積もる話もあり
本日2話目です。
「それで、おにいはどうして海賊なんてしてたの? 海賊王になりたかったの? それならミリも手伝うけど」
「手伝わなくていい。そもそも、それはお前が原因なんだよ」
と俺は事情を説明した。
「なるほど――厄介ごとに自ら首を突っ込むなんて、おにいらしいねぇ。合理的に生きるんじゃなかったの?」
「ぐっ、確かに俺は合理的に生きないといけないって思っていたけどな。でも強さを手に入れちまった以上、それを公のために行使するのは義務だと思うんだよ……ダメか?」
「ううん、ダメじゃない。やっぱりミリは昔からおにいのそういうところが好きだったから。まぁ、昔は力もないのにそんな考えを持っていて、バカだって思ってたけどね。いっつもミリが尻ぬぐいをしていたんだから」
「……言い返す言葉もありません」
あぁ、やっぱり力をつけてもミリに勝てる気がしねぇや。
「ね、ねぇ。おにいは私が魔王ファミリス・ラリテイの生まれ変わりだって知ってどう思う?」
ミリが少し緊張した面持ちで俺にそう尋ねた。俺は嘘偽りなく、素直に答える。
「びっくりしたな」
「それだけ?」
「それだけだ。たとえ魔王や女神の生まれ変わりでも、ミリは俺にとってたったひとりの妹だからな。事情はあとでゆっくり聞かせてもらっていいか? あと、ハルには自分の口から話したい時に話せ。といっても、憧れの魔王様がお前みたいなちんちくりんになってるって知ったら尊敬の念も薄れるかもしれないがな」
「あぁ……もしかして、さっきの銀色の甲冑がハルワタートだったりする?」
「正解だ」
俺がうなづくと、ミリは首を垂れて後悔したようだ。
「そういえば、他の海賊たちはどうしたんだ? まさか殺し――」
「殺してないけど、数時間は気絶したままのはずよ」
「なら大丈夫か。あとで俺からも謝っておくよ」
言っちゃ悪いが、今の俺はあいつらにかまっている余裕があまりない。
「そうだ、ミリ。少し待ってろ」
「え、待ちたくないよ」
「兄ちゃん命令だ」
「むぅ、おにい命令なら従う」
兄の強権発動により、ミリは俺に従う。
「ところで、ミリは――シーナと狼とここまで来たのか?」
「えっと、あとはノルンさんとカノンさんと三人ね。あとこの狼はフェンリルだから」
「ノルンにカノンっ!? ノルンってあのフロアランスのノルンと、魔剣職人のカノンかっ!?」
ポートコベでノルンの後ろ姿を見た気がしていたが、あれは見間違いではなかったのか。
それに、フェンリルって伝説の魔獣じゃないのか? よくそんなの従えているな。
「そう。ふたりともおにいにはお世話になったっていうから、ミリのことをここまで案内してくれたの。でもカノンさんが甲冑に音声変換機能なんてつけなければ、ミリは一瞬でおにいがおにいだって気付いていたのに……」
「音声変換か。そういえば、途中で声が普通に戻ってたが」
「たぶん、魔力が切れたんだと思う。安物の魔石を使っていたから」
「なるほどな。何はともあれ、あとでちゃんと礼を言わないといけないな……」
特にノルンは仕事もあっただろうに。
「じゃあ五枚でいいか。ミリはカノンとノルンを呼んできてくれ」
と俺はうなずくと、
「マイワールド」
と自分の部屋への扉を開いた。
「それって、空間魔法だよね。聞いたことのない魔法なんだけど」
「まぁ、これは特殊な魔法だからな――それもあとで説明するよ」
と俺はマイワールドの中に入った。
俺が中に入ると、ハルと事情を聞いたキャロが駆けつけてきた。
「イチノ様、ご無事でしたか」
「ご主人様、ミリュウさんは――」
「さっき話したよ。まさか魔王ミリュウが俺の妹のミリとは思いもしなかったがな」
と俺が苦笑交じりにいうと、
「えっ!? ご主人様の妹さんだったのですかっ!?」
とハルが驚く。もっとも、ミリが魔王ファミリス・ラリテイの生まれ変わりだって話したらもっと驚くだろうが、そこはミリから伝えることで話がついている。
「あぁ、それと、ノルンとカノンも一緒みたいだ」
「それは存じております」
「知ってたのっ!?」
「はい、ミリュウさんとは、ケット・シーの村で一度お会いしています。ノルンさんとカノンさんもご一緒でした」
「なんと……そんな経緯もあったのか」
それも驚きだ。
あぁ、だからミリュウという名前を俺が口に出したことで、ハルは止めようとしたわけか。
「じゃあ、こっちにミリたちを呼ぶから」
「はい、お待ちしております」
俺はこの世界に入るための許可シールをピオニアに頼んで五枚用意してもらった。
そして、それを持って戻る。
「あれ? ミリだけか?」
「うん、フェンリルとシーナ3号はノルンさんとカノンさんを呼びに行ってるよ」
「そうか――ところで、さっきミリが言った、俺たちは死んでいないってどういうことだ? 俺は確かに馬に蹴られて死んだはずだが」
「正確には蹴られる寸前まで覚えているんじゃないの?」
「同じことだろ?」
「全然違うよ。だって、おにいの服に血がついてた?」
「……いや?」
「私も、焼身自殺したはずなのに服は燃えてなかったでしょ? 女神っていうのはね、死ぬ直前の人間を転移させているの。それも魂の強さのある人間をわざと死ぬように持っていってね」
「なっ! それって、つまり俺たちは女神様に殺されたってことか?」
「あぁ、勘違いしないでね、おにい。コショマーレやトレールールはたぶん何も知らないわよ。あの女神は所詮は世界のシステムの一部のようなもので、末端のようなものだし」
「女神様を末端扱いって――じゃあ、俺たちを殺した――いや、殺そうとした? 殺すふりをした? 奴は誰なんだ?」
「私も知らないわ。たぶん、セトランスもライブラも知らないわね。ミネルヴァあたりなら知っていても不思議ではないと思うけど、やっぱり本命はテトね」
「テト?」
そういえば、ベラスラで像を見たことがあるな。
確か、ボブカットヘアの少女だった。その姿はどことなく、ピオニアやシーナに似ている。
「彼女は生命の女神。すべての命の母よ。もっとも今はなぜか安産の女神として伝わっているから、妊婦や不妊治療中の女性が信仰するくらいで、女神の中では一番影の薄い女神になってるわね」
「時代が変われば――ってやつか」
「意図的に変えられているのかもしれないけどね。あと知っていそうなのはダイジロウかしら? あいつは魂の研究をしていたから」
「ダイジロウさんか――そういえば、ダイジロウさんはお前にとって前世の仇でもあるわけか」
「それに関しては怒っていないわよ。私が望んだことでもあるし、ダイジロウがいなければ私はおにいに会えなかったわけだし」
「それを聞くと、お前が俺のことを好きすぎるように聞こえるが」
「うん、ミリは昔からおにいのことが大好きだよ」
思わぬ告白が来た!?
「妹として」
「そりゃ兄冥利に尽きるな」
というか、妹としてってのは当然だろ。異性として好きとか言われても困るし。
とそこに、フェンリルが戻ってきた。
その背にはカノンと、そして目をぐるぐると回しているノルンが乗っていた。
ノルンと別れてから二カ月も経過していないはずなのに、ずいぶん久しぶりに会ったように思えてくる。まぁ、こっちの世界に来てから気の休まる暇もなかったからな。
「久しぶりですね、ノルンさん。それにカノンも」
「ほへー、久しぶり、お兄さん」
車酔いならぬフェンリル酔いで足元もおぼつかないノルンが手を挙げて言った。
「本当に、こんなに早く再会するとは思っていなかったよ。ところで、マリナはどこにいるのかな?」
「……マリナ――あ」
そういえば、マリナのことすっかり忘れていた。