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働きたいのなら

火曜日は更新できずにすみませんでした。来週からはしっかり週二回更新したいと思います。


あと、本作とは関係ありませんが

別連載の「そのスライム、ボスモンスターにつき注意」

が書籍化決定しましたので、もしよろしければそちらも読んでいただけたらと思います。

 ボロボロになった海賊船――もとい漁船の修理をし、俺の帆船はその漁船とともに北西を目指す。

 俺とキャロの船はふたりきりだ。海賊の船員もとい漁師たちが驚いていた。


「帆船の造りが独特で、本当に少ない人数で動かせるように工夫されている。この船を作った人は天才だ!」


 ピオニアが褒められるのは自分のことを褒められることと同じくらい嬉しい。

 彼女はこの世界に来ることはできない。生まれてから機能が停止するまで、俺の世界で生まれ俺の世界で死ぬことになる。だが、彼女が作ったものはこうして俺の世界の外の人間に認められる。彼女が外に出られなくても、彼女の生きている証がこっちの世界に広がるというのは本当にいい。

 この船の設計図があったら譲ってほしいと言われたので、それはピオニアがいいと言ったら渡すつもりだ。


「イチノ様、無理していませんか?」

 舵を取る俺にキャロが尋ねた。

「何がだ? 別に疲れていないぞ」

「……イチノ様が元漁師とはいえ海賊の味方をするだけでもなく、海賊になるというのはどうも納得がいかなくて。迷い人の方は私たちよりも海賊等を忌避すると伺っていますが」

「そうだなー。まぁ、俺の時代でいえば海賊はある意味大人気の職業だけど……あ、物語の中でな」

 と俺は真里菜がいたらきっとわかってくれたであろうネタを言って、そして苦笑した。

「だよな――俺もそう思ってるよ。でもさ、俺はあいつらが羨ましかったんだ」

「羨ましい……ですか?」

「あ、海賊行為をすることが羨ましいんじゃないぞ? えっとだな、キャロには言ったことがあったっけ。俺は日本では無職だったんだ」

「無職というのは……その、今の職業でしょうか?」

「いや、その無職じゃなくて、働いていない、働けなかったんだ。就職面接に行ってもことごとく落ちてな。妹のミリが独り立ちできるくらいにお金を稼いで、アルバイトの生活をやめてしっかりとした定職に就こうと思って、いろんなところに面接に行った。でもさっき言った通り全滅だったよ」

 俺は空を見上げた。いつの間にかカモメのような鳥が俺たちの船の上を飛んでいる。

「思ったよ。なんで面接に落ちるのかって。ミリは俺のためにいろんな就職口を用意してくれたけど、全部ダメだった。でも今ならどうして面接に落ちたかわかるんだ。俺は――結局のところ働きたいんじゃなくて、ただ単純に無職の自分が嫌だったんだ」


 俺は働きたいとは思っていても、どんな仕事をしたいのかはわかっていなかった。というか、仕事だったらなんでもよかった。

 そりゃ、面接に落とされるよな。勘のいい面接官でなくてもわかってしまう。

(あぁ、彼はなんでもいいから仕事がしたいだけであって、意志があってうちに来たわけじゃないな)

 ってさ。たとえ言葉でどれだけ取り繕おうとも、どこかしらに見えるものなのだろう。


「キャロには見えないだろうが、あいつらの職業、全員漁師とか釣り師なんだぜ? 剣だって持ってはいるけど、ほとんど装備できてない――サーベルだって抜身で持ってる」


 この世界では武器は専用のスキルがないとろくに使えない。俺も剣装備のスキルを手にするまでは鋼鉄の剣を鞘から抜くことができずに苦労したものだ。それを回避するためには、まず見習い剣士の職について、それから素振りをしてレベル上げをし、剣装備のスキルを入手する必要がある。

 だというのに、あいつらときたら漁師や釣り人のまんま、職業を変えようともしていない。

 そんな剣で人が斬れるわけもない、そのくらいわかっているだろうに。


 あいつらは漁師という仕事を本当の意味で辞められなかったんだろう。漁師という仕事が好きだから。


「イチノ様。では彼らに漁師として働いてもらうために――」

「まぁな。もちろん、あとで話をちゃんと聞いて、ヤバイ仕事なら断るつもりだが――とりあえず仮面でも被っていたら俺のことがバレる心配はないだろう。軍が出てきて追われるようなことがあればマイワールドに逃げ込めばいい。むしろ心配なのは、海賊を潰して回っているっていうそのミリュウっていう女だけだな」

「人間相手ならイチノ様が負けるわけがありませんからね」

「……それはどうかな? 実は人間のフリをした凶暴な悪魔かもしれんぞ?」

 と恐ろしいものを想像して言うと、キャロが少し震えたので、俺は笑ってキャロの頭をぽんぽんと叩いた。

「冗談だ。まぁ、悪魔でもマイワールドの中に逃げ込めば問題ないさ。あそこは女神様の領域と同じようなとこだし追ってはこられないよ」

「ですよね――」

「あぁ、それより問題は魔王のほうか――魔王もポートコベに向かっているんだよな」

 こんなことなら、魔王についてもっとハルから詳しく聞いておけばよかった。

 ハルの主人だと言ったら仲良くなれるだろうか? いや、もしかしたらハルを奴隷にした悪い奴だと思われて戦いになるかも。せめてハル本人が一緒に居てくれたら話は纏まるんだろうが。


 ……うん、魔王とは会わないのが一番だな。


 シーナとはもう一度会って話したいという気持ちはあったけれども、君子危うきに近寄らず。雉も鳴かずは撃たれまい。虎穴に入れば虎に食われる。いろんな言葉が俺の脳裏をよぎって、そういう結論が導き出された。

 魔王も恐らく目立つ行動はしないだろうし、もしかしたらもうポートコベにはいないかもしれない。

 考えるだけ無駄か。


 そう思っていたら、前を行く漁船の向こうに陸影が見えてきた。

 それは時間とともにだんだんと大きくなっていき、町の姿もはっきりと見えるようになる。

 前の船は海賊船の姿をしているため、俺は入港許可書がないため町の港には入れない。秘密の停泊所があるということで、漁師たちにはそっちに案内してもらうことになった。

「まさか――滝の裏にある船渠じゃないだろうな」

「滝の裏ですか? それだと濡れてしまいますから不便ですね」

 キャロがそんなことを言ったが、でも滝の裏のドックはちょっとロマンがあるよな。女の子にはわからないかもしれないけれども。

 なんて考えていたが、結局船は普通に町から離れた入り江になっている崖のあたりに泊められた。キャロが言うには、この地形だと嵐がきても泊めている船が流されてしまうことはないそうだ。

 俺たちも錨を下ろし、帆を畳み、小船を海面に下ろし、縄梯子を下りていく。


 安全のために俺が先に下りたのだが、上を見上げるとキャロの……いや、なんでもない。


 ただ、キャロの奴いつの間にあんな色のものを買ったのだろうか?

 ちょっと意外だった。

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