閑話 トレールールの調査
マイワールドの中で、ハル、キャロ、マリナ、ノルン、カノンの五人は屋外で食事をしていた。
肉はないので、魚パーティだ。
ただの塩焼きでも釣りたてであればとても贅沢な一品となる。それだけではない。
彼女達の前に既に並んでいる、野菜をメインとして作った料理の数々も全てが贅沢品である。何しろ完全無農薬は勿論の事、味も鮮度も一級品だ。
「転移魔法ですか。それがあれば行商人として大成できるのは間違いないですね。関税など支払う必要もありませんから」とキャロ。
「キャロちゃん、それ密輸だからね。絶対にしたらダメだよ。そんなことをしたらキャロちゃんでも捕まえないといけないから」とノルン。
「あれ? ノルンさんは自警団を辞めてなかったんですか?」とハル。
「休んでいるだけだって、前に言ってたよね。でも、そろそろ復帰しないとまずいんじゃない?」とカノン。
「み、みなさん。そ、その、魚が焼けたそうですよ」とマリナ。
ピオニアとシーナが焼き魚を運んできた。
ちなみに、魚は八匹あった。
ピオニアとシーナの分を含めても一匹余る。
いったい誰の分なのかと思ったら、
「妾の分じゃな」
とピオニアから一皿奪って彼女は串に刺さった焼き魚を食べた。
「うん、うまいのぉ。女神は食事をする必要はないのじゃが、やはり妾はこうして誰かが作った料理を食べるのが好きじゃ」
そう言って、今度はピオニアの分の焼き魚を奪った。
その横暴な振る舞いをする少女に、ピオニアとシーナ以外が言葉を失った。
「母上。必要でしたらまだ焼きますよ?」
「焼きトウモロコシもおすすめです」
「じゃあ、えっと、シーナだったか? シーナの言う焼きトウモロコシを頂こう」
彼女はそう言ってニっと笑った。
「畏まりました、トレールール様」
とシーナは頷き、トウモロコシを採るために畑へと向かった。
『トレールール様っ!?』
ハルたちが一斉に声をあげた。
「五月蠅い。食事の最中くらい静かにせい」
トレールールは焼き魚を食べていたが、骨の隙間や内臓の周りを食べるのは嫌ったらしく、まだ半分以上残っているのにピオニアに渡した。
「浄化」
魔法で口の周りを綺麗にした。
「ピオニア、お茶を淹れなさい」
「はい、母上」
「……さっきからその母上というのはなんじゃ?」
「私を試験管から出したのはマスターイチノジョウですが、私を創り出したのはトレールール様です。なのでトレールール様は母上です」
「まぁ好きに呼べばよい。口論するのは面倒だからの」
ピオニアはトレールールに頭を下げ、紅茶を入れに室内に向かった。
「あの、女神様は一体どうしてここに?」
最初に尋ねたのはカノンだった。
「別に。ちょっとあいつがいない隙にね――いま、ちょうどミネルヴァと……えっと、イチなんちゃらとその妹が面会しているから、その間にやるべきことをやっておこうと思ったまでよ」
「ミネルヴァ様とご主人様がっ!?」
ハルが驚き声をあげた。
「そうそう。まったく、教会ももう少しゆっくり女神像の交換作業を終わらせたらこんなことにならなかったんじゃけど――」
「ハーブレモンティーです」
「ありがとう……でも、ピオニア。焼き魚には普通は緑茶を持ってくるものじゃろ?」
「失礼致しました。淹れなおしてきます」
「よい、面倒じゃ」
トレールールはそう言うと、豪華そうなカップに入った紅茶を飲んだ。
ちなみに、このカップはピオニアが自作したものである。
「焼きトウモロコシです」
次に、シーナが焼きトウモロコシを持ってきた。
「あぁ、もうお茶を飲んだし要らない――それより」
トレールールは立ち上がると、ハル、キャロ、マリナ、ノルン、カノン。とそれぞれを見ていく。
そして、
「えっと、そのふたり――こっちに来るのじゃ」
呼ばれたのは、ハルとキャロのふたりだった。
「名前は?」
「ハルワタートと申します」
「キャロルです」
「そうか。ハルワタートとキャロ、そしてイチなんちゃらの三人が一時間以上共に過ごした者をわかる限り言え。名がわからなくてもいい。ただし、それ以外の三人はあまり接触していない者に限る」
「わ、わかりました」
ハルは頷き、名前を告げていく。
といっても数は限られる。
ハルたちがいる場所にはどうしてもマリナも一緒にいることが多かったからだ。
まずはクインス。オレゲール。セバスタン。あとはゴマキ村で出会った宿屋のおばちゃんくらいだろう。
「あ、あの。ジョフレさんとエリーズさんはどうでしょうか? 私、あまり会ったことはないんですけど。ケット・シーの村でも離れた場所にいただけですし」
マリナがそう尋ねた。確かに、ジョフレとエリーズのふたりなら、ハルとキャロ、イチノジョウもベラスラの町の迷宮で一時間以上は一緒にいた。
「あ、でもあのふたりなら私が結構一緒にいたことあるから」
ノルンがそれを否定する意見を出した。
「本当にそれだけか?」
そう聞かれてもふたりはそうだとしか言えない。
「そうか……んー、どれもハズレ臭いが……調べて見るしかないのぉ」
そう言うと、突如としてトレールールの姿が消えた。
いったいどういう質問なのか。
その答えはわからない。
ただ、トレールールが消えた場所に向かって、ピオニアが頭を下げ続けていた。




