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妹ルートその4

 魔物にしてやられたと思うのは三回目だ。

 一回目は、最初にコボルトと戦った時。あの時は死ぬかと思ったが、それ以上に必死だった。ウサギを殺した時には感じなかった命のやり取りを考えたのもあの時が初めてだった。殺さなければ殺されるという恐怖は今でも時折夢に見ることがある。

 二回目は、レヴィアタンとの戦い。あの時は自分の無力を感じた。なんでもできると思っていた自分の自信が粉々に打ち砕かれた。

 そして三回目が今回だ。

 タコの魔物グルメン。

 楽に倒せると思ったこの魔物に、まさか一矢報いられた。油断した。

 自分よりも弱い魔物が自分をどうこうできるだなんて思ってもいなかった。

 窮鼠猫を噛む、という諺もあるように追い詰められた魔物は何をするかわからない。

「……だから嫌いなのよ、この魔物」

 ミリが不貞腐れて言う。

 真っ黒な墨を全身に浴びながら。

 そう、グルメンの奴、殺されると思った瞬間自爆した。ただの爆発なら俺もミリも耐えられた。だが、ただの爆発ではなかった。墨爆弾とでもいうのだろうか? グルメンの体の中の墨が部屋中に飛び散った。避ける隙間もないくらいに。

 しかも、自爆だから経験値も手に入らない。まさに踏んだり蹴ったりだ。

「臭い……一体、何を喰ったらこんな臭いになるんだよ。って食ったのは俺が作ったカレーか」

「おにい、生活魔法使えるんでしょ。浄化クリーンで綺麗にして……目も開けられないから」

「わかったから、墨塗れで抱き着いてくるなっ!」

 前世が魔王といっても、こういうところは本当にただの女の子なんだよな。

 ミリに生活魔法の浄化クリーンを掛けてやり、俺も同じように綺麗にする。

 顔だけでなく、服の墨も綺麗に落ちた。

「おにい、一応、キュアもかけてよ。グルメンの墨って毒素も含んでるから」

「そうなのか……あぁ、そう言えばタコの墨って毒素が強い種類もあるって話だからな」

 イカ墨だったらパスタとかに使えそうなんだけどな。

「どうする? ミリ、もう一度グルメン相手に挑戦してみるか? 今度は俺が料理を教えてやるが」

「グルメンは一度倒すと再度現れるまでに三日くらい必要なのよ。だから諦めるわ」

「そうか、それは残念だな」

「残念なのはこっちのほうだよ」

 とミリはタコ墨まみれになったコオロギの素揚げを見て言う。

「せっかく作ったのに」

「いや、これはまだ食べられるだろ。浄化クリーン

 俺が浄化クリーンを使い、コオロギの素揚げについた墨を落とす。

 そして、ひとつだけ摘まんで口に入れた。

 さくさくの食感が口の中に広がる。

「ミリ、素材の味をそのまま生かすのはわかるが、やっぱり揚げただけで料理って言うのはどうかと思うぞ。レモングラスと一緒に揚げるとか工夫すれば、グルメンも料理として認めたんじゃないか?」

 まぁ、それでも本当は食べたいとは思わないんだけどな。

 ただ、妹が一生懸命作った料理を食べないのは兄としてどうかと思ったから食べたんだけど、食べる時にコオロギと目が合ったよ。

 はぁ、ミリのゲテモノ料理好きは相変わらずか。

「おにいの言う通りだね。このままでも十分美味しいんだけど」

 とミリはコオロギを二匹持ち上げてそのまま口に入れた。

 コオロギをかみ砕く、さくさくという音が聞こえてくる。

 そして、ミリは残りのコオロギを勝手に俺のアイテムバッグに入れた。

「おにい、食べたい時に食べていいよ」

「あ……あぁ。うん、ありがたくいただくよ」

 と俺は苦笑して、グルメンの部屋を出た。


 でも、ここまで魔物がいないと、さすがにボス部屋とか不安になるな。

「ミリ、ちょっと魔物退治しようと思うんだが、寄り道してもいいか?」

「勿論だよ。おにいの実力、拝見させてもらうよ」

「ミリは一緒に戦わないのかよ」

「だって、ミリが倒しちゃったらおにいの取得経験値二十倍の意味がなくなっちゃうでしょ?」

 あぁ、それもそうか。

 と俺は頷いた。

 なんか、妹にいいように利用されている気がするんだけど。


 ミリに案内されて辿り着いた部屋にいたのは、宙に浮かぶ巨大なタツノオトシゴのような魔物だった。

 相手はまだ俺たちに気付いていないらしい。

「どうやって飛んでるんだ?」

「陸上にいる魚系の魔物はだいたい空を飛んでるよ」

「……魚の概念が崩れるな。攻撃時の注意点とかあるか?」

「おにいの魔法なら一撃で倒せるでしょ? プチサンダーで」

「ごもっとも――プチサンダーっ!」

 と俺がアクラピオスの杖を取り出して魔法を唱える。

 杖の先端から出た雷が一瞬でタツノオトシゴ型の魔物を捉えた。


【イチノジョウのレベルが上がった】

【光魔術師スキル:光魔法Ⅱが光魔法Ⅲにスキルアップした】

【闇魔術師スキル:闇魔法Ⅱが闇魔法Ⅲにスキルアップした】

【剣聖スキル:剣装備Ⅱが剣装備Ⅲにスキルアップした】

【剣聖スキル:残像剣を取得した】


「おにい、レベル上がったの?」

「あぁ。無職以外は全部レベル上がってるぞ。光魔術師と闇魔術師がレベル6、剣聖がレベル4、拳闘士がレベル61になってる」

「……本当に凄いね。上級職ってそんなに簡単にレベルが上がらないのに」

「ミリはどうなんだ?」

「魔王のほうはレベルが上がらなかったけど、平民のほうはレベル4になったよ。レベルがもうちょっと上がったら見習い魔術師に転職させてね」

「見習い魔術師でいいのか?」

「うん。私の魔力、だいぶ封印されていてね。MPをもっと上げたら転移できる範囲も増えるし、いろいろと便利だから」

 なるほど。確かに、見習い魔術師には最大MPをあげるスキルもあるからな。

 ん?

「そう言えば、シーナから、魔王の力を封印している宝玉ってのを預かってるんだが、それってどうすればいいんだ?」

 と俺は今更思い出して、ミリにそう尋ねた。

「あぁ……あれはおにいがまだ持ってていいよ。宝玉があったところで、封印が解けるわけじゃないからね。他の三つの場所もわからないし」

「他の三つか」

「うん。一個は誰かが持ちだしたみたいだし。フロアランスとベラスラの中間にあったんだけどね。ケンタウロス迷宮へようこそって謎のメッセージを残しているから、それが手がかりといえば手がかりかもしれないけど……って、どうしたの? おにい」

「い……いや」

 と俺は否定しながらも、今の台詞にある種確信にも似た予感がした。

 というか、間違いないんじゃないか?

 そのケンタウロス迷宮へようこそってメッセージを残したのは、ジョフレとエリーズのふたりだろう。

 ということは、魔王の力を封印した宝玉もあいつが持っているんじゃないだろうか?


 なんて考えていた時、なにかが近付いてくる気配を感じた。

「ミリ――あれ」

「止まって、おにい」

 とミリが制し、通路の曲がり角から気配がした方向を見た。


 そこには、銀色の鎧に身を包んだ一団が歩いている。

 十人いる部隊だ。そのうちのひとりがこちらを見て声をあげた。

「隊長、あちらから何者かの気配を感じますが」

「強さは?」

「かなり弱いです」

「ならば放っておいてかまわない。目的は達成した。これより転移陣を目指す」

 どうやら、ひとりは気配探知を持っていたようだ。

 でも、かなり弱いってどういうことだ?

「(ステータス偽造を使ったの。ステータス偽造スキルを使えば、気配探知Ⅱ以上での気配の強さも偽造できるから)」

 とミリが小さな声で言った。

「(沈黙の部屋(サイレントルーム))」

 魔法を唱え、音を遮断し、

「ミリ、あいつら何者なんだ?」

 と普通の声で尋ねた。

「あれは教会の部隊みたい。何をしているのかはわからないけど、触らぬ神に祟りなしだね」

「教会の部隊か。軍隊みたいだな」

 地球で言うところの十字軍みたいなものなのかもしれないと俺は思った。

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