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無職の極み

「ていうか、ミリ。この世界にもウナギっていたのかよ。ウサギならこの世界に来ていきなり殺してるけど」

「いるよ。魔物じゃなくて普通のウナギもいるし。って、おにい、ウサギ殺したの? もしかして、フロアランスの近くで?」

 ミリが驚きの声をあげた。確かに、俺がウサギを殺すって日本にいたころには考えられなかったよな。特にミリってウサギ好きだもんな。ウサギのカチューシャを持っていたりするくらいだし。

「ん……あぁ。あの時はダイジロウさんの手記に書かれている通りにしようと必死だったからな」

 ダイジロウさんの手記には、毛皮は売り物になるから倒せるなら倒したほうがいいって書いてあった。

 でも、あの時にウサギを倒さなかったら、俺は無職のレベルを上げることもできずに平民に転職していたんだよな。

「それより、ウナギだよ、ウナギ。そうか、この世界にもウナギがいたのか……それなら繁殖も……いや、繁殖は無理か。それに、ダンジョンの魔物なら倒したら消えちまうんだよな」

「繁殖は無理だよ。そもそも、卵があっても育てるのは難しいし。まぁ、魔王城では昔は稚魚を捕まえて育てる養殖ならしていたんだけど。でも、倒せば大きな切り身を落とすから、それを食べればいいと思うよ? 百五十年前くらいにこっちの世界に転移してきた日本人がいて魔王城に住まわせていたことがあるんだけど、その人が食べても江戸のウナギより美味しいって言ってたし」

「そうか……それは期待大だな」

 口の中には既に涎が溢れている。ウナギがこの世界で食べられるとは。

「ミリ、質問がある」

「木炭、七輪、串、お祖母ちゃん直伝の秘伝のタレ、全部揃ってるよ」

「さすがミリっ! 完璧だな」

 思わずこのままミリを抱きしめたくなった。

 祖母ちゃん直伝の秘伝のタレまであるのか。最悪、みりんと醤油があればいいと思っていたのに。

 もう完璧じゃないか。

「私もおにいが作るウナギのかば焼き、好きだしね」

「よし、ミリには一番うまい場所を食べさせてやるからなっ! 行くぞっ!」

 と俺はボス部屋の手前の扉を開けた。

 扉を開けるだけではボス戦は始まらない。

 扉の中に入ったら戦闘開始となる。


 だから、冒険者はボス部屋の中に入る前にボスの姿を確認しようと思えば確認することができる。

 そこにいたのは、巨大な背の青い鰻だった。普通の鰻の二十倍はあり、まるで巨大な蛇のようだ。勢いよく体を動かしている。

 活きがいいな。

「んー、やっぱり気持ち悪いわね。おにい、魔法で遠くから倒しちゃお」

 とミリが言ったような気がしたが、俺は無意識に体が動いていた。

「アイスっ! アイスっ! アイスっ! ブーストアイスっ!」

 俺は氷魔法を放っていた。

「おにい、何してるのっ!?」

 ミリが驚き声をあげる。

 なぜなら、俺の放った氷魔法はブルーイールではなく、その周りの壁や天井に放たれていたから。

 一見意味のない行動に見えるかもしれないが、その効果はミリが思っている以上に直ぐに現れた。

 ブルーイールの動きが鈍くなったのだ。

「そっか……魔物でも変温動物だから……MPの無駄遣い甚だしいけど」

 ミリが呟くが、俺は前に飛び出しブルーイールの首に斬りかかった。

「やったっ!」

 ミリが声をあげるが、俺はウナギの中骨に剣が届いたところで無意識に剣を抜き、着地すると今度は後ろに飛びながら剣を投げた。

 まだウナギは死んでいない。

「よし、いくぞっ! 目打ちっ!」

 俺はスキルを唱えるように剣を投げた。

 投げられた剣はウナギの顎に刺さり、そのまま壁に張っている氷に突き刺さる。

 よし、目打ちで固定したら、あとは頭の切り口から切っ先を差し入れ、中骨上面の胴を割き始めれば――

「ってあれ? ウナギが……」

 いつの間にかウナギの姿が消え、氷の上に背開きされたウナギが残った。もうタレをつけて焼けば出来上がりだ。

 普通の鰻よりも五倍くらい大きなウナギだが、全員で食べるには少ないな。

 もう二、三回倒せるかと思っていると、奥の扉が自動に開き、

【イチノジョウのレベルが上がった】

 と、いろいろとレベルが上がったが、そんなのはどうでもいい。

「ミリ、ここのウナギのリポップ時間は?」

「三日だよ。待てないからね」

「……そうか」

 俺もさすがに三日待ってまで食べようとは思えない。

「ウナギがいたってことは、教会の連中はここのボスは倒さなかったんだね。おにい、レベルは上がった?」

「ん? そういえばレベルアップのシステムメッセージ、いろいろと流れていたが聞き忘れた」

「なら、ログを見れば?」

「ログ?」

 ログってあれだよな? えっと、文字の記録だよな?

「お前な。いくらゲームみたいな世界だからって、システムメッセージのログが見られるわけないだろ?」

「え? 見られないの?」

「見られねぇよ」

「ログプレイバックって唱えても?」

「ログプレイバックって唱えてもだ……え? ログプレイバック?」

 そんなの聞いたことがないんだけど。

 ダイジロウさんの手記にも書いていなかったし。

「……ログプレイバック」

 と唱えると、

【剣聖スキル:創生剣を取得した】

「本当だ、なんかゆっくりだが再生始まったぞっ!」

「本当に知らなかったんだね。まぁ、ダイジロウの手記には確かに書いてなかったからもしかしたらって思ったけど」

 ミリは笑いながら言った。

 それにしても、システムメッセージを聞き逃したと同時に聞き逃したシステムメッセージを聞く方法を教えてもらえるなんて、運が良かったよ。

 まぁ、聞き逃していたとしても、ステータスオープンと唱えてスキル一覧を見たら良いだけなんだけどな。

【闇魔術師スキル:闇攻撃耐性を取得した】

【光魔術師スキル:光攻撃耐性を取得した】

 このあたりは順当だな。他の属性魔術師のスキルと変わらない。

【無職のレベルはこれ以上あがりません】

 ん? これは……そうか。無職の最高レベルは100だったのか。

 いや、まぁ、限界突破薬あるから最高レベル1000まで上げられるんだけど、それでも無職を極めてしまったのか。

 ただ、称号は手に入らないのか?

 確か、本来ならこの前に称号の取得があるはずなんだが――まぁ、無職の極みって称号があっても情けないだけだしな。

 そして、無職を極めたことでひとつのスキルを覚えた。

 …………ん?

 なんだって?

「おにい、どうしたの?」

「……いや……いや……ちょっと俺にもわからん」

【イチノジョウのレベルが上がった】

「わからないが、プレイバックってどうやったら止まるんだ?」

 ミリにプレイバックの止め方を教えてもらい、俺は頭を抱えたくなった。

 いや、むしろこれが正解なんだろう


 無職って極めたら仕事を求めるものなんだよな。

 何しろ、俺が覚えたスキルっていうのが、


【無職スキル:求職を取得した】


 求職という意味不明のスキルだったのだから。

ついに無職を辞められるのか?

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