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将来の展望

 当然ながらピオニアが造った巨大帆船は浅瀬の多い内海で使うことができないため、昨日と同じ船でポートコベとポートイサカの中間にある山沿いの陸地に向かった。

 操舵等は全てハロックに任せているので、俺はキャロとふたり、甲板で外の景色を楽しんでいたのだが、昨日よりも潮の香りが強く、俺は思わず苦笑してしまった。


「どうなさいました? イチノ様」


 急に笑ったので、不思議に思ったのだろう。キャロが俺の顔を覗き込むようにそう尋ねた。

 俺は、「大した話じゃないんだけどな」と前置きして、


「これだけ潮の香りがきついと、嗅覚の優れた人はどう感じるんだろうなって思ったんだよ」

「ハルさんのことを考えていたんですか?」

「まぁ、ぶっちゃけそうだ」


 俺のことを好きと言ってくれる子の横で、他の女性のことを考えるというのは失礼な気がして少しぼかして答えたんだが、やっぱり気付かれてしまったか。気を悪くしないか? と思ったが、キャロは特に気にする様子もなく俺の疑問に答える。


「そうですね、獣人に聞いたことがあるのですが、長年海岸近くに住んでいる獣人ならばたとえ潮の香りがきつくても匂いを嗅ぎ分けることは別に難しくないそうです。ただし、海に来たばかりの獣人は慣れるまでに数日から数週間かかるそうです。長年内陸に住んでいるハルさんがもしもここにいたらいろいろと不便な思いをなさっていたかもしれません」

「そうか。でもそうなると南大陸に渡る時は苦労かけるかもしれないな」


 と今度は俺とキャロ、ふたりで今度は苦笑ではなく普通に笑ったのだった。


「先生、そろそろ甲冑の用意を」

「オッケー、わかったよ」


 大丈夫だ、トイレもさっき船に乗る前に済ませたし、潮の香りはきついが昨日よりも湿度、温度ともに低く水分を必要とはしない。

 それに、甲冑を着るのも、着て動くのにもだいぶ慣れたからな。

 甲冑を装着、鋼鉄の剣を確認し、鞘に納めると俺は舳先に向かい、そこで再び剣を抜いて垂直に構える。


「先生、どうなさったんで?」


 舵を取るハロックが舳先に立つ俺を見て怪訝そうに尋ねた。


「いや、さすがに剣を使って本気で戦うことになると、それは久しぶりだって思ってな」

「あはは、あっしらと戦ったときは全然本気でなかったのですね。あぁ、先生は魔法のほうが専門でしたか。ではなんで今日は剣で戦おうと?」

「相手と同じ土俵で戦って打倒した方が、相手も負けを認めるだろ?」

「なるほど、さすがは先生でやんす」


 ……どうもハロックの口調が定まらないなぁ。必死に下っ端風を装って口調を変えているようだけれども、普段とのギャップに正直腰砕けだ。

 本当は剣で戦うのはMPが心許ないからだし、剣を舳先で抜いたのは、なんか船の先端で剣を抜くのがかっこいいかなって思っただけだったのだが、ハロックは俺の嘘をかなり好意的に捉えてくれた。

 彼は俺の魔術を最初に見たときは気を失っていたが、剣の腕前はその身で体験しているから、俺が剣で戦うことに異論はないようだ。


「ところで、先生はお仲間さんと合流なさったらどこに向かわれるんですか?」

「南大陸に行こうと思ってな。会いたい人がいるんでな」

「まさか愛人でやんすか? あれだけ可愛い半小人ハーフミニヒュムの少女を囲っておきながら、先生もお好きですね」

「違うよ、男だ。俺や仲間にとっては恩人でな、あと別の仲間も彼に会いたがっているし」

「そうでしたか。ならば、南大陸に行くための手配はあっしらにお任せください。南大陸の港への停泊許可書を貰うには教会に掛け合うのに数週間かかるので、もしもお急ぎのようでしたら知り合いの交易船の船長に頼んでVIPルームをご用意いたしやすよ」

「ええ、先生にはお世話になっていますからね――ところで、交易船に乗られるのでやしたら、この船はどうなさるので――」

 あぁ……そういうことか。

「わかったよ――そうだな、交易船の手配ができて俺の頼みをいくつか聞いてくれたら譲ってやってもいいか、船を造った仲間に聞いてやるよ」

「おぉ、先生、懐が広い――ところで、その願いとは?」

「前のように川魚の魚卵と、あとは果物や野菜の種を何種類か、あと鶏のような家畜の有精卵と、あと面白そうな本をできるだけたくさん欲しいんだ」

 それだけあればピオニアも納得するだろう。

 あいつは造ることと食べることが唯一の趣味みたいなところがあるからな、料理のレパートリーを増やすためにもこれらは欲しいと思っていた。

「そういうことでしたらお任せください。知り合いに頼んで集めてきやす……あの、集めておいて仲間が断ったから船はあげられない……というのは」

「もし仲間が断ったらその時は代金をきっちり払うから心配するな――」

「それなら安心して集められます」


 と話がだいぶ逸れてしまったが、これから……か。


 ダイジロウさんのところに行ってからのことは確かに考えないといけないな。

 ハルはもちろん俺と一緒に冒険をしたいと思っているだろう。あいつは戦うことと干し肉が大好きだからな。

 キャロは行商人だが、もうかなり金が貯まったからな、何れは自分の店を持つだろう。

 マリーナは、実は日本に戻りたいと思っているようだからな、ダイジロウさんのお手伝いをしたいそうだ。

 そして俺は――そうだな、システム上の職業は無職のままでも、肩書きとして何か仕事を持ちたいな。旅の錬金術師とかどうだろうか? いやいや、鍛冶スキルを鍛えて旅の刀鍛冶なんていうのもかっこいいかもしれない。

 キャロが店を構えたら、その町を中心に活動してもいいだろうし、マレイグルリにキャロが店を構えるのなら、これまで通り四人揃ってバカみたいな話をしたりできる。

 マレイグルリは南大陸にあるツァオバール国の港町についてから馬車で約一週間。

 長い旅だったように感じるが、もう残り僅かなんだよな。


「先生、船を停め、はしけを用意します」


 と船は舳先から陸まで約六メートルの位置に一度停まった。

 俺は船が停まったのを確認すると、大きく陸へと跳んだ。

 テンションが上がって余裕で陸地に着地する俺を見て、乗組員から歓声が沸いた。

 よし、とっととこの会談を終わらせよう。 

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