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自己紹介

 マイワールドにこれほど多くの人が集まるのは初めてのことだった。

 俺、ハル、キャロ、マリーナ、ピオニアはいつものメンバー。

 さらに今日はミリ、ノルン、カノン、シーナもいる。ちなみに四人ともマイワールドに入るためのシールは目立たないところに貼っている――頬みたいな目立つところに貼っているのはマリーナだけだ。

 ミリ、ノルン、カノンはマイワールドに入り、周囲を見回しながらかなり驚いている様子であった。

「いろいろと聞きたいこともあるだろうが、自己紹介をしていこう。俺のことは全員知っていると思うから、ハルから順番に頼む。ハルのことはシーナ以外は知っていると思うが」

「はい、ハルワタートと申します。白狼族で今はご主人様――イチノジョウ様の奴隷をしています。職業は獣剣士です」

 とハルはいつも通り表情を変えず、スラスラと自己紹介を述べて座った。次にキャロが立ち上がる。

「はじめまして。同じくイチノジョウ様の奴隷のキャロルと申します。十七歳です」

「「「十七歳っ!?」」」

 ミリ、ノルン、カノンが同時に声を上げた。まぁ、初見では絶対にそうだろうな。カノンは初見ではないのだが、年齢については知らなかったらしい。

 いつもの事とはいえ、少し不満そうなキャロだったが、

「あぁ、半小人族ハーフミニヒュムなのね」

 とミリが独り言を言うように頷くと、笑顔で頷いた。

「はい。半小人族ハーフミニヒュムでして、一人前の行商人になるための修行中の身です」

「次は我の番だな」

 とマリーナが立ち上がったが、

「あなた、桜真里菜よね?」

 と先に言ったのはミリだった。

「ん、うむ、そうだが」

「マンションの最上階に住んでいて、猫を追って飛び降りた」

「何故そのことを知っているのだっ!?」

「だって、あなたが飛び降りる瞬間、私も窓から見ていたもの。あなたの住んでいた部屋、私の住んでるマンションの最上階だったし、エレベータでも何度か見たことがあるわよ」

 とミリはスラスラと事情を説明した。

「待て、ミリ。マリナって俺達と同じマンションに住んでたのか? 全然記憶にないんだが」

「あぁ、おにいが覚えていないのも仕方ないわ。その辺は後でゆっくり話すから自己紹介を済ませましょ」

 と話を中断させたミリ本人が自己紹介を促す。

「む……うむ」

 話の腰を折られたマリーナは気を取り直し、

「そうだな。我は大魔術師マリーナっ! いまでこそそこにいるイチノの奴隷に身を堕としているが、本来の我はそこにいるカノンの盟友にして共に悠久の時を――」

「真面目にやれ」

 と俺はマリーナから仮面を奪うと、

「あ……はわわわわ、え、えっと、桜真里菜です。宜しくお願いします」

 と頭を下げてチョコンと座った。

「うんうん、自己紹介までできるようになるとはマリナも成長したね」

 とカノンが母親の立ち位置で嬉しそうに呟いた。

「ピオニア。女神トレールール様により創造されたホムンクルスで、この世界の管理をマスターイチノジョウより任されています。最近の趣味は船造りです」

 とピオニアが言ったところで、こちらのメンバー紹介は終わった。

 次に、俺の横に座るミリに自己紹介を促す。

「楠ミリ、こっちの世界ではミリュウって名前になっています。楠一之丞――こちらの世界のイチノジョウの妹です。宜しくお願いします」

 とミリが簡潔な挨拶を済ませた。

「私はノルンです。フロアランスで自警団をしていて、昔お兄さんに危ないところを助けてもらった恩を返すため、ミリちゃんをお兄さんのところまで案内するつもりだったんですけど、あんまり役に立っていません……ごめんなさい」

 元気に挨拶したのに、段々とテンションが落ちていき最後は哀しそうに座った。一体彼女に何があったのだろうか?

「カノンよ。と言っても、ピオニアさん以外は知ってるわよね。魔剣職人をしているわ。そこのマリナとは腐れ縁の仲よ」

 カノンも挨拶を済ませ、トリを飾るのはシーナだった。

「作業人形型番417。個別名称シーナ3号です。好きな食べ物はブドウです」

 と頭を下げ、こうして全員の自己紹介を終えた。

 で、さっきの話に戻るのだが、

「ミリ。マリナが俺たちの住んでいるマンションにいたって本当か? 全然記憶にないんだが」

「記憶にないのは当然よ。真里菜があっちの世界にいた――」

 と言ったところで、俺はミリの頭を小さく小突く。

「年上を呼び捨てにするな」

「おにいだって、呼び捨てにしてるじゃない。真里菜さん、おにいより年上でしょ」

 と俺が小突いた部分を手で押さえながら文句を言う。

「俺はいいんだ――一応俺はマリナの主人ってことになってるからな」

「それなら、私だっていいじゃない。私は彼女の元主人の主人なんだから」

「――え?」

 と俺はカノンの方を見た。

 カノンは「えへへ」と笑いながら、

「まぁ、ベラスラの町でミリちゃんと賭けに負けていろいろね」

 とカノンは笑いながら言った。どうやら彼女がミリの配下になったのは間違いないらしい。

 賭けって、一体どんな勝負をしたのだろうか?

 ミリの勝負運の強さはこっちの世界でも健在のようだな。

「お前、カノンに迷惑かけてるんじゃないだろうな?」

「迷惑かけられているのは私の方よ。甲冑に変な機能なんてつけていなかったら、私がおにいの声を聞き間違えるなんてこと絶対なかったのに」

 とミリはカノンを睨みつけた。

 あの鎧のへんてこ音声はカノンの仕業だったのか。

「はぁ……で、えっと、話をもとに戻してくれ」

「うん。真里菜……さんがあっちの世界にいた痕跡はみんな消去されているの。彼女の両親の記憶も、写真も、書類も本当に全部ね。もちろん、そのせいで違和感は残っているはずだけど、誰も気付かないわよ」

「……それは本当か?」

「おにいには話したでしょ? 私たちは死んでいないんだって。死ぬ直前に転移されて女神のところに行ったんだから。ならおにいも不思議に思わない? 人が突然に消える現象がこれまでニュースにならなかったのは何故かって。当然よね、消えた人間がいた痕跡がなくなるってことは、消える前からその人がいなかったってことになるんだから。真里菜さんだけじゃないわよ。はい」

 とミリは虚空から一冊のアルバムを取り出して俺に見せた。

 そのアルバムを見て俺は絶句した。

 なぜなら、そのアルバムは風景写真ばかりが貼られていて、時折俺の両親が写っている。そして、その写真には本来は俺とミリの姿が写っているはずであった。

「これでわかった? 私たちがあっちの世界にいた痕跡はもうどこにもないの。真里菜さんの両親だって、自分たちに娘がいた記憶はなくなってるはずよ」

「……そ……んな」

 とマリナは俯いて黙り込んでしまった。

 確かに今の話はショックだろうな。

「……で、ミリ。もうひとつ聞きたいことがあるんだが、ミリュウってなんでそんな変な名前になってるんだ?」

「変な名前で言ったらおにいもだよね。イチノジョウって――まぁ、おにいの場合、本当はそっちが本名になる予定だったんだけどね」

「……は?」

「お祖父ちゃんいたでしょ? うちの家ではおじいちゃんが命名することになっていて、お祖父ちゃんはおにいに『一之丞イチノジョウ』って名付けたんだけど、出生届を出しに行ったパパがルビを間違えて『一之丞イチノスケ』にしちゃったの」

「そうだったのか」

 二十年間知らなかった己の名前のエピソードを知った。俺の名前って間違いだったのか。

「だから、おにいの場合、戸籍上の名前は『一之丞イチノスケ』だけど、真名は『一之丞イチノジョウ』ってわけ」

「マナ?」

「真実の名と書いて真名まないみなね。あ、この場合は死後の名前じゃないほうね。実名敬避で使われる方だって思ってちょうだい。本名は親以外に知られるのはよくないって昔は言われていたから」

「……わからん」

「おにいにわかりやすいように言うなら、ソ〇ッド・ス〇ークが『一之丞イチノスケ』で、デ〇ビッドが『一之丞イチノジョウ』みたいな感じ?」

「あぁ、なんとなくわかった」

 それでわかる俺も少し変な気がするが、つまるところ、結局俺の真実の名はイチノジョウで間違いなかったということなのか。

「お前も本当はミリュウって名前だったのか?」

「うん、お祖父ちゃんが名付けたんだけどね。なんでも赤ん坊のミリの中にまるで巨大な竜のような潜在的な力を見つけたから、この子は立派になると言って未竜って名付けたんだって。でもママがそれはかわいくないからって頭文字二文字を取ってミリにしたみたい。ママの機転に本当に感謝よ」

 とミリは亡き母に感謝したようだ。

「っと、そうだ。この後どうするか考えてなかったな。とりあえず海賊共を介抱して漁場は五割ずつにしてもらおう。それから」

 と俺はミリをちらりと見る。

 ハルに自分が魔王だと告げるならこのタイミングだぞと言いたかったのだが、ミリは首を横に振った。どうやらまだ告げるつもりはないらしい。

 そしてミリは代わりに、

「ねぇ、おにい。せっかくだしポートコベを散策しない? 久しぶりに兄妹水入らずで」

 と俺に提案してきたのだった。

強制的に妹(魔王)ルート突入?

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