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ミリの冒険⑦

本日2話目です。

 月夜に照らされ、南下するひとつの影があった。

 それは馬よりも速く、そして馬よりも大きな影。街道では目立つため、木々の間を縫うように突き進む。

 その巨大な影に乗っている彼女はまるで木が避けているようだと思った。

 いくら揺れが少ないとはいえ、現代日本という優れた科学技術が発達した世界の乗り物に慣れた彼女にとっては快適とは言い難い。

 時速にして約100キロ。木々を縫うように進む速度としては異常な速さだ。

 それを証拠に、彼女の後ろにいる同乗者の顔色は非常に優れない。


「私の背中に吐いたら殺すわよ……吐くなら横を向いてしなさい」


 彼女――ミリは後ろにいる同乗者――ノルンを睨み付けて言う。

 だが、ノルンはそれに答えることができない。口を開けようものなら言葉とは異なる混合物質が口から溢れ出してしまうからだ。

 彼女達が乗っている白狼、フェンリルはそれを聞いて速度を緩めようとする。自分の背中の上で吐かれたらたまったものじゃないと思ったのだろう。だが――彼女の主人であるミリがそれを許さない。


「何、私に断りもなく速度を緩めてるの?」


 ミリのその一言にフェンリルの速度はさらに増し――ノルンがダウンするまでの時間はさらに短縮することになった。


 そして三十分後。


 後ろを見ると、ノルンの顏が真っ白になっていた。かろうじて息はしているが、もう吐く力も残っていない顔になっている。

 それを見て、ミリは小さく息を漏らすと、


(ここまで来ればもう吐かれる心配はないわね)


 そう思い、さらに一時間、フェンリルを走らせ続けた。

 ノルンが意識を手放してもミリの小さな体を抱きしめ続けていられたのは奇跡だと思う。

 少しでも手を緩めたら、ノルンの体は振り落とされてしまい無事では済まなかっただろう。


「着いたわよ」


 ミリはそう言って、ノルンを降ろした。フェンリルは邪魔なので空間魔法を使い、亜空間に収納することにした。

 空間魔法の収納の利点は、物だけではなく、生物までも収納することができることだ。ただし、亜空間にしまっているものは全て同じ場所にあるため、


「中にある物に触ったら殺すわよ」


 と命令をすると、フェンリルは「くぅ~ん」と子犬のようにたじろいだあと、頷いた。そして、ミリはフェンリルを亜空間にしまう。

 さて、ノルンはどうしたものかとミリは思った。

 彼女も亜空間に収納したほうが楽なのだが、中にあるものを見られるのはあまりよくない。

 もうこのままここに放置して、先に調べ物を済ませようかと思って歩くと、


「……う……ん」


 とノルンからうめき声が聞こえて来た。目を覚ましたようだ。


「ノルン、着いたわよ」

「え? ミリちゃん、着いたってここ……ベラスラじゃないわよね?」

「ちょっと気になる場所があってね。ついてきてもいいけど、何も触っちゃダメよ」


 ミリはそう言うと、地層のある崖に向かった。

 そして、その地層を入念に調べていくが、暗くてよくわからない。

 そのため、彼女は闇の糸を網状にし、地層全体を防護ネットのように纏わせた。


 そして、ミリはそれを見つけた。


「ここね」


 そこは一見なんの変哲もない壁。

 だけど――手を当てて見ると、


「ミリちゃん、手が――っ!」

「吸い込まれるわね。迷宮の中の隠し扉によく使われている幻想壁よ」

「……あぁ……あれね」


 ノルンは少し前のことを思い出し、嘆息した。

 彼女が盗賊に捕らえられたことがあり、その盗賊のアジトが幻想壁の中にあった。捕らえられている間はずっと意識を失っていたが、後日、自分が捕らえられている場所を見に行った時に幻想壁を知ったわけだ。


 その時のことを思い出した。


「じゃあ、ここは迷宮なの?」

「たぶん……ね」


 ミリは闇の網を回収し、中へと伸ばした。

 それで、魔物はいないことを確認し、今度は中に入る。


「あ、ミリちゃん、ちょっと待って!」


 ノルンが後に続いた。


 そして、ミリとノルンは絶句した。

 なぜなら、そこにあったのは、これみよがしに台座に収まった剣と、そして、白いインクで壁に大きく書かれた謎の文字。


【ケンタウロス迷宮へようこそ!】


 ケンタウロス。

 人の体と馬の胴を持つ神話上の動物。この世界、アザワルドにも昔はいたらしいが、ミリが……いや、ミリの前世であるかぐやがこの世界にやってきて間もなく、彼女と遭遇する前に絶滅したと聞いた。


(この迷宮は、そのケンタウロスと何か関係があるの?)


 もともと、ここに来たのは、ここが彼女の力を封印している場所のひとつだったからだ。

 どこの誰が封印を解いたのか、そして他の封印の場所の手がかりがあるかと思って訪れたわけだ。


 封印が解けたため、ここだけは魔力の流れからわかったわけだ。


「文字の年代は比較的に新しい……ケンタウロスと私の封印に何か関係があるということ?」

「……あれ? この字、どこかで見たような気がするんだけど」


 ミリとノルン、ふたりがこの文字について深く考える。

 ちなみに、今正解に近い方にいるのはノルンであった。


 というのも、ノルンが見た覚えがあると言ったこの文字は、ジョフレの文字である。

 この迷宮を発見したジョフレとエリーズが、ジョフレ迷宮にするかエリーズ迷宮にするか話し合った挙句、最終的に、この迷宮の発見者であるケンタウロス迷宮にしよう! となり、この文字を書いたわけだ。


「ミリちゃん、この剣、何かしら?」

「その剣は罠よ。抜いたら床に穴が空くわ。まぁ、そんな古典的な罠にひっかかるバカはいないと思うけ……ど」

「……あ、ごめん、ミリちゃん」


 振り向いたミリが見たものは、剣を引き抜いたポーズのまま立ち尽くしていたノルンと、そして抜ける穴だった。

 真っ逆さまに落ちるミリとノルン。だが――


「言ったでしょ、こんな罠に引っかかるバカはいないって」


 ミリの体から伸びた闇の糸は蜘蛛の巣状に天井に張り付き、開いた穴に落ちずにいた。


「あ……ありがとう、ミリちゃん」


 罠にひっかかるところだったノルンは、闇の糸にぐるぐる巻きになり吊るされていた。


「まぁ、そろそろ床も戻るから暫く待って……ん?」


 ミリはふと気になり、闇の糸を伸ばした。

 どこまでも伸びていく闇の糸……そして、その先にある空間を見て、彼女はほくそ笑む。


「そういうこと……」


 ミリは天井にくっつけていた闇の糸を剥がし、闇の底へと落ちていった。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」


 ノルンの悲痛な叫び声だけを残し、ケンタウロス迷宮は元に戻る。


 その先に続いているのはとても長い滑り台。

 カーブが多く続く滑り台であり、お尻が少し痛くなること以外は何も問題ないのだが、ミリは忘れていた。

 ノルンが先ほどまでフェンリルに揺られ続けて、グロッキー状態だったことを。


「もう……限界……うっ」


 その後、何が二人を待ち受けていたのか、それはノルンの名誉のために記さないでおく。

ノルンちゃん、憐れキャラに。実は彼女のことがかなり好きな作者だったりします。

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