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盗賊のアジトへの侵入

 ノルンが死んでいる?

 そんな残酷な現実、受け止めろっていうのか。


 くそっ、そんなのないだろ。


 マーガレットさんになんて説明すればいいんだよ。


 ……あれ?


 この感覚……もしかして。


「あっちから、何か複数の気配を感じる。壁の向こうから。気配探知のスキルの効果か」

「ご主人様、狩人のスキルを持っていらっしゃるんですか?」

「ああ、まぁな」


 俺はそう言うと、ゆっくりと行き止まりの壁の方に歩いていく。

 ハルは、こっちに匂いが続いていると言っただけであり、ここで匂いが途絶えたと言ったわけではない。


「うわっ……」


 壁を押そうとして倒れてしまい――俺は気が付けば壁の向こうにいた。

 しかも、下半身は壁の向こう側に――そうか、これは幻の壁か。


 ということは、ここは秘密の隠し部屋というわけか?


 俺は立ち上がると、今、入ってきた壁を触ってみた。

 やはり触っている感じがまるでない。隠し通路で間違いない。


 と、その時だった。急に壁が柔らかくなり、とても気持ちよく


「あ……」


 ハルの声が近くから聞こえた。

 えっと、つまり、今のって――


「あの、ハル、ごめん、今のはわざとというわけではなく」


 と慌てて言ったところで、ハルは俺の口を塞いだ。

 そして――壁の向こうの、元の十字路の場所に連れて行った。ハルは俺の口を塞いだまま、 


「ご主人様、今日の成果も十分です! では戻りましょう!」


 と大きな声で叫んだ。

 え? 帰る?


 と思ったら、ハルは小声で俺に言った。


(ご主人様、静かにしてください)


 と小さな声で囁くように言った。

 そこで、俺はハルの今の声が、盗賊を油断させるための作戦だと気づいた。

 確かに、あれだけゴブリン相手に騒いでいたら、俺達がここにいたことは知られていただろうからな。

 とすれば、俺がここにいるとしたら、盗賊たちは緊張していることだろう。


(あそこが盗賊のアジトなのでしょうね)

(きっとそうだと思う。ノルンは無事だろうか?)

(血の匂いはしませんでした。まだ生きている可能性が高いと思います。敵の数はわかりますか?)

(敵かどうかはわからないが、角の曲がったところに3つ、奥に1つの気配がある)

(では、一度角の手前まで行って、中の様子を伺いましょう)


 ハルの提案に、俺は黙って頷いた。


 曲がり角の手前で、俺達は停止した。


 声が聞こえてくる。


「……行ったようだな、にしてもボスはまだ帰ってこないのかね」

「まだだろ。ったく、せっかくボスがやりたいって言ってた女を捕まえたってのにな」

「にしても、結構いい女だよな……先に味見しちまわないか?」

「馬鹿言え、そんなことやったらボスに殺されちまうぞ。ニクスの件、忘れたのか?」

「だったな。にしても新入りの二人は遅いなぁ、酒を買うのにいつまでかかってるんだよ」


 その後、三人の会話はその新人とボスの愚痴大会へと移り変わった。


 三人の会話を纏めると、どうやらノルンは無事のようだ。

 そして、盗賊のボスと新人二人は今はいない。


(三人の気配が手前、ノルンが奥にいるなら今がチャンスだ)

(はい、二人で同時に飛び出してスラッシュで攻撃をしましょう。その後は私が前で戦います)


 俺が頷くと、二人で同時に前に出て、


「「スラッシュ」」


 俺の剣が左の盗賊に、ハルの二本の剣が真ん中の盗賊と右の盗賊に命中した。


 だが、それでも全て致命傷には至っていない。ただ、ハルの剣で攻撃を受けた一番右の男が気絶した


【盗賊:Lv18】

【剣士:Lv9】

【弓士:Lv5】


「なんだ、敵襲か!」

「くそっ! タンジがやられた!」


 二人が騒ぐ。


「ハル! 真ん中が剣士レベル9、左が盗賊レベル18、今気を失ってるのがレベル5の弓士だ!」


 俺は職業鑑定で見た敵の職業とレベルをハルに告げる。


「なんだと! なんで俺達の職業が――ぐふっ」

「どこから情報が漏れたんだ――ぐふっ」


 えぇぇぇ、一瞬で倒してるんだけど。

 ハルってこんなに強かったの?


 剣士レベル23ってそんなにすごいの!?


 呆気に取られていたが、そんな場合じゃない。


「そうだ、ノルンさん!」


 ここは小部屋になっており、その奥に扉がある。


 俺はその扉を開けようとしたが――鍵がかかっている。


「ご主人様、どいてください!」


 ハルの声に従い俺が退くと、ハルが二本の剣で扉をぶち破った。


 そして――その扉の奥に――ノルンさんがい……い……ぶはっ。


 鼻血が、鼻血が……やばい。


 褐色の肌なのはわかっていたけれど、あそこはあんな色に……って見たらダメだ!


「は、ハル! これ、これを彼女に!」

「わかりました!」  


 俺はアイテムバッグから予備として買っておいた綿の服の上下をハルに渡す。


 ……パンツだけはそのままでよかった……と思っておこう。


 そうだ、ノルンの持っていた槍はどこだ?

 とりあえず、アイテムを物色しておこう。


 気絶した盗賊たちの武器は回収させてもらう。

 盗賊の男は短剣、剣士の男は鉄の剣、弓士の男は弓と矢筒、全部回収しておこう。


 アイテムバッグに入れていく。

 にしても槍は本当にどこだ?


 あと残っているのは洗濯物くらいで……ってあ……。


 おいおい、誰だよ、ノルンの槍を洗濯物の物干し竿代わりに使った奴は。

 とりあえず、汚い着替えは全部処分して、槍はアイテムバッグに入れておこう。


「さて、これで帰るだけ……ぐっ」


 俺が呟いた時、悪寒が走った。


「ハル! 何かがこっちに来る!」

「まさか、敵のボスが帰ったのですか!」


 敵のボス、その響きに俺の緊張感が一気に跳ね上がる。


 い、いや、こっちにはハルもいる。二人がかりで戦えばなんとかなるだろう。


「おい、今帰ったぞ! おい!」


 髭面の巨漢の男が入ってきた。

 斧を持った大男だ。


「ん? なんだお前等――ん? おい、アンドーグ! ポントーク! タンジ! くそっ、お前らがやったのか!」


 大男がこちらを見る。

 そして、俺はその職業を見た。


【山賊:Lv14】


 山賊? 盗賊みたいなものかな。


(山賊レベル14だ……ハル、勝てるか?)


 俺は小声でハルに告げる。


 ハルのほうがレベルが高い。なんとかなるだろう。

 そう思った。だが、


(いえ……山賊はレベル20以上の斧使いが大罪を犯した時になることができる上位職業です……その強さは剣士以上、私達に勝ち目は薄いです)


 ……嘘、だろ?

 ならば、なんとかごまかせないか?


「あ、あぁ……実はみんな酔いつぶれてしまったみたいで、あはは」


 俺が笑って言う。笑って言いながら、これはダメだと思った。


「ん、男一人、女一人……おぉ、そうか。お前等がうちの盗賊団に入ったという新入りか。そうかそうか」


 ……え? 嘘だろ?

 それで誤魔化せるの?

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