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ミリの冒険⑧

 長い長い滑り台だった。

 途中で十四カ所の別れ道があり、ハズレを引けば即死の罠が待ち受けている。

 おそらくは、製作者の安全策だったのだろう。

 自分が間違えて落ちてしまったときのための安全策。正解の道は、右、左、右、左とわかりやすくなっていて、最後だけ右、右と法則を変えている。

 もちろん、滑っている人間には、そんな答えはわからないだろう。もしも何も考えずに滑り落ちて正解の道にたどり着けるとしたら、一万六千三百八十四分の一の幸運の持ち主ということになる。


 ちょっとした粗相の後、気を失ったノルンを闇の縄で結んで、引っ張りながら正しい道を進んでいく。


(でも、妙な感じね。一度、この道を誰かが通ったみたい)


 あと、迷宮を利用しているということは、少なくとも女神教会が関係しているとみて間違いない。


(元々は私の力ではなく、別の何かを封印していたのかも)


 と考え事をしている間に、ミリとノルンは目的の場所にたどり着いた。


「相変わらず小生意気な姿をしているわね。ツインテールとか、私と髪型かぶってるし」


 苦虫を噛み潰したような顔で、ミリは女神像を睨み付ける。

 おにいの転生のきっかけを作った二柱の女神のうちの一柱、トレールールの女神像がそこにあった。


「うぅ……ぎぼぢわるい……え? トレールール様?」


 ノルンは目を覚まし、トレールールの女神像を見て頭を下げる。


「ノルン、祈るのは後にしなさい。今祈っても――」

「いたっ」


 ミリの注意の甲斐もなく、ノルンの頭の上にタワシが落ちてきた。


「え? 迷宮踏破のたわし……?」

「ハズレはまだ亀の子タワシなの……全く、女神もこんなのハズレにするくらいなら、大当たりは車にしなさいよね」


 そして、ミリはトレールールの像を睨み付ける。

 どのタイミングで祈っても、タワシが落ちてくる未来しか見えない。


「……タワシなんていらないのよ。ちゃんとしないと怒るわよ」


 ミリは押し殺した声で、女神像に向かって言う。


「み、ミリちゃん、どういうこと?」

「トレールール、面倒がって全員にタワシを渡そうとしているのよ」

「そんな、トレールール様が……あ、トレールール様ならあり得るのかな」

「ふぅ、やっとまともになったわね」


 ミリはそう言うと、女神像を睨み付ける。その仕草は祈っているとは到底言えないが、


【称号:迷宮踏破者Ⅱが迷宮踏破者Ⅲにランクアップした】

【クリア報酬スキル:MP節約を取得した】


 消費MPを節約するスキルだ。

 これでミリは今まで以上に大きな魔法を使うことができる。


「じゃあ、帰りましょうか」

「そうね。じゃあ、ミリちゃん、帰ろうか……ってあれ? 扉が開かないんだけど」


 ノルンが扉を必死に押して開けようとするが、びくともしない。


「無理よ。女神像の間はボスを倒さないと開かないの、忘れたの?」

「あ、そうでした。じゃあ、早くボスを倒すために――って、あれ? ミリちゃん、ボスを倒すのにはこの扉を開けないといけないんじゃ……あれ? じゃあ、私達は他の誰かがボスを倒すまでここで待たないといけないの?」

「そんなわけないでしょ。忘れたの? 私の魔法を――」

「あ、そうでした。流石ミリちゃん!」

「はぁ……じゃあ出ましょ。『脱出エスケープ』!」


 気が付くと、ミリとノルンは町の真ん中にいた。

 突如として現れた形になるわけだが、幸い、誰も彼女達が現れるところを見ていなかったようで(迷宮が町外れにあるのも幸いした)、特に問題になることはなかった。


「あ、ベラスラの町ですね。私も一度来た事がありますよ。よかったら案内しましょうか?」

「そうね……賭場に行きたいわ。あ、でもその前に冒険者ギルドでお金を工面しないといけないわね」

「お金? ミリちゃん、何かお金になるもの持ってるの?」

「ええ。絶対に高値で売れるものがあるわ」


 ミリはそう言うと、空間魔法を使い、そこにある高値で売れる物を取り出した。


   ※※※


「こ、これはなんと見事な毛皮。いっ、いったいこれをどこで手に入れたんだ、嬢ちゃん?」

「道中で珍しい狼の死体を見つけてね。真新しい死体だったからその場で毛皮だけ剥ぎ取らせてもらったわ」

「そ、そうか」


 営業スマイルすら浮かべなかった男だが、ミリが持ち込んだ純白の毛皮を見ると顔色を変えて査定を始めた。

 査定を進めるにつれ男の顏色は見る見る赤く染まっていく。


「肉や牙はどうした?」

「毛皮を剥ぎ終えたときに、巨大な蛇が出て来て飲み込んで行ったわ」

「…………そうか」


 ミリの話を信じたかどうかはわからないが、男は神妙な顔になり、


「そうか、それは残念なことをしたな。その狼はフェンリルっていう幻獣の一種でな、毛皮も貴重だが、その牙一本でもあれば100万の値がついたかもしれんのに。代金だが」


 男は金貨一枚と銀貨百枚を出す。


「金貨……凄いね、ミリちゃん」


 ミリの後ろでノルンがはしゃぐが、ミリの顔色は優れない。


「舐めてるの?」

「そうじゃねぇ。査定額は30万センスだが、そんな大金すぐに用意できるか。残りの28万センスはお前のギルドカードの口座に入れておいたから、一日2万センスを限度に引き出してくれ」


 そう言って、男は振り込み証明書を渡す。


「まぁ、2万センスあれば十分かしら。じゃあ、ノルン、賭場に行くわよ」

「え……と、普通に遊ぶために賭場に行く……んじゃないよね?」

「もちろんよ」


 ミリは久しぶりに無邪気な笑顔で言った。ただし、その無邪気な笑顔は、多くの人を不幸にする笑顔なのだが。


(おにいとこの世界で平和に暮らすためには、最低でもこの2万センスを一万倍くらいに増やしておきたいし)


 賭場で稼がせてもらおうと、ミリはほくそ笑んだ。 

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