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海賊なのかそれとも……

 山にいれば山賊、海にいれば海賊。

 なんともわかりやすいネーミングだと俺は苦笑するが、本物の海賊は盗賊の上位職だ。海賊が全員海賊という職業の持ち主かどうかはわからないが、もしも敵の中にその職業の持ち主がいたら油断できない。

 かつて、俺は山賊と戦ったことがある。あの時は己の未熟さのせいでハルを危険な目に合わせてしまい、さらに人を二人殺めることになった。

「キャロ、一度マイワールドの中に戻っていろ」

 俺はキャロにそう命令した。

 もしも戦いになるとしても負けるつもりはないが、ここは船の上。俺たちに地の利はない。まぁ、本当に地がないわけだが。海には海の戦い方があるし、船を沈められることにでもなれば、最悪相手の船を乗っ取る必要も出てくる。

 そんな危ない戦いにキャロを置いてはおけない。

「……キャロも見ていたい……ですが、足手まといですよね。わかりました」

 キャロは頷き、俺が開いた空間の歪の中に入ろうとし、その前に、

「イチノ様。絶対に無茶はしないでくださいね」

 と心配そうに言った。

「もちろん、無茶するつもりはない。できることなら穏便に話を付けるつもりだ」

 と俺はニッと笑うと、キャロも笑顔で返した。

 そしてキャロが「ご武運を」と言って中に入る。

 ご武運をって、戦いになること前提か……まぁ、そうなるだろうな。

 マイワールドへの扉である空間の歪を閉じ、俺は船の舳先に立つ。

 海賊船――黒い帆に髑髏の印の船はだんだんとこちらに近づいてくる

 距離が近付くにつれ、船の大きさもだいぶわかってきた。

 こちらの船のほうがわずかに大きいが、ほぼ同じ。ただあちらは帆もボロボロだし、船の側面も何度も補修した形跡があり、よく浮かんでいられるなと思う。

 そんな船に、人の気配およそ十。奴隷船や人質を取っていないのなら、全員が海賊ということになる。まぁ、ファンタジー世界なんだし、海賊船で客を運ぶこともあるかもしれないが。

 そして、相手の海賊の船長だろうか?

 一人の立派な髭を持つ眼帯をした男が抜身のまま持っていたサーベルの剣先を俺に向け、

「止まれ、そこの船! その船は我々が貰い受ける」

 と叫んだ。どうやら交渉の余地はなさそうだ。

 もちろん、この船はピオニアが作ってくれた大切な船、簡単に渡せるものではない。

「断るっ! 荷の一部――ワインとトマトを樽いっぱいに入れて渡す! それで満足してもらえないかっ!?」

「ふざけるなっ! 海賊相手に……うーん、少し魅力的だが……いや、我々には船が必要なのだ! その船を――って、おいっ! いい加減に船を止めろっ!」

 と海賊が叫んだ。

 そうだな、そろそろ船を止めないとぶつかってしまう。

 そこで、俺はとある質問を海賊たちに投げかけた。


「悪い。船ってどうやって止めるんだっけ?」


 すると、海賊の船長は顔を青くし、

「取り舵いっぱいっ!」

 と叫んだ。海賊船が大きく左、俺から見て右へと旋回する。本来ならこちらも取り舵をいっぱいにまわしていればこれから起きる惨事は起きなかったのだろうが、それは無理な話だった。何故なら、船の舵を切るのも俺の仕事だったが、俺は舵から手を放しているし、今更戻っても手遅れだ。

 結果――俺たちの帆船が海賊船の横っ腹に体当たりをすることになった。

 俺はとりあえず後ろに大きく飛んだが、

「おぉ、さすがはピオニアの作った船だ。海賊船はボロボロだがこっちはほとんどノーダメージだな」

 船首の部分が相手の船に乗り上げているだけだった。 

 俺が感心していると、ひとりの若い男がサーベルをもって斬りかかってきた。

 俺は腰からいつも下げている鋼鉄の剣を鞘から抜くと、下から上に、サーベルの柄をひっかけるように振り上げた。あっけなく空へと飛んでいくサーベル、あまりのことに呆然としているその男の腹に蹴りを放ち、海賊船へとお帰り願った。

「さて、これで実力差がわかってこのまま帰ってくれたら助かるんだが」

 と挑発するように言ったが、やはりそううまいこと行くわけがない。

 海賊全員が同じ形のサーベルを手に取った。

 二本買うと漏れなくもう一本貰えるキャンペーンでもやっていたのだろうか? ものの見事に全員同じサーベルだ。でも本当にそのキャンペーンをやっていたのなら、九本だと一本足りないし十二本買うと二本余ってしまうな。全員抜身の状態だが、鞘は別売りだったのか? なんてバカなことを考えながらも、海賊たちの職業を見た。

 そして、俺は全員の職業を見て、不思議に思った。

 ほとんどの人が、釣り人や漁師だった。海賊どころか盗賊すらいない。

「……漁師を辞めて海賊に転向したのか?」

「「「ギクっ」」」

 と言った。どうやら図星のようだ。

 よく見ると、甲板には漁師が使っていそうな網とか銛とかが置かれているし、なにより髑髏のマークが描かれた帆の裏には大漁旗がひっそり掲げられている。

 元々が漁船だったというよりも、欧州風のこの世界に大漁旗が存在したことが驚きだ。

 どこかの元日本人が伝来させたのだろうか?

「んー」

 全員が極悪人の海賊だったのならまだしも、今回は相手の船を壊した責は絶対にこっちにあるわけだし、それにさっき俺が蹴った男、打ちどころが悪かったのか、かなり手加減したにも関わらずぴくぴくと痙攣したまま動く様子がない。どうやら成長のし過ぎで手加減がしにくくなっているようだ。

 このまま戦えば死人が出るかもしれない。

「仕方ないな……本当は暫く魔法の使用は控えるつもりだったんだが」

 主にピオニアに魔力を補給するために。

 でも、まぁ少しくらいなら――魔力ブーストを使わなければ問題ないだろう。

「お前ら、よく見ておけよ」

 と俺はとりあえずアイテムバッグから杖を取り出し、それを海に向けた。

 そして、

太古の浄化炎(エンシェントノヴァ)っ!」

 と叫ぶと、杖の先端に巨大な火炎球が膨らみ、それが消えた瞬間、先端から光線が出たように見えた。

 直後、その光線の先が一キロ以上先の海面に到達――突如大爆発を巻き起こした。

 ブーストがなくてもなかなかの威力だ。

 そして、俺は杖を海賊たちに向ける。


 見事なまでの土下座を見ることができた。


   ※※※


「悪いな、船を壊しちまって。で、なんで漁師が海賊なんてやってるんだ?」

 さっき俺が蹴飛ばした男に回復魔法をかけてやりながら、俺はそう尋ねた。

 海賊のリーダーだった男は、付け髭だったらしいその髭を外し、

「私たちは先日まではただのしがない漁師でした」

「ああ、見ればわかる」

「………………………………」

 俺が頷くと、なぜか無言になる海賊たち。

 どうやら、自分たちはうまく海賊になりきれていると思っていたようだ。

 いや、本当に海賊になりきるつもりなら、せめて海賊旗の裏に遠慮がちにかけてある大漁旗を隠せ、と言いたくなる。

「全く、漁師なら漁師らしく魚を獲っていろよ……」

 と言いながら、もしかしてレヴィアタンが復活した影響で魚たちが全員巣に入って出てこなくなってしまい、漁師を廃業せざるを得なくなった……とか言われたら俺も責任を感じるが。

「実はこれには深い理由があるのです」

 と海賊たちは全員涙を流し、甲板を叩く人まで現れる。

 これはもう、無視してこのまま放置できる雰囲気ではないよな。

 大陸までの距離とか全く聞けていないし。

「……深い理由?」

 俺は遠慮がちに尋ねると、船長の男は言った。

「ええ――全てはあの狡猾な魔王――ミリュウの仕業なのです」

すみません、本当は火曜日に更新予定でその日のうちに書きあがっていたのですが、投稿が反映されていませんでした。

続きは明日です。

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