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妹ルート、その1

 ミリとふたりきりでポートコベを歩く……か。

「ミリ、大丈夫なのか? お前ってかなりポートコベで有名人になってるぞ。少なくとも名前はバレてる」

「大丈夫だよ、おにい。そこまで正確に顔バレしていないみたいだし、海賊たちを締め上げて私とミリュウは別人ですって言わせれば問題ないでしょ」

「締め上げてって……わかったよ。ハロックには俺から謝ってついでに口止めしておくよ……ったく」

 と俺がため息をつくと、そんな俺の顔をミリは下から覗き込んで尋ねた。

「おにい、合理的に生きるのはもうやめたの?」

 ミリにそう言われ、俺は考えた。

 そう言えばいつからだろう? 合理的に生きたいと言わなくなったのは。考えずとも、海賊のフリをして交渉の席に行くなど、以前の俺には絶対に考えられないことだった。

「……そういえば、この世界に来てから暫くしてもう合理的に生きるのは諦めてたな――一度死んだと思ったからか?」

「そんなの私に聞いてもわからないよ」

 とミリは面白そうに笑って、

「でも、その方がおにいらしくていいと思うよ? 兄妹破天荒にいきましょう!」

「お前ほど破天荒にはなれねぇよ」

 と言ったところで、

「ごほん」

 とカノンが咳払いをした。

 そして周囲を見ると、ハルをはじめ全員が俺とミリを見ている。

「剣士のお兄さん、私たちがいるってこと忘れてない?」

「ご主人様は是非楽しんできてください。私はフユンの毛並みを整えてあげたいですから」

「イチノ様。食事でしたら東通りの緑の屋根のカフェがお勧めですよ? テラス席からの眺めはポートコベ随一です」

「うん、ミリちゃんもお兄さんにずっと会いたかったみたいだしね。ピオニアさんがみんなで入れる露天風呂をこれから作ってくれるって言ってるし、私たちはお風呂に入らせてもらうね」

 カノン、ハル、キャロ、ノルンがそれぞれ俺とミリの散策に賛成し、

「それではお風呂の制作に取り掛かります。シーナ3号さん、手伝っていただけますか?」

「了解しました、ピオニアさん」

 といつの間にか意気投合しているピオニアとシーナが露天風呂作りに行くそうだ。

「じゃあ、みんなの言葉に甘えて、久しぶりに家族サービスさせてもらおうかな」

 と俺はミリを見下ろして頷いた。



 マイワールドから出た俺は、縛っておいた海賊たちを起こし、勝負は俺が勝ったこと、そして漁場は半分ずつにすることを伝えた。結果を証明する人間が誰もいない上、俺が甲冑を脱いでいるから勝負は無効だと言い出したのでどうしようかと思っていたら、ミリが笑顔で闇魔法を唱えて崖の一部を消し飛ばし、さらにその手を海賊たちに向けて殺気を飛ばしたところ彼らは土下座をして「半分で結構です。命だけはお助けを」と泣きながら懇願。

 ハロックを介抱し、向こう十年間漁場は二つの町が平等に分け合うと、海賊間の調停を結ばせた。

「いやぁ、それにしてもあの魔王ミリュウが先生の生き別れの妹君であられるとは、あっしも驚きやしたよ」

 ハロックはそんなおどけた口調で言っているが、足はきっちり震えている。

「悪かったな、妹が迷惑をかけて」

「いえいえ、迷惑だなんて。漁場の問題も片付きやしたし、しかも相手の海賊共、相当ひどい目にあったんでしょうね。海賊をやめて修道士として旅に出るって言ってやしたよ」

「そうか。もしかしたらポートコベの元海賊たちとどこかで会うかもしれないな」

 苦笑した。魔王が聖職者を増やしてどうするんだというツッコミを入れたかった。

「ねぇ、おにい。船に乗るなんていつ以来かな」

「ん? 俺は結構船に乗ってるけど」

「ふたりでだよ」

「ふたりで……公園のボートくらいしか覚えてないぞ?」

「あぁ、あの貸しボート屋ね。去年経営破綻した」

「経営破綻って言うか、隠居の爺さんが趣味でやってたような店だったからな。ボート代もたった百円だったし」

 と言った時、涙が頬を伝った。

「あれ? なんだ――地球への未練なんてミリだけだと思ってたのに……なんで泣いてるんだ、俺」

「おにいが泣きたくなる気持ちわかるよ。だって、どんなに願ってももうあっちには戻れないんだもん」

「そんなことわかってるよ。でも、なんでこのタイミングなんだよ」

「多分、おにいは余裕がなかったんだよ。私のことばかり気にして、私のことしか気にしなくて、それ以外を懐かしむ余裕がなかったんだよ……おにいは優しいから」

 とミリはそう言って、俺の腕を掴んだ。

「でも、それって悪いことじゃないんだよ。だって、忘れたい思い出じゃないんだから。だから、たまにはこうやって過去を懐かしんで泣いていいんだと思うよ。大丈夫、これからはずっと私がおにいの傍にいてあげるから」

 ミリの――妹のその優しさが俺の涙の呼び水となった。 


   ※※※


「で、なんでここなんだ?」

 俺とミリが最初に訪れたのは、ポートコベにある冒険者ギルドだった。

「だって、おにいのステータスを直接見たいんだもん」

 とミリが子供っぽく言った。

 自分以外のステータスを見るには、相手がパーティメンバーであり、許可を出すという条件がある。俺もミリの職業とレベルはわかるのだが、ステータスはわからないので見てみたいという願望はあった。

「と言ってもなぁ、この施設って冒険者しか利用できないんだろ? 俺は冒険者じゃないぞ?」

 ミリだって魔王という職業なのだから冒険者になれるはずがない。

「大丈夫、こう見えてもミリは冒険者だから」

 と冒険者ギルドの証明書を見せて言った。

「おにいの一時移籍ってことでパーティ申請するね。勿論手数料はミリが払うから大丈夫だよ」

「バカにするな。これでも俺もそれなりに稼いでいるんだ。手数料くらい俺が払ってやるよ――」

「おぉ、おにいも成長したねぇ。無職を無事に卒業できたんだ。うんうん、本当によかったよ。それにしてもなんて職業なのか楽しみだよ。マイワールドなんて魔法、聞いたことがないから」

「……………………」

「あれ? どうしたの? おにい」

「いや、なんでもない」


 そう言えば、ミリにはまだ言っていなかったんだよな。

 俺がまだ無職を辞められていないことに。

成長チートでなんでも4巻は9月22日発売です! と発売前告知。

そしてすみません、来週は締め切り前のため更新できないかも。

台風で仕事が中止になれば更新できるのですけどね。

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