復活する予兆
「そうですか……転移陣の類はありませんか」
「はい、魔王ファミリス・ラリテイ様は転移魔法でこの島に、ダイジロウ様は飛空艇と呼ばれる魔道具を使っていらっしゃいました」
この島からの脱出法がないか417に尋ねたが、船も転移陣もこの島には存在しないらしい。
ダイジロウさん、この世界で飛空艇を作ってたのか……半端ないな。ロールプレイングゲームとかだと終盤にならないと手に入らない乗り物じゃないのか、それ。
「ていうか、417って言いにくいな……」
「名前の設定はマスターのみ可能です。設定なさいますか?」
「え……あぁ、俺、ネーミングセンスないから。417……ヨイナ……いや、シイナか」
数字をそのまま読んだだけだが、
「そのまんまだけど、呼びやすいし、シイナ、ううん、この世界に合わせるならシーナ。でいいかな?」
「はい、さすがはイチノ様。とてもいい名前だと思います」
「かしこまりました。名称をシーナ3号に設定します」
「なんで3号!?」
「ファミリス・ラリテイ様、ダイジロウ様もシーナ3号の名前をシーナと設定なさったので、区別するために3号と追記しています」
「まじか……みんなシーナって呼んでたのか。でも、さっき名前はないって」
「お二人は呼称としてシーナと呼んでいただけで、名前の設定はなさいませんでしたから」
そうか、わざわざ名前の設定をしなくても、勝手に呼べばよかったのか。
うわ、ちょっと恥ずかしいな。
でも、これってシーナ3号って、まるで1号、2号が別にいて、このシーナが3人目みたいな名前だからちょっと変な気もする。
「あの、イチノ様。ひとつ疑問なんですが、何故、全員が彼女にシーナと名付けたのでしょうか?」
「え? そりゃ、417はシーナって読む……ってあれ?」
違う、417をシーナと読むのは日本人だけだ。
アメリカ人なら417をシーナとは絶対に読まない。4を『シ』と読むのは、日本語だけ……だと思う。
どういうことだ?
日本人のダイジロウさんならシーナと呼ぶ理由はわかるが、この世界の住人の魔王がなんでそう呼んだんだ?
「ただの偶然……ってことはないよな。なぁ、シーナ。魔王について知っていることを教えてくれないか?」
「申し訳ありません。前マスターに関する情報はマスターにもお伝えすることはできません」
「……そうか、いや、悪い。まぁ魔王はお前にとっては親みたいなもんだからな。裏切れないか」
「いえ、そう命令をされているからです。あの我儘傍若無人魔王に関する情報ならば、本来ならあることないこと暴露したいくらいです。シーナ3号の事も作ってから百年以上放置していましたし」
「……え?」
無表情のまま辛辣なことを言うシーナ3号の言葉に、俺は耳を疑った。
てっきりロボットみたいな子だと思っていたのに。
「あることないこと暴露されたらどう判断していいか困ってしまいますね」
キャロが言った。
いや、そういう問題じゃないと思うんだけど。
今の話、ハルから聞く魔王のイメージとは正反対というか、全く違う気がする。
でも、まぁ八十年以上あれば性格も変わったりするんだろうか?
ていうか、魔王って何歳だったんだろ。
その後、俺はこの施設のある島の場所についても質問した。
ここは俺たちがいた西大陸の南、南大陸の西にある孤島であり、最寄りの大陸までは300キロはあるという。
300キロか……なんとか船で行ける距離だ。
詳しい位置を聞いてキャロが脱出計画を考えているようだ。
はぁ、俺がここに転移させられた理由はわからなかったか。
そうこうしている間に、モニターの中に魔物が現れ――そこに先ほど温泉にいたはずの猿たちが訪れて魔物を倒していった。
どうやら、ここの施設は罠だけではなく、あの猿も使って魔物退治を行っているらしい。
「おかしいですね。こういう島なら、こんなスピードで魔物が湧くとは思えないのですが」
「この島の近海を荒らしていた魔物が封印されています。そのため、瘴気が漏れ魔物が湧きやすくなっています。もしもシーナ3号がいなければ、この島は魔物の巣窟になっていた可能性が高いです」
あいかわらず彼女は無表情だが、どこかドヤ顔を決めている感じがする。
「もっとも、その封印もあと48時間以内に解けてしまいますが」
「…………え?」
「魔王ファミリス・ラリテイ様が倒されたあとも、世界の四ヶ所に張られていた礎による結界によって彼女が構築した封印は強固なままだったのですが、その結界の一部が解かれ、この島の魔物が復活するのです。ですから、この島を出るなら早めになさったほうがいいと思います。そうしないと――」
彼女は言った。
間違いなく、この島はその復活した魔物によって消滅するから……と。