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仁義なきアームレスリング

「先生、ここですっ!」


 と俺たちが案内されたのは、漁港近くの倉庫のような建物だった。漁業組合本部というよりかは、チンピラが溜まり場にしていそうな雰囲気に近い。もしかしたら、本当は俺のことを恨んでいてここでフルボッコにして船を奪って逃げるつもりじゃ……とか思った。少なくとも、この世界に来る前の俺ならば怖気づいて入れるような建物ではない。

 あ、いや、一度だけ入ったことがあるな。確か、俺の中学時代のクラスメイトの交際相手が、隣の中学校の番長(今時番長で、しかも中学で……とか当時思ったものだ)の片思いの相手で、そのクラスメイトが拉致監禁されたのがこれと似た倉庫だった。

 あの時、俺の目の前でそのクラスメイトが攫われて、警察を呼んだらそいつの指を折るとか脅されて、でも見捨てておけずに倉庫に忍び込んだんだった。

 えっと、確かあの時は……


 そうだ、俺の帰りが遅いと心配したミリが、俺の携帯電話にいつの間にか仕込んでいたGPS追跡アプリを使って倉庫の場所を突き止め、不良グループを壊滅に追いやったんだった。


 ミリって既にあの時から本当に色々と万能だったからなぁ。まだ小学校低学年だったのに、どこかの教授から万能細胞の開発チームのリーダーにならないかって誘われるくらいに天才だったし。なんでそんなコネクションを持っているのかは不明だけど。


 今回はミリはいないけれども、まぁ、俺の強さをあれだけ見せておいてそれでも敵対するほど馬鹿じゃないだろう。

 倉庫らしき建物の扉が開き、どこのヤ〇〇ですか? と思わせるほど人相の悪い男たちが俺とキャロ、そして元海賊たちを見た。


「おぉ、海賊ごっこはおしまいか、ハロック」


 とその中でもひときわごつい――身長二メートルはあろうかという巨漢の男が欠けた歯を見せて笑った。


「おしまいじゃねぇっ! ダナン! あぁ、海賊は辞めたんだが、俺には先生という強い助っ人がついたんだ! この先生がいたらイサカの連中から漁場を全部奪うことだって可能だぞ」

「全部じゃない、半分だ、半分」


 どうやらハロックというらしい海賊のリーダーだった男の言葉に訂正を入れる。


「先生? この男がそうなのか? どう見ても股に毛が生えたばかりのガキじゃないか。がはははっ」


 とダナンが笑って叫び、俺に近づく。


「おぉ、近くで見ると本当にガキだな」

「あんたは近くで見るとかなりでかいな――さすがは漁師を極めた男ってところか」


 何を隠そう、このダナンという男、レベルを見たところ

【漁師:Lv50★】

 と漁師のレベルをカンストしていた。海賊たちよりも遥かに強い力の持ち主だ。


「で、あんたが一体俺たちに何を教えてくれるんだ? 文字でも教えてくれるのか?」

「頼まれたら教えないこともないが――で、この流れは俺が力を証明するところか?」


 この雰囲気、冒険者ギルドで何度か味わったものに似ている。


「ふっ、話が早くて助かる。おい、例の物を持ってこい」


 と即座に戦闘になる様子もなく、ダナンが大きな樽を持ってこさせた。酒の一気飲みとかなら勝てる気がしないが。

 と思ったら、ダナンは樽の上に手肘をついた。

 その姿勢は――


「腕相撲――アームレスリングか」

「おぉ、そうよ。男の戦いといったらやっぱりこれだろっ!」

「助かったよ。いきなり戦闘とか言われたら怪我させちまうところだった。平和な戦いは俺も望むところだ」

「平和だと? 言っておくが俺はアームレスリングで過去に三人腕の骨を折って治療院送りにしたことがある。お前が四人目にならない保証はどこにもないぞ」

「じゃあ俺が保証してやるよ。あんたは治療院送りにならない」


 と俺が言って樽の上に肘を乗せると、ダナンは一瞬何を言われたのかわからず目を丸くさせたが、その言葉を反芻して、


「当たり前だ」


 と言って俺の手を掴む。

 手の平の面積は倍近く違うんじゃないだろうか? というくらいに不自然な組み合わせ。


「度胸だけは認めてやる」

「それはどうも」


 と戦いの前に俺とダナンの視線がぶつかり合う。


「イチノ様、頑張ってくださいっ!」


 とキャロの視線が飛び交う中、なぜかハロックが、


「では、準備はいいですね」


 と仕切りをはじめ、


「レディーファイっ!」


 と戦いを始める合図を送った。

 と同時に、俺の手に力が加わる。


「ほぉ、一瞬で勝てると思ったが、まだ余裕そうだな――ならこれでどうだっ!」


 と男の筋肉が膨れ上がった。

 いや、これでどうだって言われてもなぁ。


「もう少し力を抜いてくれないか? って言っても無駄だろうな」

「はぁ、お前何言って――」

「そんなに力を入れた状態だと――」


 と俺が力を込めると、男の腕とか肩があらぬ方向に曲がって、


「ぎやぁぁぁぁぁぁっ!」


 と倒れて左腕を押さえた。


「だから力を緩めろって言ったんだ。ほらっ」


 と俺は叫びのたうち回る男の腕を正しい位置に戻し、


「ヒールっ!」


 と回復魔法をかけた。


「回復魔法っ!?」

「俺、初めて見た」

「おいらは兄貴が馬に跳ねられた時に一度だけ見たことがあるけど――こんなに治りは早くなかった」

「見習い法術師のプチヒールじゃないぞ、今のは法術師のヒールだ」

「バカいえ、法術師の軟弱な腕でダナンの兄貴に勝てるわけないだろ」

「でも実際に回復魔法を使えて兄貴にも勝ってるじゃないか」


 と周囲がざわめき立つ。本当に回復魔法を使える人って少ないんだな。


「しかも聞いて驚けっ! 先生はその腕っぷしもさることながら、超が付くほど強力な攻撃魔法をお使いなさるんだっ! 先生ひとりいればたとえ脅しだけでもイサカの海賊連中、驚いてしょんべん垂らして逃げ帰るぜ」


 とハロックが言うと、そこにいた漁師たちは全員俺に向かって土下座の体勢をとった。

 そして、その中心で怪我を治してもらったばかりのダナンがひときわ大きな謝罪を見せた。痛みはまだ引いていないだろうに


「先生、試すような――いいえ、試すどころか信じていなくて申し訳ありません。どうか俺たちの先生としてこの漁港を救ってくだせぇ。我々全員、あなたの忠実なしもべとなります」


 それはどうやら漁師一同の願いだったようで、漁師三十人強、全員が俺を見て頷いた。

 ちょっと手を貸すだけのはずだったのに、手下が三十人以上できてしまった。

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