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ハルの答え

「ルンちゃぁぁぁん! よかったわ、本当によかったわ」

「いたい、いたいですよ……マーガレットさん」


 マーガレットさんに抱き着かれるノルン。彼女の骨の悲鳴がこっちまで伝わってきた。

 でも、本当にマーガレットさん、心配してたんだな。

 とてもうれしそうに涙を流している。


 再会を喜んでいたマーガレットさんは、俺の方を向く。


「マーガレットさん、申し訳ありません。マーガレットさんからいただいた剣、折れてしまいました」


 俺は真っ二つに折れた剣をマーガレットに差し出す。


「ううん、イチ君とルンちゃんを守ってくれたんだもん。あの人も、その剣も本望よ。それと、ルンちゃんも言ったと思うけど、私からも改めてお礼を言わせてちょうだい。本当にありがとうね!」


 そう言って抱きついてきた! 顔を寄せてきた! 頬ずりしてきた!

 いてぇぇぇ、折れる! 胸板が、胸板が厚い! 胸に何か詰めているとは思ったが、鉄球でも詰めてるんじゃないか? 髭が、髭が痛い!


 僅か10秒の地獄から解放されて――俺は地面に膝と手のひらをついて倒れ込んだ。


 なんだ、これ。マーガレットさんが本気を出せば、余裕で山賊を倒せたんじゃないかと思ってしまう。

 全く振り払えなかったぞ。


「大丈夫、お兄さん。マーガレットさんは元々拳闘士だから、肉体強化系のスキルをいっぱい持ってるのよ」

「もう、ルンちゃん、余計なことを言わないの。今は只の裁縫士よ」


 サイホーシ? サイボーグの間違いじゃないのか?

 そう思ってマーガレットさんの職業を見た。


【裁縫師:Lv38】


 あぁ、本当だ。って、凄い高レベルだな、おい。

 生産職でもレベルが上がればステータスは増えると思うし、肉体強化のスキル……そりゃすごいわ。


「ふふふ、貴女がハルちゃんね。イチ君から話は聞いているわ。あなたもルンちゃんを助けてくれてありがとう」

「いえ、私はそんな……」

「んー、とても可愛いわ。妹にしたいくらいよ」


「マーガレットさん、妹というには年の差が――いたい、いたいですよ、マーガレットさん」


 ノルンが余計な事を言ったせいでマーガレットに締め上げられている。

 ノルンの別の一面を見られたようだ。ていうか、マーガレットさん、何歳なんだ?


「ハルちゃんも一緒に食事を食べていきなさい。お肉を焼きすぎちゃったのよ」

「食べていけ。量は多いが、とても旨いぞ……見事に肉だけだったが」


 あの量は三人で食べるには量が多い。


「あの、私は奴隷なのですが」

「知ってるが?」

「普通、奴隷は専用の食事が与えられます。奴隷商館でもそうでした」

「そうなのか? マティアスさんならまともな食事をくれそうだが」

「商館内で良質な食事を続ければ、買われた奴隷は悪い待遇には耐えられません。だから、寝る場所は石畳の上、食事は野菜の屑と固いパン、時折肉の欠片、水のみというものが多いです。見た目を気遣い量は肌の色が悪くならない程度にはありますが――」

「……マーガレットさん、ハルが奴隷だって関係ないよな」

「ええ、関係ないわよ。皆で食事をしましょ」


 マーガレットさんがそう言って、ウインクをパッチパッチしてきた。悪寒が走った。

 そして、マーガレットさんとノルンは二人で店の中に入って行った。


「ということだ。ハルがいなかったらノルンさんは絶対に助けられなかったんだ。俺一人だとあんな隠し通路は見つからない」


 それと――と俺はもう、ここで伝えてしまおうと思った。


「なぁ、ハル。俺の事どう思う? 今の俺、ハルより強いと思うか?」

「はい、ご主人様は私が倒せなかった山賊を倒しました。私よりも強いと思いますよ」

「じゃあ……ハル、お前の言う、自分より強い者に当たるわけだな」


 俺はハルにそう告げて、彼女の瞳を――金色の瞳を見つめて言った。


「俺は、ハルのことを身請けしたいと思っている」


 二人の間に沈黙が流れた。

 誰もいない町の中、俺はハルの答えを待つ。


 そして、ハルの目から涙が流れた。


 え? それってどういう意味での涙?

 そして、ハルは口を開いた。


「とてもうれしいです、ご主人様」

「え? それじゃあ」

「ですが、ご主人様は御存知かと思いますが、私のことを身請けしたいという貴族の方がいらっしゃいます。その方は冒険者ギルドにも多額の支援をなさっている貴族で、私を買われたら、ご主人様にも被害が及びます。ですから――」

「いや、俺、冒険者ギルドに入るつもりはないよ。だから、前にハルに冒険者ギルドで換金をしてもらったんだし。あぁ……でもそうなると、ハルが冒険者ギルドでアイテムを換金をするときに何か言われるかもしれないか」

「はい、表立っての圧力はないと思いますが、換金の査定額が少なくなるなど、恐らくご主人様が私を疎み、手放すために手を尽くすと思います」


 そして、ハルは言った。


「私はご主人様に嫌われたくありません。ですから、その気持ちだけで――」

「俺がなんとかする! 大丈夫だって、魔石の査定額を半額に落とされたとしても、じゃあその二倍魔石を集めたらいいだけなんだし、金がなくても外で獲物をしとめてサバイバルで生きるのも――あぁ、でもそんな生活をハルにさせるのもな」

「いえ、白狼族は町に住まずに放浪する一族でした。ですが――ご主人様はヒューム、耐えられる生活では――」

「なぁ、ハル。俺が今聞きたいのは、ハルがどうしたいかだ。貴族の力も、俺の考えも関係ない」

「私は――」


 ハルは、逡巡し、呟くように言った。


「私は、ご主人様と一緒にいて……よろしいのですか」


 大粒の涙を流す。

 俺は――その涙の意味を大事にして、そして二度と彼女を泣かせたくないと心から思った。


「こっちから頼む。俺と一緒にいてくれ」

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