秘密の打ち明け
「スラッシュ!」
2階層で、剣戟が空を飛ぶ蝙蝠を切り落とした。
1階層ではコボルトには出合わなかったので、本日初めての獲物だった。
【イチノジョウのレベルが上がった】
【見習い魔術師スキル:杖装備を取得した】
【木こりスキル:斧装備を取得した】
【木こりスキル:伐採を取得した】
【職業:斧使いが解放された】
無職レベルは上がらず、剣士レベルが5に、木こりレベルも5に、そして見習い魔術師レベルは3に上がった。
んー、敵を倒して無職レベルが上がらなかったのは初めてだ。
レベルが50を超えたことにより必要経験値が上がっているのだろう。
「ハル、行こうか」
「…………」
あれ? 返事がない。
神妙な面持ちで何か考えているようだ。
「ハル?」
「あ、はい、すみません」
「いや、いいんだけどさ。行くよ」
「はい」
二階層もほとんど魔物がいなかった。
理由に心当たりがないかハルに尋ねたら、昨日、俺達が通ったときに使った魔物避けのお香の効果がまだ続いているのだろうということらしい。
脇道に反れたら敵に出くわす可能性もあがるとのことだ。
三階層になると、ハルが十階層までの道ならある程度覚えているとのことなので、それを信じて進むことにした。
そして、三階層で第一平民――いや、第一ゴブリン発見! って、第二、第三、第四までいる。
ゴブリンの群れのようだ。
あの時はゴブリン1匹相手に苦戦したが、今は違うってところを見せてやるぜ!
「じゃあ、ここも俺が行くから」
「かしこまりました」
俺はゴブリン4匹に向かって突撃していき、「スラッシュ!」とまずは一撃を放つ。
その一撃で縦一列、ゴブリン2匹は無残にもゴブリン棒と魔石を残して死亡。無残にもって、アイテムは残ってるじゃないか、とツッコミを入れられるくらい余裕だった。そして、ゴブリンはこちらに攻撃をしてくる。
左右からの攻撃、片方を防げば片方からダメージを受ける。
でも――今の俺には死角はない。
「回転切り!」
フィギュアスケートのスピンよりもさらに速い高速一回転とともに、周囲のゴブリンを切り裂いた。余裕過ぎる勝利だ。
【イチノジョウのレベルが上がった】
【職業:槌使いが解放された】
んー、無職が53に、剣士は6レベル、木こりは7レベル、見習い魔術師はまだ4レベルか。
見習い魔術師の成長が著しく遅いな。
とりあえず、落ちた魔石とゴブリン棒と呼ばれるらしいゴブリンの棍棒を拾ってアイテムバッグに収納。
で、後ろを見ると、ハルがまたもや思案顔をしていた。
「ハル、どうした? 調子が悪いのか?」
「いえ、気になることが二つございまして」
「気になること?」
特におかしなことはなかったと思うんだが。
「ジャイアントバットを倒したときにも思ったのですが、ご主人様のスラッシュの威力が違いすぎるんです。昨日までゴブリンを一撃で倒すことができなかったのに、今日は楽々と倒している。昨日は手加減をなさったのでしょうか?」
あぁ、なるほど。そこが気になったか。
「……もう一つは?」
「先ほど、獣剣士のレベルが2に上がりました」
「おぉ、おめでとう」
「口伝ですが、獣剣士がレベル2になるまでには、最低ゴブリンを20匹は倒さないといけないと聞いています。レベルアップが早すぎます」
「んー、ハル、今から俺が言う事は絶対に言わないでくれ」
「……かしこまりました。命に替えても」
「いや、命のほうを大事にしてほしいんだが……天恵って知ってるか?」
天恵という言葉に、ハルの眉が少し動いた。
「聞いたことがございます。時折、迷い人が他の次元より舞い降り、その迷い人は、我々は持たない力を備わっている。それが天恵だと。まさか、ご主人様が?」
「ああ、俺は日本という国から来た、まぁ、その迷い人って奴だと思う。怖いか?」
「いえ、私がご主人様を怖いと思うことなど決してございません。むしろ、私を信じて話してくださったことを誇りに思います」
「それで、俺が持っている天恵っていうのが、人よりも早く成長する天恵なんだ。取得経験値20倍、そして必要経験値1/20の二つだ」
「天恵を二つも持っていらっしゃるのですか」
今日のハルは驚きっぱなしだな。
それは女神のダブルブッキングによるミスだけどな。
「俺が取得した経験値は20倍、うち半分とさらにそのその半分、15倍分が俺に、5倍分がハルに行くってわけだ。だから、ゴブリン4匹倒せば、ゴブリン20匹分の経験値がハルに入ったんだと思う」
必要経験値1/20はハルには影響がないんだろうな。
この二つの天恵の違いはつまりはそういうことだ。
自分よりも強い人間とパーティーを組んでパワーレベリングしてもらうときは必要経験値1/20のほうが役に立つ。
自分と対等、もしくは自分より弱い相手とパーティーを組んでパワーレベリングする時は取得経験値20倍のほうが役に立つ。
「それで、御主人様は3階層までの敵は自分で倒すと仰ったのですね」
「ああ。でもまぁ、敵が強くなったらそんなことは言っていられないからな」
そして、ハルは言った。
「それにしても、まさかご主人様が、12年前に魔王ファミリス・ラリテイを倒した英雄の一人、ダイジロウ様と同じニホンの方とは思いませんでした」
「……え?」
ダイジロウさん、あなたって人は、こっちの世界でそんなことしてた有名人なの?