ハルたちの武道会④
その日の夜。
作戦会議ということで、ハルワタート、マリナ、カノン、ノルン、そしてステラの五人が、ステラのマタタビ酒房に集まっていた。と同時に、ハルワタートがダウン。酒房の中のアルコールの匂いで、酔っぱらって眠ってしまった。今は隣の部屋で寝ている。
寝言で「ご主人様……ご主人様……」と呟いていた言葉に、ステラとノルンは今回の大会の大切さを再確認した。
一方マリナは、カノンの異変に気付いていた。
「……カノン、何かあったの?」
心配そうに尋ねるマリナに、カノンは首を振って、笑って言った。
「いつからマリナは私のことを心配できるくらいに立派になったのかな? 人見知りは治ったの?」
「それは……まだだけど」
「ならば、あんたはそれを治しなさい。私は大丈夫だから」
そう言って歯を見せて笑った。
「一回戦は、にゃんと六星というチームになったんですね」
にゃんと六星と面識のないノルンが、対戦表を見て呟く。
「そうニャ。ミッケとマル兄が戦うはずだったけど、たぶんミッケのチームはもうダメニャ。ひとりでも負けたらダメだし、フリオとスッチーノというふたりは、元々戦力として数えていにゃかったそうニャ。ミッケ自身も戦闘力は皆無だから、補欠の意味もなさないニャ」
六人一チームで行われるこの戦い。戦いの中で一度だけ、補欠の選手と出場選手を交代できることになっている。
ただし、それは出場予定の選手が来なかったり、大怪我や病気で出られなかった場合のみの特例措置だそうだ。
ミッケのチームはミッケ自身を補欠にしていたそうなのだけれども、確かに意味はなさない。
「それで、出場選手はどうするニャ? 先鋒、次鋒、中堅、副将、大将。普通は弱い者から並べるのがセオリーニャ」
「ノルンとマリナは、一般人よりは強いけど、戦力としてはパッとしないから、できることなら、私とハルワタート、そしてステラの三人で決着を着けたいわね」
そう言ったのはカノンだった。
そして、カノンの提案は、初戦の先鋒にマリナを置き、次鋒にステラ、中堅にハルワタート、副将に自分を置き、大将のノルンを捨て駒にするというものだった。
「……捨て駒ですか」
ノルンはどこか不服そうだが、自分がこの中で一番弱いということも理解している。
「――先鋒は私?」
マリナは驚いたように尋ねた。
「マリナはそのスキルから、小細工とか得意でしょ? 大丈夫、負けそうになったら降参していいから。さっき偵察してきたけど、にゃんと六星の実力は大したことないから、ステラやハルワタート、私なら絶対に負けないわよ」
それに、とカノンは胸中で付け加える。
(万が一、ステラとハルワタートのどちらかが負けた場合、ノルンが捨て駒な以上、マリナの勝利が必須になるからね。そんなプレッシャーの中だと、この子は本来の実力を十分に発揮できない)
それは過保護ともとれる考え方だったが、もっとも勝算の高い考えでもあった。
「じゃあ、これで提出してくるニャ」
「あ、ちょっと待って。参加表は私が出してくるよ。ステラとノルンはハルワタートの看病を頼むよ。マリナも緊張で倒れそうだから、散歩をさせたいし、大会本部の場所も昼間に確認したから。ほら、マリナ、しゃきっとしな。」
カノンはそういうと、参加表の紙を持ち、緊張しているマリナを立たせると、歩いて大会本部に向かった。
※※※
翌日の正午。
大会は四つのチームのリーダー、四匹のケット・シーが壇上に上がり、宣誓をする。
その中でも、ミッケだけは顔色――もとい毛並みが優れない。最初から勝負を諦めているのだろう。
それでも、できる限り頑張って戦って欲しいとハルワタートたちは思っていた。
相手のチームの情報がまるで入ってこない。マル王子、つまりステラの兄の情報はステラから聞いた。
なんでもケット・シーで一番の剣の使い手なのだとか。だが、そのマルが連れて来た人間の実力は未知数だ。
(ヴァルフがいない……まぁ、朝は苦手だから休んでいるのかもね)
カノンはあたりを警戒しながら呟いた。
吸血鬼は朝と昼が苦手だから。
そして、大会の開会式が終わり、いよいよ戦いがはじまる。
先鋒として、仮面を着けたマリーナが、風の弓を持って、広場の中央に出た。
そして、にゃんと六星が一匹――ニャイと向かい合う。
いよいよケット・シーの新たな王を決める戦いの舞台が、幕を開ける。
成長無職2巻、本日発売です。全国書店、ネット書店でご確認ください。
ケンタウロスの過去が明らか(?)になる閑話、キャロ視点で振り返る2章の物語が書き下ろしであります。
あと、評価人数2000人超えました。ありがとうございます。
全く関係のない話ですが、私がよく読む小説のあとがきで、
本の評価は一週間の売り上げで決まると書いてありました。
関係のない話ですが。