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死ねない戦い

 俺はキャロとともに海岸にいた。

 あとは、ここで船に乗って、大陸を目指すだけだ。が、その前に、復活する魔物を倒さなくてはいけない。

 シーナには少しの間だが、世話になった。一宿一飯の恩義は返さなくてはいけない。

 大丈夫だ。俺はこの二日、精一杯修行をした。

 二日の修行というが、俺にはふたつの天恵のおかげで四百倍の速度で成長する力がある。そして、さらに五つの職業を同時に成長させることもできる。ただし、無職は固定のため、実質四つだが。つまり、千六百倍の速度で成長するわけだ。

 二日間頑張れば十年間の修行と同じ効果がある。さらにシーナ3号のサポートのおかげで、通常で狩れる魔物の数ではない。さらにさらに、四つの職業によるステータスが全て合計されるため、強さも四倍。

 大丈夫、強くなっている。

 今の俺は絶対に強い。今の俺に倒せない魔物はいないはずだ。

 そう自分に言い聞かせるが、足の震えが止まらない。

「イチノ様、緊張なさっているのですか?」

「……ちょっとだけ……な。魔王でも倒せなかったって魔物だろ? 本当に俺に倒せるのかなって思ってるんだ。もしかしたら倒せないかもしれない」

「そうですか……確かに倒せないかもしれませんね」

 キャロは笑顔で言った。

 え? 肯定するのか?

「そこはできれば否定して欲しかったな」

「イチノ様、キャロは死にたくありません。イチノ様は仰ってくださいました。キャロには幸せに生きる権利があると」

「……巻き込んで悪いな、キャロ。でも、危なくなったらマイワールドの中に逃げるから――」

「イチノ様も一緒にですよ。イチノ様が死んでしまったら、キャロはイチノ様の世界から外に出ることができません。死ぬまでピオニアさんとフユンと一緒に暮らすことになります」

「そうだな――確かに俺は死ねない――キャロを必ず送り届けないといけない――何があっても」

「もう、緊張はほぐれましたか?」

 キャロはそう言って俺の手を握った。

「イチノ様は死ぬかもしれないと思っていたかもしれませんが、死んでもらったらキャロは悲しいです。ハルさんも悲しいですし、マリーナさんも悲しみます。イチノ様には絶対に生きていてもらわないといけません。だから、最初に言っていた通り、危ないと思ったら逃げればいいんです」

「シーナを見殺しにしてもか?」

「魔物を倒せなかったからと言って、シーナさんが本当に死ぬとは限りません。魔物に島が襲われるのはシーナさんの予想だけですから」

 キャロは言った。それが楽観的な考えを通り越して、ありえない未来であることを知りながらも。

 でも、そうだな。キャロの言っていることが正しい。

 シーナとキャロを天秤にかけたら、本当はそんなことをしたらいけないのをわかっているが、俺はキャロに生きて欲しいと思う。俺は今、彼女の人生を預かっているんだから。

 いや、キャロだけじゃない。俺が死んだら俺の奴隷になっているハルもどうなるかわからない。マリーナにしてもそうだ。

「そうだな、俺はまだまだ死ねないよな」

「はい、生きてください、イチノ様。イチノ様はキャロたちと一緒にいてキャロたちについて責任を感じているかもしれませんが、幸せを追求する権利がイチノ様にも存在することを忘れないでください」

「……キャロ、お前は大きな勘違いをしているよ――マイワールド!」

 と言って、俺は自分の世界への扉を開いた。

「だって、ハルやマリーナ、そしてキャロ――お前たちに出会えたんだから。本当に幸せだ」

 とそう言って、マイワールドの中に入り、俺は愕然とした。


「お待ちしておりました、マスター」

 ピオニアが恭しく頭を下げて俺を出迎えた。

 俺はピオニアに船をいくつか作るように頼んだ。

 てっきりカヌーのようなものができるものだと思っていた。が――そこにあったのは。

「ピオニア、これは一体――」

「船です――まだ二艘しかできていませんが」

「二艘というか、これは二隻だな」

 そこにあったのは、大きな帆船だった。

「いったいどうやって――釘とかはどうやって?」

「鉱山までは作れませんでしたが、小さな鉱脈を作りましたので、そこから鉄鉱石を採掘しました――木材は十分にありましたので、このくらいは――ですが魔力がだいぶなくなってしまいました――マスター、魔力の補給をお願いしてもよろしいでしょうか? そろそろ限界です」

「ピオニア、お前、俺が死んだらどう思う?」

「マスターが現在死ねば、その時点でマスターキャロが新たなマスターになります。マスターキャロから魔力をいただきます」

「はは、随分と現実的だな」

「ホムンクルスですから」

 とピオニアは言うと、ふと思い出すように言った。その姿はやけに人間くさい。

「マスターが死ぬのであれば、その前に魔力を補給してください。マスターの魔力はとても美味しくて好きなので――生きていて貰えたら助かります」

「そうか、悪いが魔力の補給は無しだ――この後ちょっと戦いが待っているんでな」

「そうですか。それは残念です。なら、ここでお待ちしておりますから、死なないでくださいね」

 とピオニアは言った。もしかして、こいつはこう見えてツンデレなのか? と思ってしまう。

「さてと――」

 と俺は立派な帆船を見て考えた。


 これ、どうやって外に出せばいいんだ?

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