女たちの時間の始まり
でも、この好意の基準ってなんなんだ?
恋人としての基準――ではないだろうな。ミリがいるし、ノルンもいる。
ミリは家族としては俺のことを好きと言ってくれている。
ノルンは恩人として……かな?
でも、友達として好きだっていうのなら、同性のジョフレや鈴木が入っていないからな。まぁ、ジョフレも鈴木も実は俺のことを友達だなんて思っていないのかもしれないが――俺もジョフレのことは友達だとは思っていないけど。
「……ピオニアの名前はないのか」
「彼女はホムンクルスでしょ。効果の範囲外なんじゃない?」
そうか……そうだといいな。
と同時に、俺は自分の心に気付いてショックだった。
「どう? 便利な魔法でしょ?」
「……この魔法って、やっぱり女の子の家に遊びに行くための魔法だよな」
「もしくは送り狼になる魔法だよ」
そうか、送り狼か。
狼なのは俺じゃなくてハルなんだけどな。
「素直に助かる。前みたいに変な場所に転移されてもこれで帰れるからな」
「そう……おにい、誰の名前が書いてあったの?」
「それは個人情報だ。あ、でもお前の名前はあったぞ? ありがとうな。家族としてでも嬉しいよ」
「……うん、どういたしまして――」
ミリは少し恥ずかしそうに微笑んだ。
「ミリ、この魔法は一度リストを開けないといけないのか?」
「ううん、魔法を唱えて名前を言えば発動するよ。“拠点帰還、ミリュウ”って感じでね。でもどうして?」
「いや、このリストはあまり見ない方がいいと思うんだよ。他人の心の中がわかるっていうのは便利なようで、逆に信じるという心を失う結果になる」
もしも、あのリストの中に、ハルの名前がなかったら。キャロの名前がなかったら。マリナの名前がなかったら。
俺はどう思っただろうか?
彼女達は俺のことなんて別に好きじゃないんだって思っただろう。
もしかしたら、俺のことを利用しているだけなのかもしれない――そんな風に思ったかもしれない。
実際、ピオニアの名前がなかった時、俺はピオニアに好かれていないのではないかと思って、ショックだった。
そして、ピオニアが野菜の世話をしたりお酒を作ったり、船を作ったりするのは、もしかしたら命令だから仕方なくしているだけで、本当は嫌がっているんじゃないかとさえ思ってしまった。
「おにい、深く考え過ぎだよ。ハルもキャロちゃんもマリナさんもあのリストの中にあったんでしょ? それが答えなんだよ」
「そうか……うん、そうだよな」
あはは、妹に慰められるなんて情けない兄貴だよな。
俺はミリに感謝し、そして――
「あ、そうだ。ハルたちを呼ぼうか。ここで祈ったら迷宮踏破ボーナス、あいつらも貰えるだろうし」
「そうだね――ねぇ、おにい。キリリ草が見つかったのって私のお陰だよね?」
「ん? あぁ、それももちろん感謝してるよ。ありがとうな、ミリ」
「それでね、ちょっとだけお願いがあるんだけど。今から三十分間、マイワールドで女同士の話し合いをさせてもらえないかな?」
「女同士の話し合い?」
「やっぱり、ハルには私が魔王だってこと教えないといけないと思うんだよね」
ミリがはにかむような笑みを浮かべて言った。
「今じゃないとだめなのか?」
「うん、できれば今がいいな」
「わかったよ。じゃあ、三十分経ったら迎えにいくから。ミリ――」
「ん? なに?」
「いや、いい。うん、黙っていたことハルたちに怒られたら一緒に謝ってやるよ」
「なんで私がハルに怒られないといけないのよ」
まぁ、確かにハルが怒ることはないかな。
でも、俺がこう言う事で、この後ミリも行動しやすくなるだろう。
俺はそう言ってマイワールドへの扉を開け、ミリを見送った。
※※※
(おにい……ありがとうね。それと、ごめん。やっぱりミリはあの子たちが許せないや)
マイワールドを潜って、ミリの笑みは完全に消え失せた。
『ハルもキャロちゃんもマリナさんもあのリストの中にあったんでしょ?』
ミリのその質問に、イチノジョウは肯定した。
(個人情報云々言うのなら、言葉尻までちゃんと気をつけないと……少なくともあんな鎌かけに引っかかるようじゃダメだよ)
そんな鎌かけをしなくても、三人がイチノジョウに好意を持っていることはわかっていた。
マイワールドの中に入ると、遥か遠くで女性たちが集まってお茶会をしているようだった。
「……無責任にもおにいに好意を持った罪、その身をもって償ってもらうわよ――《暗黒の千なる剣》」
突如としてミリの頭上に千本の剣が現れ、お茶会をしている女性陣――その中のハル、キャロ、マリナ目掛けて飛んでいった。
本日より、異世界コミックにて本作品のコミカライズが連載スタートしました!
現在第一話が公開されています。
無料で読むことができますので、是非一度読んでみてください!
ノルンが可愛いですっ!