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マタタビワインを作ろう

 それにしても大きな木だ。太陽はないが、うっすらと空全体が光るこの世界。

 そのため、木の下には薄い影ができあがっている。

 さっそくマタタビを採ろうかとも思ったが、やめておくことにした。


「ニャニャっ! この木はどこから現れたのニャっ!?」

「凄いですよね。これがイチノさんの力なんですよ」


 頬ずりされていることを無視するようにステラが驚き、頬ずりしていながらマリナが言う。普段のマリナとはくらべものにならない饒舌ぶりだ。


「ここでは植物の生育速度を早めることができるんだ」

「だけど、普通の場所じゃ伝説のマタタビの樹は育たにゃいはずにゃのに……」


 そうなのか? そういえば、確かにあのマタタビの樹があった場所は特殊だったよな。

 天井を水晶が覆っていた。


「あの場所の天井は、太陽が出ている時間にゃら一日中真上から光が降り注ぐ仕組みににゃっているだけでにゃく、夜も月の光を集めて植物の成長を促す場所にゃのニャ」

「そんな場所だったのか……たしかに明るかったけど……それにしては、他の植物が少なかった気がするが」


 俺の問いに、ピオニアが屈んで枯れた草を見て言った。


「この木が他の植物に渡るはずの栄養まで奪ってしまうからでしょうね」


 あぁ、なるほど。と俺は足下を見る。

 この樹の周りの草が枯れてしまっている。


「王は民草のエネルギーを吸いとって成長するってことか」

「王はそんにゃことするようにゃお方じゃにゃいニャ!」

「わ、悪い。そういう意味じゃないんだ。俺はそういう王様もいるなって話でな」


 ステラに怒られた。彼女にとって王は父親だからな。


「つい怒ってしまったニャ。ごめんにゃさいニャ」


 俺が反省したら、ステラが頭を下げた。


「じゃあ、早速マタタビの実を採ってくるニャ」

「いや、ステラが取りに行ったら危ないだろ。下手に木の上で酔ったりしたら落ちてしまうからな。それに、採取はキャロに任せようと思う……だけど……」


 俺は予備で買っておいたマリーナがいつもつけているマスクに似たものを取り出して、マリナに着けた。


「イチノよ、マスクであればなんでもよいというわけではないんだぞ? 我がカノンから授かった仮面は特殊な力が込められたもので」

「いいじゃん、出て来てるんだし。このマスクも特殊なマスクだからな」


 マリナがマリーナに変わった。ちなみに、特殊なマスクではなく、本当に普通のマスクだ。


「おっと、ステラ、すまない」


 マリーナはステラを解放した。

 そして、俺は、魔弓ではない普通の弓と矢筒を取り出す。


「ロビンフッドみたいな芸当だが、できるか?」

「うむ、我の心眼に射抜けない的はない。余裕だ」


 頼もしいセリフだな。心の眼で一体何を見るのかはわからないが、マリーナの弓術の腕は俺たちの誰もが認めるところだ。


「ところで、イチノよ。何個落とせばいいんだ?」

「そうだな、とりあえず三つ頼む」

「うむ、承知した」


 マリーナは矢筒から矢を一本取り出した。

 おや、てっきり3本の矢を取り出して、一度に三つを射落してドヤ顔を浮かべるのかと思っていたが、堅実に行くようだ。

 まぁ、大事な実だし、傷つけたらいけないと思ったのだろう。


 俺がそう思ったその時――マリーナの目に一点の光が灯った――気がした。


 その時、彼女の矢が飛ぶ。


(――糸っ!?)


 俺の目は矢尻につけられた糸の結び目を見逃さなかった。

 そして、矢を放った瞬間、いつの間にかマリーナの手が後ろに行っていることにも気付いた。


 はじめてマリーナが俺に見せた大道芸をもう一度見せてくれるのか?

 このタイミングで?


 矢が見事にマタタビの付け根の部分を撃ち抜いた。

 マタタビの実が落ちてきて、俺の手の中に納まった。そして、矢ははるか彼方に飛んでいく――かと思ったら大きく旋回して戻ってくる。


(一体、どうやれば糸であんなふうに矢を操れるんだよ)


 大道芸ってもしかしたら当たりの天恵なんじゃないか?

 絶対に超人クラスの技術だ。


 

矢は真っ直ぐ戻ってきて、ふたつのマタタビの実の付け根を撃ち抜いて、それぞれステラとマリーナの前に落とした。

 最後に、矢は蓋をあけたままにしている矢筒のなかに突き刺さるように落ちて来て、すっぽりと収まった。矢筒は倒れない。


 これで驚かない人はどうかしていると思う。

 矢筒が倒れていないのだ。そんな風に倒れない理由はほぼ真上から矢が入らないと無理だ。

 しかも、矢筒には他にも矢が入っている。

 それなのにすっぽりと矢筒に収まるとか。


「マリーナ、腕を上げたんじゃないか?」

「うむ、やはり弓矢装備のスキルがあるからな。しっくりくる感じがある」


 なるほど、その影響か。普通、装備は専用のスキルがないと使えないはずなのに、マリーナはそれを無視して弓矢を見事に操っていたからな。


「じゃあ、さっそくこれを酒にするか……ってあれ?」


 ってあれ? いつもならここでステラが「凄いニャ、凄すぎるニャ!」とか言いそうな気がしたが、やけに静かだなぁ。と思ったら、ステラの奴、


「うみゃぁぁぁん」


 マタタビの実を抱きかかえ、仰向けに倒れて色っぽい声をあげていた。

 マタタビの匂いにやられたようだ。


「ご主人様、只今戻りました……あれ? ステラはどうしたのですか?」

「マタタビにやられたようだ。弱ったな、マタタビ酒の作り方を聞いてみようと思ったのだが……と、そうか。カノンがもともとマタタビ酒を作ったのなら、マリーナも知ってるんじゃないか?」

「うむ、知っている。カノンは、マタタビ酒を、ホワイトリカーのなかにマタタビを漬け込んで作っていた」


 ……ホワイトリカーって、焼酎の一種だったか。そんなもの持ってないぞ。

 そう思ったら、


「マスターイチノジョウ、マタタビの糖度があれば、このままでもお酒を造ることができます。ワインの酵母と花の蜜を使いましょう」

「……可能なのか?」

「肯定します。お任せください」


 ということで、マタタビワイン造りを始めることになった。

 ちなみに、発酵に数週間かかるというのだが、なんと発酵もまた植物の成長であるということで、MPを使って一瞬で発酵することができるらしい。正確にはアルコール度数を保つのに花の蜜を加える作業の間は成長を止めないといけないから本当に一瞬というわけにはいかないし、発酵前の下拵えもあるから、とりあえず、五時間はかかるらしい。

 いや五時間で酒を造ることができるのなら、大したもんだ。


「それで、ピオニア。詳しくはどうやって造るんだ?」

「それは――」

それは――


次回はいきなりマタタビワイン完成しています。

え? 何故って?

勝手にマタタビワインを作るのは犯罪ですから、一応です。

この小説は、ハローワークには喧嘩をうっているかもしれませんが、

お酒の密造の手助けすることはありません。


ちなみに、マタタビワイン……あまりおいしいものじゃありませんね。


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