいのか?」
「だって、女の子の名前でリュウっていうのもね――」
「……まぁよい、その時は名前を変えてやろう――では後は任せた。ダイジロウの居場所は妾も把握していないのでな」
トレールール様はそう言うと、一瞬にして姿を消した。
彼女によって生み出されたピオニアは、トレールールが消えた場所に向かって恭しく頭を下げていた。
トレールール様、ダイジロウさんの場所知らないのか……てっきり女神の不思議パワーでダイジロウさんの居場所を教えてもらえるかと思ったんだが。
「……んー、とりあえずマレイグルリを目指せばいいのかな」
「ご主人様、少し落ち着かれましたね」
ハルが俺に言った。
「トレールール様に話して冷静に状況を判断できたからな……信じてみようと思ったんだよ」
「信じてみる……ファミリス様をですか?」
どうやら、ミリはしっかりハルに自分の正体を語ったらしい。
俺は首を横に振った。
「もちろん、ミリも信じているけれど、この場合はダイジロウさんを……かな? あの人がダイジロウさんだっていうのなら、きっとそうそう悪い事はしないと思う」
俺は――いや、俺だけではない。俺やマリナに鈴木は、とてもダイジロウさんに救われた。ダイジロウさんが地球からの転生者のためにバイブルを残してくれたから、混乱せずに異世界を受け入れることができた。
「それにジョフレとエリーズも一緒にいたからな。あのふたり、根は善人だから。ダイジロウさんが極悪人だったら一緒にいないと思うんだよ」
「でもあのふたり、私を攫った盗賊たちの仲間だったよね?」
ノルンがそんな過去の話を持ち出した。過去の話ではあるが、ノルンは当事者だったからな。
それを言われたら……うん、その通りなんだけど。
「まぁ…ジョフレとエリーズのやつら、盗賊のことを義賊と勘違いしていたみたいで、しかもあの山賊の親分とは一度も会ったことがなかったらしいから」
なんで、俺がジョフレとエリーズのフォローをしないといけないのか。
「私の立場としては、ミリ様を救い出すのを止めないといけないんだけどね」
カノンが椅子に座って言った。
「――どういうことだ、カノン?」
マリーナが尋ねる。
「私はミリ様に頼まれているんだよね、イチノジョウのお兄さんに追わせないようにって」
「追わせないように? どういうことだ?」
「これ、ミリ様から預かっているのよ。私がいなくなったらイチノジョウのお兄さんに渡してって」
カノンがそう言って俺に投げたのは、アイテムバッグだった。
「その中に、元のお兄さんの世界から持ってきた道具やこっちの世界で稼いだお金が入っているそうだから」
アイテムバッグの中から何かを取り出してみると、ウナギのタレが最初に出てきた。
「……ミリはわかっていたのか? 自分が誘拐されることを」
「わかっていたというか、取引をしていたんだよ。ノルンちゃんが町で買い物している間、既にダイジロウさんと私たちは接触していたんだよ。それで…ミリ様がお兄さんと思い出を作られたら、それと不安材料がなくなったら素直に誘拐されるという取引が成立していたの。ダイジロウさんを呼び出すためのボタンも貰って――まさかこの異空間まで誘拐しに来るとは私も思っていなかったけどね」
カノンはそう言って、俺に渡したアイテムバッグの中から一枚の札のようなものを取り出した。
そして、その札を自分の首輪に貼り付ける。すると、カノンの首にあった黒い輪っかが溶けるように消えた。
「これで私も自由の身になったし、私はここで降りさせてもらうよ――マリーナ、あんたはどうする? 一緒に来る?」
「我は――」
マリーナは何かを言おうとしたが、首を横に振った。
そして、仮面を外した。
「……カノン……ごめん。私……皆さんと一緒にいきます。このままカノンと一緒に行ったら……たぶん後悔するから」
「マリナ、強くなったね」
カノンはそう言うとマリナをぎゅっと抱きしめ、その額にキスをした。
そして、
「じゃっ、私はさっさと撤退するか」
「あ、待ってくれ。ここの出口は迷宮の中に通じてるから――」
「別に構わないよ。私も祈ってから自力で脱出するからね」
カノンは手を振って出口に向かった。
そして、出る間際、紙飛行機をこちらに飛ばしてくる。
なんだ?
と思ってその紙飛行機を受け止めたら、そこには文字が書かれていた。
【引っ越し先が決まったから、用事があったらハンドミールの冒険者ギルドに手紙を送ってくれ。byジョフレ】
ジョフレからの手紙だった。
「……キャロ、ハンドミールって知ってるか?」
「はい、マレイグルリの東にある町ですね……罠でしょうか?」
「いや、俺はジョフレを信じるよ」
あいつが馬鹿ってことをな。
目指す先が決まった。
ハンドミールに行くぞ。
キリリ草をポートコベの冒険者ギルドに届けたらな。
五巻は今月1月22日発売です。
半分以上書下ろしで、ミリが活躍します。




