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ハルたちの武道会①

 転移陣を使って一之丞がいなくなった。

 ほぼ同時に転移したはずなのに、ハルワタートとマリーナが転移した先の、隠されるように存在する転移陣。

 そこから一之丞だけが現れなかった。

 当然、戻ってみるが、ステラが言うには一之丞は確かに転移したという。


 一之丞の行方不明の事態に、ハルワタートの顔色が青くなる。彼女の嗅覚もまた、確実に一之丞が転移陣を利用したことを感知していたのもそうだが、隣でマリーナが、

「まさか、転移ワープ事故……確かにSF小説ではありきたりだが、しかしこの世界の転移陣は長きに渡り日常の中でも使われているはず……もしや、高次元生命体の干渉による強制転移? ブラックホールとホワイトホールのような一方通行型の転移だとすれば、イチノが戻ってこれないのも頷ける」


 とハルワタートにとっては意味の分からない単語の羅列を呟き続けていたこともあった。

 だが、そこでハルワタートがしたのは、自分の頬を叩くことだった。


 冷静にならないといけない。

 かつて、一之丞に与えられた自分の役目。パーティーが混乱しても、常に自分だけは冷静でいてほしい。

 それがハルワタートの心に理性の炎を灯す。


「ステータスオープン」


 ハルは緊張しながらそう呟き、そして安堵の息を漏らす。


「まず、ご主人様は生きています」


 ハルワタートは自分のステータスを見て言った。

 一之丞は第二職業Ⅱというスキルがあり、そのおかげでハルワタートはふたつの職業を装備できている。

 もしも一之丞が死んでいたら、速やかにこの状態は解除されるはず、ハルワタートはそう思った。


 一之丞が生きている。

 しかし、どこにいるのかはわからない。

 ハルワタートが冷静なのを見て、マリーナも冷静に考え始めた。


「……イチノなら大丈夫だろう。キャロルとピオニアがついている。最悪、どこにいようと食べ物には困らん」

「そうですね、キャロならきっとご主人様のサポートをつつがなくしてくれるでしょう……ですが、ご主人様が自力で帰ることができる場所にいるとは限りません。こちらから迎えに行く用意をしなくてはいけませんね」

「……確かに。まず、この転移陣について、過去に似たような事故がなかったか、ステラ、調べてもらえるか?」

「わ、わかったニャ。すぐに調べるニャ」


 ステラはそう言うと、四本足で駆け出した。

 

「我はこれからしばらく、転移陣を何度か往復してみる。もしも我がいなくなれば、転移陣は確率で暴走する可能性があると見てくれて構わん」

「お願いします。私は周囲の探索をしてみます。転移陣は基本、それほど遠くへは転移できないはずですから、もしもご主人様が近くに転移しているのなら匂いで探れます」


 こうして、ハルワタートとマリーナは別々に行動を起こした。

 だが――


「五百往復してみたが転移陣の暴走はない。明日、イチノが転移したのと同じ時間に転移してみるが、無駄だろうな」

「私も調べてみたけど、転移陣の事故はにゃかったニャ」

「ご主人様の新しい匂いはどこからも漂ってきませんでした。風上からの匂いなら一キロ以上離れていてもわかるのですが――」


 一之丞の捜索活動は一日目にして暗礁に乗り上げた。


「最後の手段でギルドに捜索願を出すしかありませんが」

「そうなると、我等の身柄は拘束されるだろうし、この転移陣の存在についても公にせねばなるまい」


 主人がいなくなって一緒にいた奴隷だけが無事。いなくなった原因が公表されていない転移陣の暴走。

 問題にならないわけがない。最悪、二人が一之丞を監禁している疑いをかけられる。

 そして、拘束されてしまえば、一之丞の捜索活動は行えない。


「一つだけ方法があるニャ」


 そう言ったのはステラだった。


ケット・シー族(私たち)の村には、王だけが使うことを許される秘宝があるニャ。そのにゃかに人を探すための魔道具があるのニャ」

「それを使わせてもらえばいいのですね」

「さっきも言った通り、王しか使えにゃい秘宝ニャ。王にゃき今、誰も使うことができにゃいニャ。マル兄ちゃんが王になったら使ってくれるかもしれニャいけど、ミッケは絶対に使わせてくれにゃいニャ」


 新たな王が誰になるかで大きく変わる。

 その状況を聞き、ハルワタートの意志は固まった。


「ステラさん、王様になってくれませんか?」

「にゃ、私は――」

「お願いします。私たちも微力ながらお手伝いしますから」

「……わかったニャ。でも、王を決める戦いは五対五の総当たり戦ニャ。マリーナはあまり強くにゃいそうだし、そもそも人数が足りにゃい」

「ジョフレたちに協力を頼むのは?」

「すでにミッケが選手登録してるから無理ニャ」


 ステラは首を横に振った。

 とすれば村の誰かを選手に据える。戦える人を。


「にゃんと六星さんたちはどうでしょう?」


 ハルワタートの問いに、またもや


「六人一組で選手登録してしまってるニャ。ひとりは補欠で。残りの戦える兵たちも本番は警備の仕事があるし、マル兄ちゃんへの恩もあるだろうから参加してくれにゃいニャ」

「……ならば、探しに行きましょう」

「選手登録の締め切りは明後日までだからフェルイトに行ったら間に合わにゃいニャ。コラットの町のほうがここからだと近いニャ。国境の谷もハルさんなら楽々越えられるニャ」

「ステラさん、案内お願いしてもいいですか? それと、マリーナさんは村に残ってください。馬車がない以上、走りだと私がステラさんを背負って走りますから」

「あまり無理はするなよ。ハルにもしものことがあればイチノが悲しむ」

「ちょっとくらい無茶はしますよ」


 ハルワタートはそう言うと、ステラを背負い、村の外へと駆けていった。

 国境になっている谷も幅は九メートルくらいあったが、ハルはステラを背負ったまま楽々と飛び越えていった。


   ※※※


 そして、ふたりはコラットの町に着いた。

 コラットは農業国であり、町なのに面積の九割は畑という少し変わった特色がある。

 また、牛や馬は畑仕事を手伝う大切な家族という扱いのため、牛肉や馬肉はほとんど食べない。食べるとしたら畑の作物を食べてしまう鳥の肉くらいだそうだ。それも全てキャロルから聞いた話なのだが。


「冒険者ギルドはどこにあるのですか?」

「……そんにゃもの、この町にはにゃいニャ。それがあったら、私はわざわざフェルイトの町まで冒険者を探しにいったりしにゃいニャ」

「そう言われればそうですね」


 それなら、どこで強い人を探そうか?

 そう思った時だった。


 懐かしい匂いを発見した。


「まさか――」


 ハルワタートは自分の鼻がおかしくなったのではないかと思った。

 なぜなら、ふたつの匂いは、こんなところにあるはずのない匂いで、しかも一緒にいるはずもない匂いだったから。

 それでも、ハルワタートはその奇跡に縋り、駆けていく。


 そして、その匂いの先、町の食堂の中に居たのは、


「本当にいた……」


 見知ったふたりの女性。

 ふたりもまた、ハルワタートを見て驚いていた。


「え? どうしてハルさんが?」

「久しぶりね。といっても三週間も経ってないんだっけ?」


 ふたりがハルを見て驚きながら口を開いた。

 そして、ハルは見つかった……と安堵した。


「お久しぶりです――」


 そこにいたのは、かつてフロアランスで出会った自警団の女性、


「ノルンさん」


 そして、マリーナの本当の主人である女性、


「カノンさん」


 そのふたりだった。

 フロアランスにいるはずのノルンと、そして北を目指すと言っていたカノンがどうしてここにいるのかはわからないが、ハルワタートはふたりに言った。


「お願いします、私に力を貸してください」

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